軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 6

【誘拐】「人質の魂が一番美味い!」 ギアン、農場を急襲

「初めまして、カイト農場の皆さん。私は死蟲軍指揮官、魔人ギアン」

不気味な道化師の仮面を被った男が、巨大な 鎌(デスサイズ) を弄びながら、芝居がかった動作で一礼した。

その足元では、死蟲機たちの連携によって無力化された農場の面々が、苦しげに顔を歪めている。

「神だ、魔王だ、と聞いてどんなバケモノかと思えば……見事なまでに単細胞な脳筋集団だねぇ。我々死蟲軍の『合理的な対策』の前には、手も足も出ないようだ」

「くっ……! 卑怯なマネを……っ!」

粘着糸で縛られた魔王ラスティアがギリッと牙を剥く。

「卑怯? それは最大の賛辞だね。……さあ、ここからが私の得意な『手品』の時間だ」

ギアンが仮面の奥の目を細め、両手の十指をワシャワシャと奇妙に動かした。

瞬間、彼の指先から放たれた見えない極細の『死蟲糸』が、キャルルやルナたちの首筋や手足に深く突き刺さった。

「ビクッ!?」

「あ、れ……? 体が、勝手に……」

キャルルの両腕が、意志に反してスッと持ち上がり、構えていたダブルトンファーの矛先を、隣にいるルナへと向けた。

「キャルルちゃん!? 何をしてるの!」

「ち、違いますぅ! 操られてるんですぅ!!」

「『生きるべきか、死ぬべきか(To be, or not to be)』。……うーん、実にありふれた悲劇だ。だからこそ、君たちには『殺し合うべきか』という極上の演目を与えよう」

ギアンが狂気を含んだ声で笑う。

「仲間同士で殺し合い、絶望に顔を歪めながら散っていく……。その瞬間の『人質の魂』が、一番美味いんだよ。ああ、そういえば先程ダンジョンで捕まえた『パンの耳を咥えた貧相な少女』も、今頃は地下牢で絶望の涙を流している頃かな?」

「リーザちゃんが捕まってる!? この野郎……!」

ガオンの背後に隠れていたカイトが、怒りに顔を険しくした。

「さあ、第一幕の始まりだ! 殺し合え!」

ギアンが指を振り下ろそうとした、その時だった。

ズチャッ。

ギアンの足元に控えていた数匹の死蟻型が、カイト農場が誇る『Sランク・極上キャベツ畑』の中に無遠慮に踏み込み、収穫間近だった瑞々しいキャベツを、その鋭い足で無惨に踏み 谙躙(ふみにじ) ったのだ。

「あ」

カイトの口から、とても短く、そして温度のない声が漏れた。

「…………僕の、キャベツ」

農場の空気が、一瞬にして『絶対零度』へと変わった。

神のオーラでも魔王の覇気でもない。大地そのものが怒り狂うような、S級農民特有の『豊穣の逆鱗』だった。

「……えっ?」

ギアンが、その異様なプレッシャーに思わず手を止める。

「僕が……毎朝早起きして……害虫から守って、手塩にかけて育てた、甘くて美味しいSランクのキャベツを……」

カイトは、無表情のまま愛用の『ひのきのクワ』を握りしめ、前へと進み出た。

「作物を荒らす 害虫(ゴミ) は……【強制開墾(ルビ:リセット・ティリング)】だッッ!!!」

ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!!!

カイトがクワを地面に力任せに振り下ろした瞬間。

農場の大地がまるで巨大な波のように隆起し、死蟲軍の足元を津波のごとく丸ごと『耕し(ひっくり返し)』たのだ。

「な、なんだこのデタラメな土の動きはァ!?」

ギアンが慌てて後方に跳躍する。

カイトのデタラメな農業スキルによって大地が爆発し、ギアンとキャルルたちを繋いでいた『死蟲糸』が物理的に引きちぎられた。

「今だ、ガオン!」

カイトが叫ぶ。

「承知した、我が 主(マスター) !!」

傷ついたメカライオン・ガオンが、咆哮と共に前線へと躍り出た。

黄金のたてがみから『聖なる毛の針』をガトリング掃射し、キャベツ畑を荒らした死蟻型たちを一掃する。

「チッ……! ただの農民かと思えば、妙な力を持ったイレギュラーがいるようだな。ならば、これならどうだ!」

ギアンがデスサイズを天に掲げると、背後の空を覆い尽くしていた巨大な 死王蟻(クイーン・アント) 型の腹部が開き、農場全体を飲み込むほどの巨大な『死甲虫兵器(合体型)』がズズズ……と姿を現した。

「……くっ! まずいぞカイト!」

ガオンが、巨大な敵を見上げて悔しげに歯ぎしりをした。

「俺だけの力では、あの装甲は貫けん! 腕と、翼と、下半身の力が必要だ……!」

「じゃあ、合体するしかないじゃないか!」

カイトが叫ぶ。

「いやだ! 俺はもう、あいつらとは顔も合わせたくないんだ! 朱雀の浮気の言い訳も、玄武のリストカット未遂も、もう俺の 胃(コア) では受け止めきれんのだぁぁぁ!」

「四の五の言ってる場合か! キャベツ畑が全滅しちゃうだろ!! リーザちゃんも助けなきゃいけないんだぞ!」

主であるカイトの魂の叫び。

それを聞いたガオンは、黄金のカメラアイから再びオイルの涙をボロボロと流し、絶望的な覚悟を決めた。

「……わかった。呼ぶ……呼んでやる! 主のためなら、この胃に穴が開こうとも!」

ガオンは天に向かって、悲痛極まりない、しかし世界を揺るがすほどの巨大な咆哮を放った。

「来いッ! 四神たちよ!! 地獄の 合体(シフト) の時間だァァァァッ!!」

ついに、天界から「最も厄介な連中」が呼び降ろされようとしていた。