作品タイトル不明
EP 4
【絶頂】レバレッジ1000倍! 「バンプ!バンプ!」
『ピコピコピコ……ピロリンッ♪』
カイト農場の縁側。
のどかな昼下がりの空気の中、そこだけが異様な熱気に包まれていた。
「キタキタキタァァ!! また上がった! 含み益が……銅貨5枚から、一気に銀貨10枚(1万円)に増えたわァァァ!!」
貧乏神のリーザが、ファミコン型魔導トレード端末のホログラム画面に顔を擦り付けるようにして、血走った目で絶叫した。
「すごい! すごいわFX! ただ座ってボタンをポチポチしてるだけで、丸一日パン屋さんでバイトするより稼げるなんて! 私、天才かもしれない!!」
リーザの脳内で、危険なドーパミンが滝のように溢れ出していた。
『労働の価値』という概念が、レバレッジ1000倍という魔力の前で音を立てて崩れ去っていく。
一方、その頃。
農場の地下室では、魔族のルーベンスが冷徹な目でメインモニターを操作していた。
「……フッ。見事なまでに絵に描いたような 養分(カモ) だ」
ルーベンスのモニターには、リーザが操作している端末のデータが筒抜けになっていた。
極悪トリオは、市場から資金を吸い上げるだけでなく、身内のスッカラカンな財布からすら、小銭を巻き上げようとしているのである(※しかもレバレッジという名の借金付きで)。
「ルーベンス様、彼女の資金、順調に増えているようですが?」
悪徳弁護士・リベラが首を傾げる。
「ええ、わざと勝たせているのです(影響力の武器)。人は『小さな成功体験』を与えられると、自分の能力を過信し、さらに大きなリスクを取る生き物ですからね。……そろそろ、彼女の『強欲』に直接語りかけてみましょう」
ルーベンスは、音声変調マイクのスイッチを入れた。
『ピロロッ♪』
リーザのファミコン画面に、胡散臭いサングラスをかけたドット絵の「胴元キャラクター」がポップアップした。
『ヘイ、リーザちゃん。君は本当にトレードの才能があるねぇ。どうだい? 今の利益をそのまま担保にして、さらにレバレッジをかけて買い増し(ピラミッディング)しないかい?』
スピーカーから、ルーベンスがAI音声で作り出したチャラい合成音声が流れる。
「買い増し……? でも、もし下がったら……」
一瞬だけ、リーザの脳裏に「借金」の二文字がよぎる。
『ヘイヘイ、ビビることはないさ。KGの価値はカイトの野菜だ。下がる理由がないだろう? OK、幾らでもバンプ(引き上げ)するよ、リーザちゃん。君なら億万長者になれる』
悪魔(魔族)の囁きが、リーザの僅かな理性を完全に焼き切った。
「そ、そうよね! カイトの野菜の価値が落ちるわけない! ここは勝負の時……!」
リーザは、コントローラーを握りしめ、親指に全体重を乗せた。
「今の利益を全部突っ込んで……最大レバレッジで追加買い(フルレバ・ロング)!!」
ターンッ!!
『ピロリンッ♪(追加約定しました)』
その瞬間、ルーベンスが裏で為替レートをさらに 急騰(バンプ) させた。
ギュイィィィィィン!!
ファミコン画面の緑色のローソク足が、狂ったように上へ上へと突き抜けていく。
「ひゃあああああっ!! 増える! 桁がどんどん増えていくぅぅ!!」
画面上の『含み益』の数字が、金貨10枚、50枚、100枚と、見たこともないスピードで膨れ上がっていく。
「もっとよ! もっと上げなさい! バンプ! バンプゥゥ!!」
リーザが、ファミコンのコントローラーを天に掲げ、神を讃える狂信者のように「バンプ」のコールを叫び始めた。
『オーケー、リーザちゃん。君の熱いソウルに応えて、もういっちょバンプだ!』
「バンプ!! バンプ!! ひゃーっはっはっは!!」
カイト農場に、少女の狂乱の声と、8ビットの電子音が不気味に響き渡る。
「……ねえカイト。リーザちゃん、さっきからテレビゲームに向かって変な声出してるけど、大丈夫かな?」
畑から戻ってきた武道家のキャルルが、ドン引きしながらカイトに尋ねた。
「うーん……まあ、最近お金がなくてずっと落ち込んでたから、ゲームでストレス発散してるんじゃないかな。そっとしておいてあげよう」
農民・カイトは、泥だらけの手に持った『月見大根』を優しく撫でながら、無警戒に笑っていた。
その頃、リーザの含み益は、ついに『金貨500枚(約500万円)』に到達していた。
「あぁ……あぁぁぁ……っ♡」
リーザは、震える手でアイテムボックスから『今日のおやつ』を取り出した。
いつもなら、ただのパサパサの「パンの耳」。
しかし今日の彼女は、天魔窟のスーパーで(含み益を担保にしてクレジットカードで)買ってきた『Sランク魔鮫の極上キャビア』の瓶を開け、それをパンの耳に山盛りに乗せた。
「含み益って……なんて美味しいのかしら……」
高級キャビア乗せパンの耳を頬張り、リーザは完全にイってしまった顔で絶頂に達していた。
自分の資産が「幻(確定していない利益)」であることにも、レバレッジによる「わずかな下落での即死リスク」にも、今の彼女は微塵も気付いていない。
勝者のいないマネーゲーム。
その「最強の空売り(ショート)砲」が、ルナミス帝国の本陣から放たれるのは、彼女がキャビアを飲み込んだ、まさにその直後のことだった。