作品タイトル不明
EP 8
【戦慄】それ、 偽金(ニセガネ) やろがい!!
「ええ、そうよ? 現地調達が一番エコだもの」
ルナの悪気のない一言が、リビングの空気を凍りつかせた。
キャルルは、ガタガタと震える手で、テーブルの上の「金貨(元・石ころ)」を指差した。
「そ、それ……成分は……?」
「純金よ。不純物はゼロ。純度99.9999%の最高品質だわ」
「品質の問題じゃなくて!!」
ダンッ!!
キャルルが安全靴で床をぶち抜いた。
「それ……『通貨偽造』だよぉぉぉぉッ!!!」
キャルルの絶叫がペントハウスに響き渡った。
しかし、ルナはキョトンとしている。
「偽造? 失礼ね。そこらへんの金貨より、よほど純度が高くて価値があるのよ?」
「だからダメなんですよぉぉ! 国の許可なくお金を作ったら、国家反逆罪で死刑なんですぅぅ! 経済が破綻しちゃうぅぅ!」
キャルルが頭を抱えて叫ぶ。
近代的な経済観念を持つキャルルにとって、これは殺人よりも恐ろしい重罪だ。
だが、ここにバカがもう一人いた。
「ええ~? いいじゃないキャルルぅ」
リーザが生成された金貨を頬ずりしている。
「本物の金なんでしょ? お店の人も喜んでたし、ウィンウィンじゃない! ……ねえルナ、このソファも金にしてくれない?」
「バカッ!!」
ガッッ!!
キャルルの強烈なローキックがリーザの太ももに入った。
「ぎゃあぁぁっ!?」
「いいですか!? 今すぐその金貨を捨てて……いや、戻して!」
キャルルは必死だった。
もし、ファミレスやカラオケ店で、あの「超高純度金貨」が見つかったらどうなるか。
鑑定に出されれば、正規の造幣局で作られたものではないと一発でバレる。
そして、その出処を辿られれば……。
『ピンポーン』
その時、部屋のインターホンが鳴った。
「ほら、誰か来たわよ」
ルナが呑気に立ち上がろうとする。
「出ちゃダメェェェ!!」
キャルルが全力でルナを羽交い締めにして止めた。
彼女の鋭敏な「聴覚」が、ドアの向こう側の音を拾っていたからだ。
(……足音が多数。重い金属音……これは鎧? それともゴーレム? ……そして、微かな無線通信の音!)
『――こちら 警視庁(ダンジョン・ポリス) 。203号室包囲完了。突入準備』
「ひぃぃぃッ!?」
キャルルのうさ耳が恐怖で縮こまった。
警察だ。
しかも、ただのお巡りさんじゃない。完全武装の特殊部隊の気配だ。
「ル、ルナさん……リーザさん……」
キャルルは涙目で二人を見上げた。
彼女の脳裏に、積み上げてきた貯金通帳と、夢見ていた幸せな結婚生活が走馬灯のように駆け巡る。
「私の……私の清廉潔白な人生がぁぁぁ!!」
キャルルは弾かれたように動き出した。
マッハで自分の荷物をまとめ、人参抱き枕を背負う。
そして、安全靴の紐を、血管が浮き出るほど強く締め上げた。
「に、逃げるよ!!」
「え? どこへ?」
ルナが首を傾げる。
「刑務所以外ならどこへでもぉぉぉ!!」
ドォォォンッ!!
玄関のドアが破城槌で打ち破られた。
「天魔窟警察だ!! 通貨偽造および不正使用の容疑で逮捕する!!」
武装ゴーレムたちが雪崩れ込んでくる。
キャルルの、人生最大の逃走劇が幕を開けた。