作品タイトル不明
EP 7
【借金】「まだ助かる」…悪魔の囁きと地下労働フラグ
「う、うーん……」
農場の縁側で、貧乏神のリーザがゆっくりと目を覚ました。
口の周りには謎の虹色の跡がこびりついている。
「あ、リーザちゃん、気がついた? 突然すごいもの吐いて倒れるからビックリしたよ。ほら、お水飲む?」
農民・カイトが、心配そうにコップを差し出してきた。
「カ、カイト……? 私……」
リーザはぼんやりとした頭で周囲を見回す。
そして、自分の足元に転がっている赤と白の機械――ファミコン型魔導トレード端末を見た瞬間、すべての 記憶(トラウマ) がフラッシュバックした。
「ハッ!? そ、そうだ! 私のチャート! 私の金貨500枚は!?」
カイトの差し出した水を弾き飛ばし、リーザはファミコンの画面に飛びついた。
そこには、無慈悲にも赤文字で【ロスカット執行待機中:追証入金期限まで残り5分】というカウントダウンが表示されていた。
「う、嘘よ……夢じゃなかった。私の全財産(銅貨5枚)が消えて、借金(マイナス金貨500枚)だけが残ってる……」
リーザは膝から崩れ落ち、虚無の瞳で宙を見つめた。
『ピロロッ♪』
その時、画面の端に、あの怪しいサングラスをかけたドット絵の「胴元キャラクター」がポップアップした。
『ヘイ、リーザちゃん。見事なナイアガラ(暴落)に巻き込まれちゃったねぇ。気分はどうだい?』
「ど、胴元……! あんたが『バンプする』って言ったから買ったのに! どうしてくれるのよォォ!」
裏で操作しているルーベンスのAI音声に対し、リーザが泣き叫ぶ。
『ハハハ、相場は生き物さ。でもね、リーザちゃん。君はまだ「負け」が確定したわけじゃない』
「え……?」
『画面をよく見な。今はロスカットの【待機中】だ。つまり、あと5分以内に口座に資金を追加(追証を入金)して証拠金維持率を回復させれば、君のポジションは決済されず、そのまま維持できる。……相場はこれだけ下がったんだ、次は必ず「 反発(リバウンド) 」が来るぜ?』
悪魔の囁き。
「まだ助かる」「ここで損切りしたら確実に負けになる」。それは、含み損を抱えた全ての投資家がすがりたくなる、最も甘く、最も危険な希望だった。
「……そ、そうよね。カイトの野菜の価値がゼロになるわけないもの! 今が底(大バーゲンセール)なんだわ! ここで耐えれば、反発して大儲けできる!」
完全に思考が「FX脳(正常な判断力ゼロ)」にバグってしまったリーザは、よだれを垂らしながら立ち上がった。
「でも、入金するお金なんてどこに……そうだわ!」
リーザは自分の魔導スマートフォンを取り出し、『地下帝国ドンガン・ドワーフ・ファイナンス』という怪しげなアプリを起動した。
それは、審査なし・即日融資で知られる、アナスタシア世界最凶の「ドワーフ闇金」である。
「よしっ! 『カイト農場関係者』という身分を担保にすれば、金貨1000枚(1000万円)まで即日借りられるわ! えーと、金利は……『トゴ(10日で5割)』? ふふっ、安い安い! 一瞬で倍に増やして返すんだから、実質タダみたいなものよ!」
リーザは、一片の迷いもなく【借入実行】のボタンをタップした。
チャリン♪という軽快な音と共に、彼女の口座に莫大な借金(軍資金)が振り込まれる。
「カイト農場関係者って……リーザちゃん、それ僕に迷惑かからないよね?」
横で見ていたカイトがドン引きしながらツッコミを入れるが、リーザの耳には全く届いていない。
「おっしゃァァァ! 入金完了! これでロスカットは回避よ! さらに……」
リーザはファミコンのコントローラーを構え、親指に力を込めた。
「借りた金貨1000枚に、さらにレバレッジ1000倍をかけて……今の底値で『全力買い増し(ナンピン・フルレバ・ロング)』ィィィッ!!」
ターンッ!!!
FXにおける最悪の悪手。
「ナンピン買い」とは、下落している最中に「ここが底だろう」と予想して買い増しし、平均取得単価を下げる手法である。予想が当たれば爆益だが、もしさらに下落が続けば、損失が倍速で膨れ上がる「自殺行為」に他ならない。
『ピロリンッ♪(ナンピン約定しました)』
「あはははは! 見たかルナミス帝国! これが私の本気(借金)よォォ! さあ、反発しなさい! 上がれェェェ!!」
狂気の笑い声を上げるリーザ。
しかし、彼女は気づいていなかった。ドワーフ闇金の契約書の極小文字で、『返済不能の場合、地下鉱山での強制労働(期間:500年)を命ずる』と書かれていたことに。
「……フッ。完璧に罠にハマったな。借金してのナンピン買い。まさに教科書通りの愚行だ」
地下室のモニター前で、ルーベンスがタバコを揉み消し、冷酷に笑った。
「さあ、マルクス皇帝よ。 個人投資家(リーザ) の命を懸けた買い向かい……あなたはどう出る?」
為替市場という名の地獄の釜が、さらに激しく煮えたぎろうとしていた。