作品タイトル不明
EP 3
【狂気】FX戦士リーザ爆誕! 魔のファミコン端末
「匂う……! 絶対にどこかで、大きなお金が動いてる匂いがするわ……!」
鼻をヒクヒクさせながら、貧乏神のリーザは農場内を這い回るように索敵していた。
極貧生活で培われた彼女の『マネー・センサー』は、カイトの作る極上カレーの匂いよりも、遠くで落ちた銅貨の音に敏感に反応する。
そして彼女が辿り着いたのは、縁側でゴロゴロと昼間からビールを飲んでいる女神ルチアナの元だった。
「ルチアナ! あんた、何か隠してるわね!? 私のセンサーが『ここ掘れワンワン』って激しくアラートを鳴らしてるのよ!」
「あらリーザ。お昼寝からお目覚めかしら」
ルチアナは、ジャージの腹を掻きながら、面倒くさそうに起き上がった。
「あんた、お金の匂いには本当に敏い(さとい)わね。……まあいいわ、どうせ暇だったし、面白い『ゲーム』を教えてあげる」
ルチアナが 空間収納(アイテムボックス) から取り出したのは、地球の昭和時代に大流行したという、赤と白のプラスチックでできた四角い機械――『ファミリーコンピュータ(通称ファミコン)』のような魔導具だった。
ただし、コントローラーの十字キーとボタンの横には、なぜか『BUY(買)』『SELL(売)』『LEVERAGE(倍率)』という禍々しい文字が刻まれている。
「何これ? おもちゃ?」
リーザが首を傾げる。
ルチアナは『KG・FXカセット』と書かれたロムカセットをフーフーと息で吹いてから、本体にガシャン!と差し込み、電源を入れた。
『ピコピコピコポンッ♪』という気の抜けた8ビット音と共に、空中に魔導ホログラムのモニターが展開される。
そこに映し出されたのは、赤と緑の棒(ローソク足)がギザギザと右肩上がりに伸びていく、ドット絵の『為替チャート』だった。
「ルチアナ、これは……?」
「これぞ、私が暇つぶしに作った『魔導トレード端末・カイトゴールドFXエディション』よ!」
ルチアナがドヤ顔で胸を張る。
「今、カイトが作った『ポイントカード(KG)』の価値が、天魔窟のVIPたちの間で大暴騰してるの。この機械を使えば、そのKGの価格変動を予測して、手元の資金を何百倍にも増やすことができるのよ」
「な、何百倍ですって!?」
リーザの頭の上のアホ毛が、ピーン!と直立した。
「例えば、今『1 KG = 1000円』だとするでしょ? これが『2000円』に上がると思ったら、コントローラーの『BUY』を押すの。予想が当たれば差額が儲かる。逆に下がると思ったら『SELL(空売り)』ね。簡単でしょ?」
「……か、簡単! しかも、カイトの野菜の価値が下がるわけないから、ひたすら『BUY』を押し続ければ、無限にお金が増えるってことじゃないのォォ!?」
リーザの瞳孔が限界まで開き、両目にクッキリと『KG』のマークが輝き始めた。完全にカモ(養分)の顔である。
「でも、私……今、全財産が『銅貨5枚(500円)』しかないわ。これじゃあ、パンの耳にキャビアを乗せる夢なんて……」
リーザが悔しげに唇を噛む。
「フフフ、そこがこの『FX』の素晴らしいところよ。……『レバレッジ(証拠金取引)』って知ってる?」
ルチアナが、悪魔のような笑みを浮かべて囁いた。
「このコントローラーの『LEVERAGE』ボタンを押せば、手持ちの資金の『最大1000倍』の金額を動かせるの。つまり、あなたのその汚い銅貨5枚でも、金貨50枚(50万円)分の取引ができちゃうってわけ♡」
「せ、せん……1000倍ィィ!?」
リーザの脳内で、ファンファーレが鳴り響いた。
手元のたった数百円が、ボタン一つで数十万円に化ける。極貧生活に苦しむ彼女にとって、それは神の救済(あるいは悪魔の契約)にしか見えなかった。
「や、やるわ! 私にそのコントローラーを貸しなさい! マッハ・ウーバーの借金も、来月の家賃も、全部この『ピコピコFX』でチャラにしてやるんだからァァァ!!」
リーザは、よだれを垂らしながらルチアナからファミコンのコントローラーをひったくった。
「ええ、頑張ってね。相場の世界へようこそ、リーザちゃん(養分確定ね)」
ルチアナは、心の中で極悪な舌を出した。
「行くわよォォ! 全財産の銅貨5枚を突っ込んで……レバレッジ、最大(1000倍)ッ! そして……全額『BUY(買い)』ィィィッ!!」
リーザが、血走った目で『BUY』ボタンを親指で思い切り押し込んだ。
『ピロリンッ♪(約定しました)』
無機質な8ビット音が鳴り響き、リーザの全財産が、暴れ狂う為替の荒波(相場)へと放り込まれた。
「あははははは! 上がれ! 上がりなさい! 私の黄金の未来のためにィィィ!!」
ファミコンの画面の前で、狂気に満ちた笑い声を上げる少女。
ここに、アナスタシア世界で最も恐ろしい魔物――『FX戦士リーザ』が、高らかに爆誕したのだった。