軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十五章 シェアハウス、、そして逮捕される

【新生活】月兎族キャルル、天魔窟を駆ける

天魔窟ダンジョン、第50階層。

Sランク級の魔物が跋扈する危険地帯に、場違いなほど可愛らしい声が響いていた。

「ん~っ! いっち、にっ、さん、しっ……!」

広場の岩陰で、一人の少女が入念に 準備運動(ストレッチ) をしていた。

純白のうさ耳に、ピンクブロンドのボブカット。

パステルカラーのパーカーにデニムのショートパンツという、原宿にでもいそうな現代っ子ファッションだ。

――キャルル(20歳・月兎族)である。

彼女の目の前には、巨大な岩の塊のような魔物、 地竜(アース・ドラゴン) が立ちはだかっていた。

『グォォォォォォォォッ!!!』

地竜の咆哮が洞窟を震わせる。

普通の冒険者なら、その威圧感だけで腰を抜かすだろう。

だが、キャルルはアキレス腱を伸ばしながら、ふわりと笑った。

「もう、元気ですねぇ。……でも、ごめんなさい。今月、マンションの更新料がかかるので……貴方の素材、いただきますね?」

キャルルは、足元の『鉄芯入り 安全靴(ハイカット) 』の靴紐を、キュッと締め直した。

その瞬間、彼女の赤い瞳から「ゆるふわ」な光が消え、歴戦の近衛騎士候補としての冷徹な光が宿った。

「さて……やるわよ!」

キャルルは地面に手をつき、クラウチングスタートの構えを取った。

陸上選手のそれではない。

全身のバネを極限まで圧縮し、爆発させるための野生の構え。

『グァァッ!?』

地竜が巨大な前足を振り上げた、その刹那。

「――ッ!!」

ドンッ!!!

爆発音と共に、キャルルが弾丸のように飛び出した。

速い。

通常の魔族の視力では、ピンク色の残像しか見えない。

(……5秒を超えたわ)

風を切る音すら置き去りにする。

現在のタイム、100m換算で5秒台前半。

だが、彼女のギアはまだ上がる。

「私は…… 音速(マッハ) を超える!!」

キャルルが靴底に仕込んだ『電竜石』を起動させる。

バチバチバチッ!!

青白い稲妻が安全靴を包み込み、彼女の身体を光の矢へと変えた。

ドォォォォンッ!!

洞窟内にソニックブーム(衝撃波)が発生する。

「そこっ!!」

トップスピードのまま、キャルルは壁を蹴って高く跳躍した。

空中での前方宙返り。

遠心力、速度、重力、そして全身の『闘気』を右足の安全靴一点に集中させる。

月影流・奥義――。

「でええええい!!

『超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)』ッ!!」

空から雷鳴と共に、鉄芯入りの踵が降り注ぐ。

それは蹴りではない。

落雷を伴った隕石の衝突だ。

バリバリバリバリッ!!

ドガガガアアアアンッ!!!

「ギャァァァァッ!?」

地竜の鋼鉄よりも硬い顔面が、豆腐のように粉砕された。

電撃が全身を駆け巡り、巨体が黒焦げになりながら吹き飛ぶ。

ズズ……ン。

地竜は壁にめり込み、そのまま動かなくなった。

着地。

キャルルはふわりと地面に降り立つと、砂埃を払って安全靴の汚れを確認した。

「よし、終わり♪」

彼女はパーカーのポケットから、お手製の「人参柄ハンカチ」を取り出して汗を拭いた。

先程までの鬼神のような殺気は消え、また普通の女の子に戻っている。

「地竜の牙と皮で……うん、今月の生活費と貯金はバッチリですね!」

キャルルは手際よく素材を回収すると、ルンルン気分で出口へと歩き出した。

「さて、か~えろ♪ 今日の夕飯はファミレスのパフェにしよっと!」

だが、彼女はまだ知らなかった。

帰宅した先のマンションで、とんでもないトラブル(家賃問題)と、運命の出会いが待ち受けていることを。