軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 7

【二派】くさや戦争勃発! 臭いけど美味い派 vs 焼却処分派

「捨てなさい! 今すぐに!」

「埋めて! コンクリートで固めて地中深くに封印して!」

カイト農場の庭先は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

紫色の煙が立ち込める中、風紀委員長リベラと創造神ルチアナが、鼻をハンカチで押さえながら金切り声を上げている。

足元では、世界最強の神獣フェンリルと始祖竜ポチが、白目を剥いてピクピクと痙攣している。もはや虫の息だ。

「カイト! あなた正気!? 友達(ペット) を殺す気!?」

魔王ラスティアが、風魔法で必死に煙を押し返そうとする。

「ええ~……でも、これ高級品なんだよ?」

カイトが、網の上でこんがり(そしてド紫色に)焼けた干物をトングで掴んだ。

「ほら、焼きたてだよ! 誰か食べてみない?」

「「「絶対イヤ!!!」」」

女性陣が全力で拒絶する。

生理的嫌悪感。生存本能が「それを口に入れるな」と警鐘を鳴らしているのだ。

だが、その猛毒の煙の中へ、ふらりと歩み寄る男たちの姿があった。

「……待て」

「捨てるとは穏やかじゃないな」

元勇者リュウ、財務卿ルーベンス、そして鬼神・龍魔呂だ。

彼らは煙を吸い込んでも顔色一つ変えない。それどころか、その瞳は恍惚と輝いていた。

「リュウ!? あなた鼻が壊れたの!?」

リーザが叫ぶ。

「フッ……リーザちゃん。君にはまだ早いか」

リュウがニヒルに笑った。

「この匂いを『臭い』と感じるうちは、まだ子供だ。……俺たちのような、人生の酸いも甘いも噛み分けた 大人(ノンベエ) にとっては、これは『 芳香(アロマ) 』なんだよ」

「正気!?」

「その通りだ」

ルーベンスも頷く。

「激務に追われる日々……。疲れ切った肝臓が求めているのは、甘い菓子ではない。塩気と、発酵のクセ……そして酒精を受け止める強力な肴だ」

ルーベンスが、カイトの手から焼きたてのくさやをひょいと摘んだ。

そして、躊躇なく口に放り込む。

パクッ。

モグモグ……。

「ヒッ……食べ……!?」

リベラが悲鳴を上げる。

ルーベンスは目を閉じ、噛み締めた。

そして、カッと目を見開いた。

「……美味い!!」

「凝縮された魚の旨味! 鼻に抜ける強烈な発酵臭! それが脳髄を刺激し、唾液腺を崩壊させる!」

「ほう、やはりか」

龍魔呂も一口食べる。

「……素晴らしい塩梅だ。噛めば噛むほど味が染み出してくる。これはただの干物ではない。『酒を呼ぶ魔物』だ」

「酒……!」

その単語が出た瞬間、男たちの目の色が変わった。

そう、くさや単体では完成しない。

この強烈な個性を受け止める、清冽にして芳醇な「日本酒」があってこそ、真の芸術となるのだ。

「カイト、酒はあるか? 焼酎か、日本酒だ」

リュウが尋ねる。

「あ、ごめん。料理酒しかないや……」

「なんと……!」

男たちが絶望する。

くさやを前にして酒がない。それは拷問に等しい。

「……待て」

その時、龍魔呂が鋭い視線を館の方角へ向けた。

彼の鬼神としての感覚が、ある「気配」を捉えていた。

「……匂うぞ。この館のどこかから、極上の『大吟醸』の香りが漏れている」

「えっ? お酒なんてないよ?」

「いや、ある。……誰かが隠し持っているはずだ」

龍魔呂の視線が、こっそりと後ずさりしようとしていたルチアナの背中に突き刺さった。

「ッ!?」

ルチアナの肩がビクッと跳ねた。

「……ルチアナ。貴様、部屋に隠しているな?」

「し、知らないわよ! 私、お酒なんて……」

「目は口ほどに物を言うぞ」

龍魔呂が、くさやを齧りながら、ゆらりとルチアナに近づいていく。

その目は、肴を前にした酒飲みの、執念に満ちた捕食者の目だった。

「ひっ……!」

ルチアナが逃げ出す。

だが、酒を求める男たちの包囲網からは逃れられない。

こうして、くさやの是非を巡る戦争は、「幻の大吟醸」を巡る鬼ごっこへと発展していった。