軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 10

【真理】カイトは農業と結婚してるから!

「えっ? だから、皆さんにはカイトさんがいらっしゃるじゃないですか」

キャルルの提案は、彼女なりに筋の通ったものだった。

自分は龍魔呂が好き。

先輩方は自分より付き合いが長い。

なら、先輩方は農場の主であるカイトとくっつけば、全員が幸せになれる(ウィンウィン)はずだ。

しかし。

その言葉を聞いた瞬間、ルチアナ、ラスティア、フレア、リーザの四人は、揃いも揃って「虚無の目」をした。

光のない、深淵のような瞳だ。

「……は? 何言ってるの、このウサギ」

ルチアナが乾いた声で呟く。

「えっ? だってカイトさんは優しくて、お金持ちで、Sランク農家のすごい人ですよね?」

「甘いわね。……キャルルちゃん、貴女は何も分かっていないわ」

魔王ラスティアが、重々しくキャルルの肩に手を置いた。

その顔は、長年の戦いで疲弊した兵士のように哀愁が漂っている。

「いい? カイトはね……」

ラスティアが指差した先。

朝露に濡れる広大な人参畑に、その「答え」があった。

「よしよし……可愛いねぇ。昨日の雨で少し大きくなったかな?」

「こっちの子は葉っぱの色がいいね。美人さんだ」

「さあ、お水をお飲み。美味しい土の栄養をたっぷり吸うんだよ~」

そこには、泥だらけになって野菜に話しかけるカイトの姿があった。

その表情は、聖母のように優しく、そして恋人のように甘い。

人間(女性)には絶対に見せない、デレデレの笑顔だ。

「……あ」

キャルルは口を開けたまま固まった。

「見なさい、あの顔を」

ルチアナが冷ややかに言う。

「あの男はね、『農業』と結婚してるのよ」

「の、農業と……結婚……?」

「そうよ。彼の脳内には、恋愛回路なんて存在しないわ。あるのは**『野菜回路』**だけ。私たち女神や魔王が裸で迫っても、『風邪引くよ?』って毛布を掛けて終わりよ」

「そ、そんな……!?」

キャルルは戦慄した。

種族の壁を超え、身分の壁を超え、最後には「有機物と無機物の壁」すら超えてしまう、カイトの農業愛。

あれは、付け入る隙がない。

完全なる**「攻略不可キャラ(NPC)」**だ。

「分かったかしら? カイト様を『私たちのもの』なんて、とんだお門違いですわ」

不死鳥フレアがため息をつく。

「だから私たちは、食欲(美味しい野菜)で繋ぎ止められている、ただの『食客』なのよぉぉ!」

リーザがハンカチを噛み締めて泣く。

キャルルは青ざめた。

(こ、この農場……実はとんでもない『魔境』なのでは?)

カイトは野菜と結婚している。

龍魔呂は料理と任務(とルチアナの歪んだ愛)に縛られている。

リュウは社畜根性が染み付いている。

デュークやポチは 人外(ドラゴン) だ。

「……あの、もしかして」

キャルルが震える声で尋ねる。

「この農場の男性陣って……どいつもこいつも**『難攻不落』**なんですか?」

「「「イエス」」」

女性陣の声が重なった。

そこに、奇妙な連帯感が生まれた。

「……はぁ。まあいいわ。新入り、貴女の勘違いは正してあげる」

ルチアナがジャージのポケットから手を出し、少しだけ優しい(?)顔をした。

「龍魔呂を狙うのは勝手だけど……覚悟しなさいよ? あの男も大概、恋愛には鈍感な『 戦闘狂(バトルジャンキー) 』だから」

「うっ……。そ、それでも! 私は諦めません!」

キャルルは安全靴の紐を締め直した。

昨夜の「出汁巻き卵」の味が忘れられない。そして、頭を撫でてくれたあの手の温もりも。

「カイトさんが農業と結婚してるなら……私は龍魔呂さんの『胃袋』と結婚してみせます!」

「ふふ、大きく出たわね。……まあ、お手並み拝見といきましょうか」

女たちの間に、火花とは違う、奇妙な友情が芽生えた朝だった。

そこへ、カイトが泥だらけの手で戻ってきた。

「おーい、みんな! すごく良い人参が採れたよ! 朝ごはんにかじろう!」

満面の笑みで人参を差し出すカイト。

その無邪気な「野菜愛」を前に、女性陣は全員でため息をつき、そして笑い合った。

「……はいはい、いただきます」

「やっぱり、この人参には勝てないわね」

こうして、キャルルの農場生活が本格的に始まった。

恋と食欲、そして野菜に振り回される賑やかな日々は、まだ始まったばかりである。