軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 10

【オチ】「大吟醸を出せ」→そして男飲みへ

「いいわ……。さあ、奪って……♡」

創造神ルチアナは目を閉じ、唇を突き出した。

頬は薔薇色に染まり、期待に胸を震わせている。

数億年の時を経て、ついに訪れた春。

さあ、鬼神の熱い口づけを――。

「…………」

沈黙。

数秒経っても、唇に触れる感触がない。

あるのは、不思議そうな気配だけだ。

「……おい、ルチアナ」

龍魔呂の声が降ってきた。

それは愛の囁きではなく、どこまでも実務的なトーンだった。

「何をしている? 顔なぞ突き出して」

「えっ?」

ルチアナが薄目を開ける。

目の前の龍魔呂は、キスをする気配など微塵もなく、ただ怪訝な顔で彼女を見下ろしていた。

「な、何って……貴方が『全てさらけ出せ』って……」

「ああ、そうだ」

龍魔呂は頷き、そして無慈悲なる一言を放った。

「早く『大吟醸』を出せと言っているのだ」

ピキッ。

ルチアナの思考回路が凍結する音がした。

「……はい?」

「私の鼻は誤魔化せんと言っただろう。貴様の 亜空間収納(ポケット) に入っている、神界銘酒『神の雫(大吟醸)』だ」

龍魔呂は焦れたように時計(和時計)を見た。

「急げ。庭の『くさや』が一番美味い温度を過ぎてしまう。……あれに合わせるには、貴様の持つ最高級の酒が必要なのだ」

「…………」

「……酒?」

「そうだ。酒だ」

ヒュオォォォォ……。

どこからともなく、冷たい隙間風が廊下を吹き抜けた。

愛の告白ではない。

肉体の要求でもない。

ただの「酒の 恐喝(カツアゲ) 」だった。

「あ……あ、あぁ……」

ルチアナの顔から、急速に血の気が引いていく。

薔薇色だった頬は土気色に変わり、突き出していた唇が恥ずかしさで痙攣する。

「う、嘘……嘘よ……」

その背後で、覗き見していたラスティアたちが頭を抱えた。

「うわぁ……」

「見ていられない……」

「ルチアナ様の 精神(メンタル) が……死んだ……」

「おい、早くしろ」

龍魔呂が手を差し出す。

ルチアナは、魂が抜けた人形のような動きで、虚空から一升瓶を取り出した。

「……はい」

「うむ。助かる」

龍魔呂は酒瓶を受け取ると、ルチアナには目もくれず、踵を返した。

「リュウ、ルーベンス! 酒は確保したぞ! 庭に戻るぞ!」

「おおっ! でかした龍魔呂サン!」

「待ってました!」

男たちの歓喜の声が遠ざかっていく。

残されたのは、壁際で真っ白に燃え尽きた女神の残骸だけだった。

数分後。

カイト農場の縁側にて。

七輪を囲み、男たち(カイト、リュウ、ルーベンス、龍魔呂、デューク)が車座になっていた。

網の上では、程よく炙り直された「くさや」が、相変わらず凶悪な匂いを放っている。

「……では、乾杯」

トクトクトク……。

龍魔呂が、奪い取った大吟醸を 猪口(ちょこ) に注ぐ。

「乾杯!」

男たちが猪口を掲げ、一気に煽る。

カッ……!

Sランクの神酒が喉を焼き、芳醇な米の香りが鼻に抜ける。

「うめぇぇぇ……!」

リュウが唸る。

「そして、ここにくさやを……!」

ルーベンスが干物を齧る。

強烈な塩気と発酵臭。

口の中がカオスになった瞬間、再び日本酒を流し込む。

「……合う!!」

全員が同時に叫んだ。

「これだ! この臭みが酒で洗われて、旨味だけが残る! 永遠機関(永久コンボ)だ!」

「くさやの個性を、大吟醸の懐の深さが受け止めている……!」

「最高のマリアージュだ……!」

男たちは夜空を見上げ、至福の溜息をついた。

臭い。確かに臭い。

だが、この臭さの中にこそ、人生の真実がある(気がする)。

「カイト、お前も飲め(※ジュース)」

「うん! くさや美味しいね!」

月明かりの下、紫色の煙に包まれた男たちの宴は、夜更けまで続いた。

一方、リビングの窓からその光景を眺める女性陣。

「……信じられない。あんな毒ガス食べながら笑ってるなんて」

ラスティアが呆れる。

「男って、本当にバカな生き物ですわね……」

リベラが溜息をつく。

そして、ソファの隅では。

体育座りをしたルチアナが、虚ろな目で壁を見つめながら呟いていた。

「……春なんて……春なんて来なければいいのに……」

彼女の心の冬は、もう少しだけ続きそうだった。