作品タイトル不明
EP 7
【開店】BAR『龍魔呂』の夜
「龍魔呂さーーん!」
リザードマンを撃退し、意気揚々と農場へ戻ってきたキャルル。
すると、農場の離れにある小さなログハウスの前で、腕組みをした龍魔呂が待っていた。
「おかえり。……派手にやったな」
「は、はいっ! 敵は全滅させました! カイトさんの野菜には指一本触れさせていません!」
キャルルは泥だらけの顔で、尻尾をブンブン振る犬のように報告した。
龍魔呂はふっと口元を緩め、彼女の肩にタオルを投げ渡した。
「ああ、見ていたぞ。……あの雷撃、見事だった」
「へ……? 見ててくれたんですか!?」
「厨房の窓からな。……よく守りきった」
龍魔呂の低い声が、夜風に乗って鼓膜を揺らす。
キャルルはタオルに顔を埋め、感極まって昇天しかけた。
(み、見ててくれた……! しかも褒められた……!)
「ついてこい。……褒美に、何か食わせてやる」
龍魔呂が顎でログハウスを示した。
その扉には、小さく『BAR 龍魔呂』と書かれた木の看板が掛かっている。
「えっ? ほ、褒美? ……これって、お食事デート!?」
キャルルの心臓が早鐘を打つ。
彼女は慌てて安全靴の土を落とし、髪を整えてから、恐る恐る扉を開けた。
◇
カランコロン……♪
扉を開けた瞬間、そこは別世界だった。
農場の牧歌的な雰囲気とは一線を画す、洗練された大人の空間。
ダウンライトの薄暗い照明。
棚にずらりと並んだ世界各国の銘酒。
そして、静かに流れるジャズの調べ。
「す、すごい……。こんな場所があったなんて……」
キャルルが呆然としていると、カウンターの奥に入った龍魔呂が、手際よく 法被(はっぴ) からバーテンダー風のベスト姿に着替えていた。
和と洋が融合した、ダンディな男の装い。
「座れ。……腹は減っているか?」
「は、はいっ! ペコペコです!」
キャルルはカウンター席にちょこんと座った。
目の前には、鬼神ではなく「マスター」の顔をした龍魔呂がいる。
(か、かっこいい……! 私のために料理を……!)
「おっ、新入りか。いらっしゃい」
と、隣の席から声がかかった。
そこには、スーツ姿のリュウが、ロックグラスを片手にくつろいでいた。
「あれ? リュウさん?」
「ここはな、仕事に疲れた男たちが羽を休める『 聖域(サンクチュアリ) 』なんだよ」
リュウが氷をカランと揺らす。
彼は昼間の農作業や営業の疲れを、ここの酒と料理で癒やしているらしい。
「龍魔呂サンの飯は、そこらの店とは次元が違うぞ。……今日は何が出るかな」
リュウがニヤリと笑う。
龍魔呂は無言のまま、包丁を取り出した。
その眼光は鋭く、しかし食材を見る目は慈愛に満ちている。
「戦いの後だ。……まずはスタミナと、優しい味が必要だな」
龍魔呂が取り出したのは、新鮮なSランク砂肝と、採れたてのSランク人参。
そして、黄金色に輝く地鶏の卵。
「待っていろ。……最高の夜食を出してやる」
ジュワァァァ……。
フライパンから、ニンニクとオリーブオイルの香ばしい匂いが立ち上る。
キャルルはゴクリと喉を鳴らした。
愛する人が作る手料理。
薄暗い照明。
響くジャズ。
(これって……完全にプロポーズの前哨戦ですよね!?)
勘違い乙女の妄想は止まらない。
だが、これから出てくる料理は、そんな甘い妄想すら吹き飛ばすほどの「暴力的な美味さ」を持っていた。