作品タイトル不明
第二十三章 ポポロ村・特別代理戦争
【開戦】金貨2万枚の軍資金と、笑う猫耳商人
アナスタシア世界において、ルナミス帝国とレオンハート獣人王国は、長年にわたり冷戦状態にあった。
その両国の緊張をガス抜きし、かつ「どちらが上か」を白黒つけるため、中立地帯である『ポポロ村』を舞台にした【特別代理戦争(模擬戦)】が開催されることとなった。
快晴のポポロ村・中央広場。
そこには、大陸最強と謳われる二つの軍隊が、バチバチと火花を散らしながら対峙していた。
「……獣の臭いが鼻につく。これだから野蛮な毛玉どもは困る」
ルナミス帝国軍・100名の精鋭を率いるのは、近衛騎士団長キュロス。
隙のない軍装に身を包み、鋭い眼光で相対する敵将を睨みつける。彼の背後には、最新鋭の魔導ライフルを構え、一糸乱れぬ規律を保つ帝国兵たちが控えている。
「ふん。100円ショップの安物に頼りきったヒョロガリどもが。貴様らのその鉄クズ、俺の爪でスクラップにしてやるよ」
対するレオンハート獣人王国軍・100名の精鋭を率いるのは、黒豹耳の騎士団長ハガル。
全身から立ち上る凶悪な闘気と、いつでも喉笛に食らいつかんとする野生のプレッシャーが、広場の空気をビリビリと震わせていた。
一触即発。
今にも両軍が激突しそうなその空気を、パンッ! という乾いた柏手の音が切り裂いた。
「はいはい、そこまでですわ。血気盛んなのは結構ですが、まずは『ルール説明』が先ですわよ?」
両軍の間に歩み出てきたのは、パリッとしたタイトスカートのスーツを着こなす、ポポロ村の法務担当・桜田リベラだった。
彼女はバインダーを開き、極悪……もとい、美しい笑みを浮かべて両軍の指揮官を見据える。
「これより、ポポロ村・特別代理戦争のレギュレーションを説明いたします。勝利条件はただ一つ。『相手陣地に隠された重さ50kgの旗を奪い、自陣で24時間キープすること』。以上です」
「ふむ、単純明快だな(戦争論)」とキュロスが頷く。
「獲物を狩り、巣に持ち帰る。獣の基本だ」とハガルも牙を見せて笑う。
「ただし」
リベラの眼鏡が、キラリと光った。
「ここは中立地帯ポポロ村ですわ。村の一般市民や商人に危害を加えた場合、**『ガオガオン条約・第1法(民間人への明確な悪意)』**が適用され、上空で待機している聖獣機神ガオガオンから即座に『炎の鉄槌』が下り、その場で消し炭(失格)になります」
「「っ……!」」
キュロスとハガルが、思わず上空を見上げる。雲の隙間から、黄金のメカライオンの瞳がギロリとこちらを睨んでいるのが見えた。大陸最強の兵士たちに、冷たい汗が伝う。
「さらに、村の建造物や畑への『損害賠償』は、後ほどきっちりと請求させていただきます。……さて、ここからが一番重要ですわよ」
リベラは、両軍の足元に置かれた大きなジュラルミンケースを指差した。
「本国から皆様に支給された初期軍資金は、両軍ともに『金貨2万枚(2億円)』のみ。本国からの追加支援、物資の持ち込みは一切禁止。両軍の初期装備は『魔導ライフル、9mm拳銃、手榴弾』のみとします」
「金貨2万枚か……。たかだか100人の模擬戦だ。弾薬と飯を調達する分には、十分すぎる額だな」
キュロスが計算を終え、余裕の表情を浮かべる。
「ああ、俺たちの『Modulo型レーション』を腹一杯食っても、お釣りが来るぜ」
ハガルも鼻で笑った。
「ふふっ……果たして、そうでしょうか?」
リベラがウインクをした瞬間。
「まいどぉ!」というコテコテの関西弁と共に、派手な虎柄の羽織を着た男が、黄金の算盤を弾きながら姿を現した。
「ワイはポポロ村・財務担当のニャングルや! ポポロ商会へようこそ! ルール③に基づき、お宅らの弾薬から今日の晩飯まで、全部ワイのところから『金』で買うてもらいまっせ!」
ニャングルは、猫耳をピクピクと動かしながら、両軍の指揮官の瞳孔の開き具合(懐具合)を『神眼の動体視力』で瞬時に値踏みした。
(へっへっへ……天下のルナミスとレオンハートのエリートさんや。プライドが高くて、金に糸目はつけへん顔しとるわ)
ニャングルは、ニチャァ……と邪悪な商人の笑みを浮かべ、巨大な『価格表』のボードをドン! と突き立てた。
【ポポロ商会・本日の特売品】
魔導ライフル用・予備マガジン(1個): 金貨10枚(100万円)
ルナミス軍戦闘糧食2型(1パック): 金貨5枚(50万円)
レオンハート軍Modulo型(1箱): 金貨8枚(80万円)
100均のトイレットペーパー(1ロール): 銀貨5枚(5000円)
「……は?」
キュロスの動きが、完全にフリーズした。
「おい、ちょっと待て! 弾倉一つが金貨10枚だと!? 通常の100倍の値段じゃないか! ぼったくりにも程があるぞ!」
ハガルが怒りで牙を剥く。
「いややわぁ、お客さん。ここは『戦地』のど真ん中でっせ?」
ニャングルは煙管を吹かしながら、黄金の算盤をチャッチャカと弾いた。
「需要と供給のバランスっちゅうやつや。嫌なら買わんでもええんですよ? 弾も撃たず、飯も食わず、ケツも葉っぱで拭いて、素手で戦ってくれはってもワイらは一向に構いまへん。……あ、でもガオガオン条約があるさかい、ワイらを脅して奪うのは無しやで?」
「ぐっ……!」
「貴様……ッ!」
キュロスとハガルの背筋に、氷を当てられたような悪寒が走った。
金貨2万枚。通常なら一個大隊を1ヶ月維持できる大金が、このポポロ村のイカれた 物価(ハイパーインフレ) の前では、数日すら持つか怪しい「小銭」に過ぎないのだ。
「おおきに! ほな、まずは今日の晩飯と予備弾薬、ナンボほど買っていきまっか~?」
資本主義の権化たる猫耳商人の笑い声が、広場に響き渡る。
銃弾が一発も撃たれる前に、両軍の指揮官のHP(精神力)は、すでに半分近く削られていたのだった。