作品タイトル不明
EP 6
【追証】ロスカットの恐怖! リーザ、虹色を吐く
『ピロロロロロロ! ピロロロロロロ!』
カイト農場の縁側に、ファミコン型魔導トレード端末の凶悪なアラート音が鳴り響き続けていた。
画面は真っ赤に点滅し、さっきまで天を突いていたチャートは、奈落の底へ向かって一直線に 落下(ナイアガラ) している。
「嘘、嘘でしょ……!? ちょっと! 上がりなさいよ! なんで下がるのォォォ!?」
貧乏神のリーザは、ファミコンの本体をガクガクと揺さぶりながら、血走った目で絶叫した。
しかし、ルナミス帝国が放った国家予算級の『空売り砲』の前では、彼女の悲鳴など無意味だ。
画面に表示された『含み損』の数字が、凄まじい勢いで膨れ上がっていく。
手持ちの「銅貨5枚」という証拠金はとっくに消し飛び、マイナス金貨10枚、マイナス金貨50枚、マイナス金貨100枚……。
「ひぃぃぃっ!! マイナス!? 私のお金がマイナスになってるぅぅ!!」
リーザの顔面が、限界まで水分を抜かれた梅干しのようにシワシワに縮み上がる。
そして、画面の中央に、死刑宣告のようなポップアップウィンドウがデカデカと表示された。
【警告:証拠金維持率が危険水域に達しました。直ちに 追証(マージンコール) を入金してください。入金がない場合、強制ロスカット(全財産没収及び負債の確定)が執行されます】
「お、おいしょう……? ロス、カット……?」
リーザの脳が、その恐ろしい単語の意味を理解するのを拒絶していた。
「強制的にお金を没収されて、さらに借金だけが残るってこと……!? やだ、やだやだやだ! そんなの絶対に嫌ァァァ!!」
リーザは、コントローラーの十字キーを必死に上へ上へと押し続ける。物理的に押せばチャートが上がると思い込んでいる、完全に狂ったFX戦士の末路である。
「戻って! お願いだから元の金貨800枚に戻ってェェ! あああっ、神様仏様カイト様! 私、もう欲張らないから! プラマイゼロでいいから、元の銅貨5枚だけ返してェェェ!!」
投資家が暴落時に必ず唱えるという伝説の呪文、「プラマイゼロでいいから助けて」。
しかし、相場の神様(と裏で操作しているルーベンス)は、そんな都合の良い懺悔を許しはしない。
ズドドドドォォォン!!!
チャートは無慈悲に、さらに一段下の 底(サポートライン) をぶち抜いた。
『ピィィィィィィィィィィィッ!!!!』
ついに、アラート音が限界を知らせる連続音に変わった。
【強制ロスカットまで、残り10秒……9……8……】
「ああああああっ!! 止まってェェェ!!」
リーザの視界が、ぐにゃりと歪んだ。
全身の毛穴から冷や汗が吹き出し、心臓が早鐘のように激しく打ち鳴る。
胃の奥底から、経験したことのないような重く熱い塊がせり上がってくるのを感じた。
「お、お金が……私の、パンの耳が……キャビアが……マッハ・ウーバーの慰謝料が……」
【……3……2……1……】
「ブフォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」
ロスカット確定の瞬間。
極限のストレスと絶望に耐えきれなくなったリーザの口から、先ほど食べた高級キャビアとパンの耳が混ざり合った、『虹色の吐瀉物』がマーライオンのように勢いよく噴き出した。
「おえぇぇぇぇぇ……っ! か、カイトォォ……お肉、たべた……い……ガクッ」
リーザは、虹色の水たまりの中で白目を剥き、ファミコンのコントローラーを固く握りしめたまま、パタリと気絶してしまった。
「……ん? あれ、リーザちゃん、こんなとこで寝てどうしたの? わっ、なんか変な色のもの吐いてる! 大丈夫!?」
畑仕事から戻ってきた農民・カイトが、慌ててリーザに駆け寄る。
彼は、足元に転がっているファミコン画面の「マイナス金貨500枚」という絶望的な数字に気付くこともなく、ただリーザの体調を心配して背中をさすっていた。
一方、農場の地下室では。
「……フッ。ルナミス帝国のマルクス皇帝め、なかなかの資金力を投入してきたな」
モニターの暴落チャートを見つめながら、魔族ルーベンスが不敵に笑っていた。
「どうしますの、ルーベンス様? このままではKGの価値が底を打ちますわよ?」
悪徳弁護士・リベラが尋ねる。
「問題ない(孫子)。我々の狙いは、空売りで調子に乗っているルナミスの国家予算を丸ごと焼き尽くすことだ。今はあえて下げさせ、限界まで売り 注文(ショート) を溜め込ませる」
ルーベンスの眼鏡が、怪しく光った。
「その前に……上の階で気絶している『哀れな 子羊(リーザ) 』に、もう一絞りしてもらうとしようか」
極悪トリオの罠は、気絶したリーザをさらに深い地獄(借金地獄)へと引き摺り込もうとしていた。