作品タイトル不明
EP 5
【熱唱】カラオケボックスの惨劇と友情
「ごちそうさまでしたー! 美味しかったぁ!」
天魔窟ファミレスのレジ前。
お腹いっぱいになったリーザとキャルルが、満足げに腹をさすっていた。
会計は、ステーキや追加オーダーの山により、ファミレスとは思えない金額になっていた。
「お会計、金貨5枚と銀貨8枚になります」
店員(ゴブリン) が伝票を読み上げる。
リーザが一瞬ビクッとしたが、そこへルナが颯爽と進み出た。
「私が払うわ。釣りはいらないから、取っておいて」
ルナは 懐(マジックバッグ) から、ジャララッと無造作に金貨を取り出し、トレーに置いた。
キラリ。
照明を反射して、金貨が眩い輝きを放つ。
「あ、ありがとうございます! ……む?」
店員が金貨を手に取り、首をかしげた。
(……なんだこれ? 妙に『綺麗』だな……)
流通している金貨は、手垢がついたり、微細な傷があったりするのが普通だ。
だが、ルナが出した金貨は、まるで鋳造されたばかりのように傷一つなく、純度100%のような不自然な輝きを放っている。
しかも、デザインの彫り込みが、あまりにも精巧すぎた。
「何か問題でも?」
ルナが優雅に微笑む。
「い、いえ! 毎度ありがとうございます!」
店員は慌てて金貨をレジにしまい込んだ。
まあ、貴族様が持っている「未使用の新硬貨」なのだろう。そう自分を納得させたが、胸のざわつきは消えなかった。
◇
「さあ、次はカラオケよ! 腹ごなしに歌うわよ!」
「お供します! 食後の運動ですね!」
何も知らない三人は、そのまま天魔窟の娯楽エリアにある「カラオケボックス・セイレーン」へと雪崩れ込んだ。
広いパーティールームに入った瞬間、リーザのスイッチが入った。
「見てなさい! これがプロのアイドルの喉よ!」
リーザがマイクを握る。
曲はもちろん、持ち歌の『Love & Money』だ。
『♪愛も富も一つの物~! どっちもちょーだい!』
「うまいっ! さすがリーザさん!」
キャルルがタンバリンを高速連打する。
プロの歌唱力と、強欲な歌詞のギャップ。リーザのリサイタルに、場が温まる。
「次は私です! アニソンいきます!」
キャルルがマイクを奪った。
選曲は、アップテンポな格闘アニメの主題歌だ。
『♪燃え上がれ闘志! 砕け鉄の 拳(コブシ) !』
キャルルのテンションが上がる。
サビに入ると、彼女は無意識にリズムを取り始め、自慢の『鉄芯入り安全靴』で床をステップした。
ダンッ! ガンッ! メキョッ!
「ああっ!? キャルルさん、床が! 床が凹んでるわよ!?」
リーザが叫ぶが、ゾーンに入ったキャルルには聞こえない。
彼女がステップを踏むたびに、防音床が悲鳴を上げ、亀裂が走っていく。
「ふふ、楽しそうね。……なら、私も一曲」
最後にマイクを持ったのはルナだ。
彼女は優雅に立ち上がり、『エルフの 古代魔術歌(オペラ) 』を選曲した。
『――♪アァァァァァァァ…………』
超高音域(ホイッスルボイス) 。
それはただの歌声ではない。魔力を乗せた「共鳴波」だ。
キィィィィィィィン……!!!
「み、耳がぁぁぁ!?」
「ガラスがぁぁぁ!?」
パリーンッ!!!
部屋中のグラスが砕け散り、カラオケのモニターがノイズを走らせて爆発した。
スピーカーから火花が散る。
「……あら? 壊れちゃったわ」
ルナがテヘッと舌を出す。
◇
数分後。
店員(オーク) が真っ青な顔で伝票を持ってきた。
「お、お客様……機材の弁償代と、床の修繕費で……金貨20枚になります……」
「ええっ!? 20枚!?」
キャルルとリーザが顔面蒼白になる。
だが、ここでもルナが涼しい顔で動いた。
「ごめんなさいね、はしゃぎすぎちゃったわ。……これで足りるかしら?」
ルナは再び、あの「妙に綺麗な金貨」を山積みにした。
「は、はい! ありがとうございます!」
店員は金貨の輝きに目を奪われ、トラブルは金で解決された。
……かに見えた。
しかし、天魔窟の経済圏に、ルナが生み出した「不純物のない純金」が大量に流出したことは、確実に破滅へのカウントダウンを進めていた。
「ふぅ~! スッキリした! 次は温泉ね!」
「ルナさん太っ腹~! 一生ついていきます!」
無邪気に笑う三人。
その背後で、天魔窟の警備システムが、異常な金の純度を検知し始めていた。