作品タイトル不明
EP 3
【兵站】「運び屋」リーザの誕生と、最悪のレーション
損害賠償という名の「一撃5000金貨の罰金」を食らい、魔導ライフルも魔法も封じられたルナミス・レオンハートの両軍。
彼らは石畳の広場で、疲れ果て、膝を抱えて項垂れていた。
「……腹が、減った」
黒豹耳の団長ハガルが、力なく呟いた。
「ああ……。朝から何も口にしていないからな。だが安心しろ、先ほどニャングルの店で『 戦闘糧食(レーション) 』を各軍100食ずつ注文しておいた。間もなく届くはずだ」
ルナミスの近衛騎士団長キュロスも、胃の痛みを堪えながら答える。
【ルール③:物資はすべてポポロ商人から金で買わなければならない】
両軍は渋々、ニャングルのぼったくり価格で食料を購入していた。
しかし、彼らにはもう一つの致命的なルールが課せられていることを、この時の疲労困憊のエリートたちは失念していたのだ。
「♪お待たせしましたぁー! ポポロ・イーツのデリバリーですぅー!」
軽快な鼻歌と共に、ガラガラと巨大なリヤカーを引いてやってきたのは、芋ジャージに健康サンダルを履き、腕に『ポポロ村公式バイト』の腕章を巻いた人魚姫リーザだった。
「おお! 来たか! 待ちわびたぞ!」
ハガルが立ち上がり、リヤカーに積まれた見慣れたレーションの箱に手を伸ばそうとした、その瞬間。
「あっ、ストップストップゥ! 手を触れないでください!」
リーザが、リヤカーの前に立ち塞がり、両手でバッテンを作った。
「なんだと? それは俺たちがニャングルから買った食料だぞ!」
「ええ、代金はお支払いいただいたと聞いてますぅ。でもね、ハガルさん」
リーザは、ジャージのポケットから分厚い『ルールブック』を取り出し、ポンポンと叩いた。
「【ルール④:武器、弾薬、弁当の荷運びは『ポポロ村バイト』に一任する】……これ、読んでません? つまり、私がこの荷物を皆様の陣地まで『運搬』しない限り、皆様は受け取れないんですぅ」
「な……っ!? なら、早くそこへ降ろしてくれ!」
「ふふふ。タダ働きなんて、アイドルはしませんよ?」
リーザが、親指と人差し指で円を作り、いやらしく擦り合わせた。
「『運送料』として、荷物1個につき銀貨1枚(1000円)いただきます♡ 各軍100食ずつだから……えーと、それぞれ『金貨10枚(100万円)』の配送料になりますね!」
「なっ……!? ここから陣地まで、たった数十メートルだぞ!? それを運ぶだけで金貨10枚だと!?」
キュロスが血相を変えて怒鳴る。
「嫌なら自分たちで運んでもいいですよぉ? その代わり、ルール違反で『即・失格(ガオガオンのレーザー直撃)』になりますけど。どうしますぅ?♡」
リーザの顔が、完全に「底辺の生活から抜け出し、権力者を合法的に搾取する悦び」に歪んでいた。
泣く子も黙る大陸最強の兵士たちが、パンの耳を主食とする極貧アイドルに完全に足元を見られているのである。
「くっ……! 払う! 払うから早くメシを寄越せ!!」
空腹とレーザーの恐怖に負けた両指揮官は、泣く泣く追加の金貨をリーザに支払った。
「まいどありぃー! 御縁(五円)に感謝ですぅー!」と歌いながら、リーザは荷物をドサリと下ろした。
◇
「さあ野郎ども、食え! 罰金で予算は厳しいが、士気を保つために最高級の『Modulo型』を買ってやったぞ!」
ハガルの号令で、レオンハートの兵士たちが歓声を上げてレーションを開封した。
中に入っているのは、分厚いロックバイソンのレアステーキに、強命酒「ライオン・ハート」。
彼らは「運送料はクソだが、メシは最高だぜ!」と肉に噛み付き、酒を煽って野生の活力を取り戻していく。
一方、ルナミス陣営は、お通夜のような暗さに包まれていた。
「……キュロス団長。この配給された箱は、一体……」
副官が、震える手で持ち上げたのは、帝国軍の糧食の中でも最も悪名高い『MRE型』。
しかもその中で最悪とされる【Menu No.13:豚神屋・濃縮ペースト(通称:飲む二郎)】だった。
「……すまない。罰金5000枚の損失をカバーし、さらにあの法外な運送料を払うためには……一個・銅貨5枚で買える、この最底辺のレーションを選択するしかなかったのだ……」
キュロスが、ギリッと唇を噛み締めて懺悔した。
『飲む二郎』。
それは、二郎系ラーメンのスープ、アブラ、ニンニク、チャーシューを全て粉砕し、高粘度の泥のようなペースト状にした、狂気の代物である。
「食え! これも帝国への忠誠(と予算削減)のためだ! アブラの輝きは帝国の輝きである!!」
キュロスの悲痛な叫びに、帝国兵たちは涙を流しながらパウチの端を切り、その「茶色い絶望」を口に含んだ。
「お、おぇぇぇぇ……っ! に、ニンニクとラードの塊が、ダイレクトに食道を……!」
「不味い……不味すぎる……っ! だが、不思議と体の奥底から暴力的なまでの活力が湧いてくるゥゥ……!」
物理的に胃袋を破壊されながらも、無理やりカロリーと闘気を注入されるエリート兵士たち。
その地獄絵図を、リヤカーに座ったリーザが、自分の昼飯である「パンの耳(無料)」をかじりながら、不思議そうに眺めていた。
「エリート軍人さんって、大変ねぇ。あんな泥みたいなの啜って涙流してるわ。……モグモグ、やっぱりタローソンの廃棄パンの耳が一番美味しいわね!」
金貨数万枚を動かす戦争の裏で。
勝者は美味しいお肉を食べ、敗者は泥(飲む二郎)をすすり、そして一番儲かっているのは「運び屋の極貧アイドル」であるという、資本主義のバグのような光景がポポロ村に広がっていた。
しかし、両軍の地獄はまだ始まったばかりである。
軍資金の枯渇という「死の足音」は、彼らをさらなるブラック労働の泥沼へと引きずり込もうとしていた。