軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 5

【暴落】ルナミス帝国の逆襲! 皇帝マルクスの「空売り」

「……資金の流出が止まりません。我がルナミス帝国の『L- Pay(ルナミス・ゴールド) 』から、謎の新興通貨『 KG(カイト・ゴールド) 』への大規模な資金移動が確認されています」

ルナミス帝国、帝都の中心にそびえ立つ白亜の宮殿。

その最奥にある皇帝の執務室で、内務卿オルウェルが、抑揚のない機械的な声で報告を上げた。

執務机の奥。

アイロンの利いたスーツの上に魔導防弾マントを羽織った男――マルクス皇帝は、愛読書である『国富論』を静かに閉じた。

「『見えざる手』、か……。だが、我が帝国の経済(歯車)を狂わせる『手』があるのなら、私がこの手で切り落とすまでだ」

マルクスの眼鏡の奥の瞳が、絶対零度の冷徹さで光る。

「出所は天魔窟方面……例の『S級農家』の村だな。しかし、たかが『野菜』を本位制にした仮想通貨が、これほどまでに暴騰するとは」

「ええ。各国のVIPたちが、カイトの『肉椎茸』や『月見大根』の魔力増強効果に依存しきっているのが原因です。KGは今や、大陸で最も需要のある通貨となりつつあります」

「愚かな。通貨の信用とは、野菜の味などという曖昧なものではない。国家の『圧倒的な暴力(軍事と法)』によってのみ担保されるのだ」

マルクスは立ち上がり、巨大な窓から帝都の摩天楼を見下ろした。

ルナミスの100円ショップやファミレス、そしてL-Payという『インフラ』で大陸を支配する彼にとって、経済圏を脅かすKGの存在は、魔獣の襲撃よりも危険な「国家反逆」であった。

「オルウェル。帝国の『国家予算』から、予備費の30%を引き出せ」

「……! 陛下、まさか」

「ああ。これよりルナミス帝国は、通貨KGに対して『国家規模の空売り(ショート)』を仕掛ける」

空売り――それは、手元にないKGを市場から「借りて」高値で売り払い、価格が暴落した後に安値で買い戻して返すことで、莫大な利益(と相手の破滅)を生み出す金融の必殺技である。

「たかが農村のお遊戯通貨。帝国の莫大な売り 圧力(ナイアガラ) で、跡形もなく市場から消し飛ばしてやろう」

「御意に。……即座に、売り 注文(ショート・バースト) を実行します」

マルクス皇帝の冷酷な勅命が下った。

ルナミス帝国の圧倒的な資本が、為替市場という名の戦場に、核兵器のごとく投下されようとしていた。

一方、その頃。

カイト農場の縁側では、貧乏神のリーザが高級キャビア乗せパンの耳を頬張りながら、依然として絶頂の海を泳いでいた。

「んふふふふ~♡ もう含み益が金貨800枚! このまま金貨1000枚に行ったら、一旦利確して、天魔窟のタワマンでも買っちゃおうかしらぁ~♡」

ファミコン型魔導トレード端末の画面では、緑色のローソク足が、ルチアナの仕掛けたバンプ(吊り上げ)によって、相変わらず元気よく右肩上がりを続けている。

永遠に続くかと思われた、黄金の買い 相場(ブル・マーケット) 。

しかし、その電子音が、唐突に狂った。

『……ピィィィィィィィィンッ!!!!』

「え?」

耳をつんざくような、甲高い不協和音。

リーザがファミコンのホログラム画面に視線を戻した瞬間。

ズンッ……!!

今まで画面の最上部を突き破る勢いで伸びていた緑色の棒(ローソク足)が、一瞬で消滅した。

代わりに現れたのは、血のようにどす黒い**『真っ赤な太い棒(大陰線)』**だった。

「あ、あれ……? な、なんか、赤い線が下に向かって……」

ズズンッ!! ズゴゴゴゴゴッ!!!

赤い線は止まらない。

画面の中央を突き破り、底辺のサポートラインを粉々に砕き割り、さらにその下へ、下へと、 滝(ナイアガラ) のように垂直落下していく。

ルナミス帝国が放った『超絶空売り砲』が、直撃したのだ。

「えっ……? えっ……!?」

リーザの手に持っていたキャビア乗せパンの耳が、ポトリと地面に落ちた。

「な、なによこれ! ちょっ、ちょっと止まりなさいよ! さっきまでの私の含み益(金貨800枚)が……! 減る! 減っていくゥゥゥ!!」

リーザが血相を変えて、ファミコンの画面をバンバンと叩く。

しかし、国家予算をぶち込まれた圧倒的な売り圧力の前に、個人の祈りなどチリ芥同然である。

金貨800枚あった含み益は、数秒で金貨500枚になり、300枚になり、100枚を割り込んだ。

「あ、あああ……っ! 嘘、嘘でしょ!? カイトの野菜の価値が下がるわけないじゃない! 誰よ! 誰がこんなイジワルして売ってるのォォォ!?」

そして、リーザの画面の数字は、ついに『0』を突破した。

ここからは、彼女の手持ち資金(銅貨5枚)を食いつぶす「マイナス(含み損)」の領域への突入である。

『ピロロロロロロ! ピロロロロロロ!』

ファミコンから、かつて聞いたことのない、心臓を直接鷲掴みにするような凶悪な「警告音」が鳴り響き始めた。

画面全体が、危険を知らせる真っ赤なフラッシュで点滅する。

「ひぃっ!? な、なにこの音!? なんで画面が赤く光って……っ!」

リーザの顔面から一瞬にして血の気が引き、梅干しのようにシワシワに縮み上がっていく。

投資家が最も恐れる死の宣告――『 追証(マージンコール) 』の足音が、彼女の背後にピタリと張り付いた瞬間であった。