作品タイトル不明
EP 10
【オチ】勝者のいない村(カイトの説教)
「利確ゥゥゥ!! 利益確定ボタン、プゥゥゥッシュ!!」
カイト農場の縁側で、貧乏神リーザが狂喜の叫びとともにファミコンの『SELL(決済)』ボタンを力強く叩き込んだ。
『ピロリン♪(全ポジションを決済しました)』
ホログラム画面に、【総利益:金貨15万枚(約15億円)】という、極貧アイドルには一生縁のないはずの天文学的な数字が輝く。
「勝った! 勝ったわ! 私、大富豪よォォ! これでタワマンも、お城も、キャビアのプールも私のものォォ!!」
リーザが感涙にむせびながらバンザイをした、まさにその直後だった。
『ピピッ。ここから各種手数料及び利息を引かせていただきます』
無機質なシステム音声と共に、画面の数字が猛烈な勢いで削られ始めた。
【控除内訳】
ドワーフ闇金『トゴ(10日で5割)』の秒単位複利計算による借入利息: 金貨8万枚
KG-FX運営委員会(胴元ルーベンス)の異常なスプレッド(売買手数料): 金貨6万9999枚
ルナミス 帝国税務署(オルウェル) による仮想通貨・突発的雑所得税の源泉徴収(※取りっぱぐれ防止機能): 残額のほぼ全て
チリリリン♪
という軽快な音と共に、画面に最終結果が表示された。
【最終お受取金額:銅貨1枚】
「……………………え?」
リーザの顔から、一切の表情と生気が抜け落ちた。
金貨15万枚が、一瞬にして銅貨1枚(パンの耳1個分)に変わったのだ。
「ふ、ふざけるなァァァ! 私の城が! キャビアのプールがァァァ!!」
リーザはファミコンを抱えたまま、再び虹色の泡を吹いて縁側にぶっ倒れ、完全にピクピクと沈黙した。
勝者(個人投資家)など、このシステムには最初から存在しなかったのだ。
◇
一方、その頃。農場の地下室では。
「さあ、我々の完全勝利と、莫大な富に乾杯だ!」
ルーベンス、ルチアナ、リベラの極悪トリオが、最高級のワイングラスを掲げようとしていた。
ドゴォォォォォォォォォン!!!!
突如、地下室の重厚な扉が木っ端微塵に粉砕された。
土煙の中から現れたのは、愛用の『ひのきのクワ』を肩に担ぎ、ニコニコと、しかし絶対に怒らせてはいけない『S級農民の逆鱗オーラ』を纏ったカイトだった。
背後には、キャルルが立っている。
「この人たちですぅ! カイトさんが作った優しいポイントカードを悪用して、地下でコソコソ悪いことしてたんですぅ!」
「あ、カ、カイト……! 違うのよ、これはちょっとしたマネーゲームっていうか……」
ルチアナが冷や汗を流して引き攣った笑いを浮かべる。
「法的にも……なんら問題は……」
リベラが美しい顔を青ざめさせて後ずさる。
「……(孫子曰く、三十六計逃げるに如かず!)」
ルーベンスが闇魔法で逃亡を図ろうとするが、カイトがクワをドン!と床に突いた瞬間に、大地の魔力で足元を完全に封じられた。
「ポイントカードは……みんなが手伝ってくれて、笑顔になるためのものだよね? それを、人を騙したり、他の国を困らせたりする道具にするなんて……」
カイトの目が、一切笑っていない。
「悪い害虫には、【 強制開墾(リセット・ティリング) 】のお時間だよ」
地下室に、極悪トリオの悲鳴が木霊した。
◇
数時間後。夕暮れのカイト農場。
「ひぃぃん……どうして私がジャージで草むしりなんて……お肌が荒れますわぁ……」
高級ドレスから芋ジャージに着替えさせられたリベラが、泥だらけになって泣きながら雑草を抜いていた。
「くそっ、私の計算(方法序説)に『農民の物理的制裁と没収』は入っていなかった……」
ルーベンスも、インテリの面影はどこへやら、汗だくでクワを振るっている。
「もう嫌だー! 稼いだお金、全部ルナミス帝国の復興支援に寄付させられたー! 私の月人くん等身大フィギュアがー!!」
ルチアナが泥まみれで喚く。
さらにその横では。
「ちくしょう! 帝国のパチンコ景品交換所がKGショックのせいで閉鎖しやがって、俺のパチンコ玉がただの鉄球になっちまったじゃねえか!!」
と号泣する狼王フェンリル(ヒモニート)も、カイトに「働かざる者食うべからずだよ」と諭され、巻き添えで草むしりをさせられていた。
縁側では、カイトが冷たい麦茶を飲んでホッと一息ついていた。
その横には、手元に残った銅貨1枚で買ってきた『パンの耳』を、虚無の表情でかじっているリーザの姿。
「あはは、リーザちゃん、またパンの耳? 明日からちゃんと農場を手伝ってくれたら、ポイントで美味しい野菜と交換してあげるのに」
「……モソモソ……モソモソ……」
リーザはもう、二度とFXには手を出さないと心に深く誓いながら(※おそらく3日後には忘れる)、パンの耳を無心でかじるのだった。
世界を巻き込んだ未曾有の通貨戦争は、一人の農民の純粋な善意と怒りによって幕を閉じた。
平和で、騒がしくて、どこまでもアホらしいカイト農場の日常が、今日もまた流れていく。