軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 7

【月末】リーザの土下座と、石ころの錬金術

そして、運命の月末がやってきた。

天魔窟マンションの最上階、ペントハウスのリビングルーム。

「はいっ! 今月分の家賃、金貨3枚です!」

キャルルが、元気よくテーブルの上に金貨を並べた。

彼女の金貨は、クエスト報酬でコツコツ稼いだ、汗と努力の結晶だ。

「ふふ、キャルルさんは優秀ね。管理人の私としても助かるわ」

ルナが優雅に紅茶を飲みながら微笑む。

彼女はオーナーでありながら、ルームメイトでもあるという不思議な立ち位置だ。

「さて……。問題はそちらね?」

ルナの視線が、ソファの端でガタガタと震えている少女に向けられた。

アイドル・リーザである。

「り、リーザさん? まさかとは思いますが……」

キャルルのうさ耳が不安げに揺れる。

リーザは顔色が青を通り越して土気色になり、脂汗を滝のように流していた。

「あ、あのね……。言い訳をさせて欲しいの……」

リーザが震える声で切り出した。

「昨日……スーパーに行ったらね……。『幻の霜降り・キング牛(A5ランク)』が……タイムセールで半額だったの……」

「……それで?」

「さらに……新作のステージ衣装に使うレース生地が……可愛くて……」

「……それで?」

「き、気づいたら……財布の中身が……小銭だけに……」

「バカヤロウうううううっ!!」

キャルルが激昂した。

安全靴で床をダンッ! と踏み鳴らす。

「契約は絶対ですよ!? シェアハウスのルールを守れないなら、出て行ってもらいますからね!?」

「いやぁぁぁ! 追い出さないでぇぇぇ!」

リーザはその場から滑り落ち、美しいフォームで土下座を決めた。

「お願いします! 来月! 来月まとめて払いますから! 頼むからここに住まわせてぇぇ! 外のボロアパートには戻りたくないのぉぉ!」

額を床に擦り付けるアイドル。

その姿はあまりにも情けなく、そして悲壮だった。

「だめです! ここで甘やかしたらリーザさんのためになりません!」

キャルルが心を鬼にする。

修羅場と化したリビング。

その時、ルナがカップを置いて立ち上がった。

「まあまあ、キャルルさん。そんなに怒らないであげて」

「でもルナさん! お金の問題はなぁなぁにしちゃダメです!」

「ふふ、いいのよ。……お金なんて、『作れば』いいんだから」

「へ?」

ルナは窓辺に歩み寄ると、観葉植物の鉢植えに入っていた「白い化粧石(ただの石ころ)」を一つ、ひょいとつまみ上げた。

「見ててね」

ルナが石を指先で摘む。

そして、フッと軽く魔力を込めた。

カッ……!

一瞬、リビングが黄金色の光に包まれた。

凄まじい密度の魔力が収束し、物質の構成要素を書き換えていく。

ポーン。

軽快な音と共に、ルナの指先にあった石ころが、姿を変えていた。

それは、鈍く、重厚な輝きを放つ、一枚の「金貨」だった。

「はい、どうぞ」

ルナは出来たての金貨を、リーザの目の前に投げた。

チャリン。

それは紛れもなく、純金特有の澄んだ音を立てた。

「え……?」

リーザが顔を上げる。

そこには、さっきまで石ころだったはずの物が、最高品質の金貨となって転がっている。

「こ、これは……?」

「私の分と合わせて、これで家賃は支払い済みってことにしてあげるわ。……ほら、拾いなさい?」

「ル、ルナ様ぁぁぁ!!」

リーザは歓喜の声を上げて金貨に飛びついた。

「ありがとうございます! 一生ついていきます! さすが次期女王! 錬金術バンザイ!」

リーザは涙を流して喜んでいる。

だが、その光景を見ていたキャルルだけは、顔から血の気が引いていた。

(……石が、金になった?)

キャルルの優れた動体視力は見てしまった。

手品ではない。

幻術でもない。

原子レベルで物質を組み替える、神の御業。

(ま、待って……。それって……)

キャルルの脳裏に、ある恐ろしい単語が浮かび上がった。

それは、国家を揺るがす大罪。

経済を崩壊させる禁忌。

「あ、あの……ルナさん……?」

キャルルが震える声で尋ねる。

「もしかして……今までファミレスやカラオケで払っていたお金も……全部、そうやって……?」

「ええ、そうよ?」

ルナは悪びれもなく、天使のような笑顔で答えた。

「だって、いちいち銀行に行くの面倒でしょう? 現地調達(物質変換)が一番エコだもの」

その瞬間、キャルルの世界が崩れ去った。