作品タイトル不明
第二十二章 カイト・ゴールド(KG)ショック! FX奴隷戦士リーザの絶望と狂乱
【発足】カイト村のポイントカードと、極悪トリオの密談
初夏の昼下がり。
カイト農場の広々としたリビングで、農民・カイトは一枚の小さな紙切れを片手に、居候たちに向かってニコニコと微笑んでいた。
「みんな、いつも畑の手伝いや農場内の掃除をしてくれてありがとう。そこで僕、ちょっとしたものを作ってみたんだ」
カイトがテーブルの上に並べたのは、不器用な字で『カイトむら・ポイントカード』と書かれた、手作りのスタンプカードだった。
「これからは、農場の仕事を手伝ってくれたらポイントのスタンプを押すことにするよ。1ポイントで『太陽芋』1個、10ポイント貯まれば、なんとSランクの『月見大根』や『肉椎茸』と交換できるシステムさ! 肩たたき券みたいなものだと思って、気軽に……」
「ポイントで、カイトのお野菜が貰えるんですかぁ!?」
最初に食いついたのは、極度の金欠でパンの耳をかじっていた貧乏神のリーザだった。
「や、やりますぅ! 私、草むしりでも何でもやりますぅ! だからそのポイント、前借りで100ポイントくらい頂けませんかァ!?」
「前借りしたらただの借金(負債)になっちゃうよ、リーザちゃん」
カイトが苦笑いしながら宥める。
武道家のキャルルも「愛の共同作業ポイントですね! 貯めますぅ!」とウサ耳をパタパタさせて喜んでいる。
「ふふふ、まあ、ちょっとした遊びとしては面白いんじゃないかしら」
創造神ルチアナも、いつものジャージ姿で缶ビールを片手にヘラヘラと笑っていた。
カイトの提案は、あくまで「身内の中でのささやかなご褒美システム」。
誰もがその微笑ましい光景に和んでいた――はずだった。
だが、そのリビングの片隅で。
カイトの手作りカードを見つめる三つの影だけが、周囲の温度をスッと下げるような、異様に冷徹な光を瞳に宿していた。
◇
その日の深夜。
カイト農場の地下にある、ワイン樽が並ぶ貯蔵庫。
ランプの薄暗い灯りに照らされた木箱を囲むようにして、三人の人物が密かに集結していた。
「……カイトの奴、とんでもない『パンドラの箱』を開けやがったわね」
女神ルチアナが、真昼の気の抜けた顔とは打って変わった、邪悪な笑みを浮かべて呟く。
「ええ。あの無自覚な農民は全く気付いていませんが……あれは、単なるポイントカードではありません。『世界経済を根底からひっくり返す、究極の金融兵器』になり得る」
眼鏡を押し上げながら低く笑ったのは、アバロン魔皇国から入り浸っている魔族の穏健派貴公子・ルーベンスだった。
「おっしゃる通りですわ、ルーベンス様」
最後に、上品に紅茶を啜りながら同意したのは、桜田財閥令嬢にして悪徳弁護士・桜田リベラである。
ここに、カイト農場が誇る【極悪・知能犯トリオ】が結成された瞬間だった。
「ルーベンス、あんたの『経済学』の知識で説明してごらんなさいよ」
ルチアナが促す。
「簡単なことです。カイトの作る『Sランク野菜』は、食べれば寿命が延び、魔力が跳ね上がり、何より究極に美味い。天魔窟のVIPや他国の王族たちは、すでにあの野菜の『 中毒(ジャンキー) 』になっている」
ルーベンスは、手元のルナミス新聞(経済欄)をテーブルに叩きつけた。
「今まではカイトが気分で配るか、龍魔呂の飯として消費されるだけだった。だが、もし我々が『カイトの野菜は今後、カイト村のポイントカードでしか取引しない』と宣言したらどうなる?」
「……世界中の権力者が、血眼になってそのポイントを欲しがるわね」
「その通り(資本論)。つまり、あのポイントカードは、Sランク野菜という絶対的価値に裏付けられた『最強の基軸通貨』へと変貌する。……名付けて、独自通貨『カイト・ゴールド(KG)』の誕生だ」
ルーベンスの言葉に、リベラが美しい微笑みを浮かべて法務書類を取り出した。
「法的にも全く問題ありませんわ(悪徳スマイル)。『KG』はあくまで農場内の『お遊戯用トークン』。ルナミス帝国の金融法や、国際法には一切抵触しません。その上で、利用規約第48条に『KGの発行量及び他通貨との為替レートは、運営委員会(我々)が自由に決定できる』と明記しておきました」
つまり、完全な 合法(グレーゾーン) のまま、世界中の富を合法的に搾取できる最強のスキームが完成したのである。
「素晴らしいわ! で、最初のレートはどうするの?」
ルチアナが身を乗り出す。
「マルクス皇帝が支配する『ルナミス・ゴールド(L-Pay)』に喧嘩を売るため、最初は極端な固定レートで市場にバラ撒きます。……『金貨1枚(1万円)=10000 KG』。庶民でも手が届くと思わせる、甘い毒です(影響力の武器)」
ルーベンスがタバコ(マルボロ)に火をつけ、深く紫煙を吐き出した。
「最初は安値で流通させ、世界中が『KG』の利便性とSランク野菜の味に依存しきったタイミングで……一気に流通量を絞り、相場を 操作(バンプ) する。世界の富を、この農場に全て吸い上げるのだ」
「あはははは! 最高よルーベンス! これで、月人くんの限定ライブチケットも、等身大フィギュアも、日本のソシャゲのガチャも、無限に回し放題だわァァァ!!」
ルチアナ(永遠の17歳)が、強欲と煩悩にまみれた高笑いを上げる。
「ええ、私の事務所の事業拡大資金も、これで安泰ですわ」
リベラも便乗して優雅に笑う。
深夜の地下室に響き渡る、極悪トリオの黒い笑い声。
カイトが「みんなの笑顔のために」と作った、ただの肩たたき 券(ポイントカード) 。
それが翌朝、異世界全土を巻き込む、未曾有の『通貨戦争』の引き金になろうとは。
そして、この恐ろしい陰謀の「最初の 犠牲者(カモ) 」となる女が、上の階のリビングで、何も知らずにパンの耳をかじりながらいびきをかいていることを、まだ誰も知らなかった。