作品タイトル不明
EP 8
【飯テロ】絶品! 砂肝のアヒージョと出汁巻き卵
「お待たせした」
龍魔呂が、グツグツと音を立てる 耐熱陶器(カスエラ) をカウンターに置いた。
立ち上る湯気と共に、ニンニクと鷹の爪、そして芳醇なオリーブオイルの香りが、爆発的に広がる。
「わぁぁ……!」
キャルルが目を輝かせた。
一品目は、『Sランク砂肝と人参のアヒージョ』だ。
「熱いから気をつけろ。……バゲットを浸して食うのが流儀だ」
「い、いただきます!」
キャルルはフォークを手に取り、まずはオイルの中で踊る「砂肝」を刺した。
フーフーと息を吹きかけ、口へ運ぶ。
カリッ、コリッ……!
「んんっ!? お、美味しいっ!!」
キャルルの目がまん丸になった。
表面はオイルでカリッと揚がり、中は砂肝特有のコリコリとした弾力。
噛めば噛むほど、肉の旨味とニンニクのパンチが口の中で暴れまわる。
「そして……私の大好きな人参さん!」
次は、一口大にカットされた鮮やかなオレンジ色。
パクり。
ホクッ……ジュワァ……♡
「あまーーーーいッ!!」
キャルルがカウンターをバンバン叩いた。
油で煮込まれたカイト農場の人参は、驚くほど甘く、ホクホクとした食感に変わっていた。
「信じられない……! オイルの塩気とニンニクの刺激が、人参の甘さを極限まで引き立てています! これは永久機関です!」
「ふっ、分かってるじゃないか」
隣でリュウがニヤリと笑う。
「そこに、バゲットを浸してみな」
言われた通り、オイルをたっぷり吸わせたバゲットを齧る。
サクッ、ジュワッ。
小麦の香りと旨味オイルの洪なだれ水。
キャルルの脳内で、幸せの鐘が鳴り響いた。
「んぐ、んぐ……! し、幸せぇぇ……!」
そこへ、龍魔呂がスッと細長いグラスを差し出した。
「口直しだ。『キャロット・フィズ』」
鮮やかなオレンジ色のカクテル。
キャルルが口をつける。
シュワワ……。
炭酸の刺激と共に、フレッシュな人参の香りと、柑橘系の爽やかな酸味が駆け抜ける。
「うわぁっ! さっぱり! アヒージョの油を一瞬でリセットしてくれます!」
「計算尽くされてるだろ?」
リュウが得意げだ。
「さて、次は……少し趣向を変えるぞ」
龍魔呂が再び厨房に向いた。
今度は四角い銅製の卵焼き器だ。
ジューッという優しい音が響く。
卵液を注ぎ、手首を返して巻く。その所作は、剣の達人のように無駄がなく美しい。
「へい、お待ち」
出されたのは、湯気を上げる『黄金出汁巻き卵』。
大根おろしが添えられている。
「き、綺麗……。まるで宝石箱やぁ……」
キャルルが箸を入れる。
その瞬間だった。
ジュワアァァァァ……!
卵の断面から、閉じ込められていた「お出汁」が滝のように溢れ出したのだ。
「ええっ!? スープ!? 中からスープが!?」
「Sランク地鶏の卵と、特製のアゴ出汁を限界まで含ませている。……こいつは飲む卵焼きだ」
龍魔呂が静かに告げる。
キャルルは震える手で、熱々の卵を口へ放り込んだ。
フルフルッ、トロォ……。
「はふっ、はふっ……ん~~~~っ♡」
噛む必要すらなかった。
舌の上で卵が解け、濃厚な出汁の旨味が五臓六腑に染み渡る。
優しい。
激戦で疲れた身体を、内側から癒やしてくれる慈愛の味だ。
「……龍魔呂さん」
キャルルは空になった皿を見つめ、潤んだ瞳で龍魔呂を見上げた。
「私……決めました」
「ん?」
龍魔呂がグラスを拭く手を止める。
キャルルは真剣な眼差しで、爆弾発言をした。
「私、このお店に就職します! いえ、むしろ永久就職(結婚)させてください! 私の胃袋は、もう貴方なしでは生きていけません!」
「……そうか。だが求人は出してないぞ」
龍魔呂は困ったように眉を下げ、しかし少しだけ嬉しそうに、サービスのアイスクリームを出してくれた。
最高の料理と、最高の男。
キャルルの心と胃袋は、完全に陥落した。
……だが、この「抜け駆け」が、翌日とんでもない修羅場を招くことを、今の彼女は知る由もなかった。