作品タイトル不明
EP 6
【異臭】最強生物(フェンリル&ポチ)、くさやで撃沈
納豆の衝撃から数時間後の昼下がり。
カイト農場の庭先では、神狼フェンリルと始祖竜ポチが、秋の日差しを浴びて気持ちよさそうに昼寝をしていた。
『うむ……平和だ……』
『昨日の炒飯も美味かったし、今日は最高の昼寝日和だ……』
二大最強生物が腹を出して寝ている、のどかな風景。
だが、その平和は唐突に破られた。
「みんなー! おやつができたよー!」
庭のバーベキューコンロの前に、満面の笑みのカイトが現れた。
彼の手には、干物になったアジ(のような魔界魚)が大量に乗ったザルがある。
『ん? おやつか?』
フェンリルが片目を開ける。
『カイトの料理なら間違いあるまい。……また美味いもんか?』
「うん! 納豆が好評だったからね、今度は海の幸を発酵させてみたんだ!」
カイトはそう言うと、ザルの中の魚を熱した金網の上に並べた。
「『くさや』って言うんだ! 魚を発酵液に漬け込んで干した、旨味の塊だよ!」
ジュウウウゥゥッ……!!
脂の乗った魚が焼ける音がする。
最初は、香ばしい焼き魚の匂いがした。
だが。
次の瞬間。
ブワァァァァァッ…………!!!
魚から立ち昇った煙が、不自然な「ド紫色」に変色した。
そして、その煙が風に乗ってフェンリルとポチの方へ流れた瞬間――。
『ガフッ!?!?』
フェンリルが跳ね起きた。
彼の美しく鋭敏な鼻が、あり得ない角度にひしゃげた。
『な、なんだ!? 鼻が……俺の界王クラスの嗅覚が、灼けるように痛い!?』
『ぐえぇぇぇぇッ!!』
ポチが白目を剥いてのたうち回る。
『毒ガスだ! これは猛毒のブレス攻撃だァ! ……いや、それ以上だ! 腐った靴下とドブ川を煮詰めて、さらに硫黄を混ぜたような……!』
「ええ? そんなことないよ? いい匂いでしょ?」
カイトが煙の中でケロッとしている。
彼の農夫としての嗅覚は、堆肥や肥料で鍛えられているため、発酵臭に対して異常な耐性を持っていたのだ。
『バカ言え! これは兵器だ!』
フェンリルが涙目で叫ぶ。
犬(狼)の嗅覚は人間の数千倍から数万倍。
つまり、彼らにとってこの匂いは、「数万倍濃縮されたくさや臭」の直撃に等しい。
『結界だ! ポチ、 全方位防御結界(イージス・フィールド) を張れぇぇ!』
『無理だアニキ! 結界を貫通して匂いが染み込んでくるぅぅ!』
最強の神狼と始祖竜が、たかが焼き魚の煙に追い詰められ、庭の隅で重なり合って震えている。
「あ、いい感じに焼けてきた!」
カイトが無慈悲に魚をひっくり返した。
ジュワッ!!
第二波の紫煙が、トドメとばかりに拡散する。
『…………(プツン)』
フェンリルとポチの意識が飛んだ。
二頭は口から白い泡を吹き、痙攣しながら地面に沈んだ。
「あれ? フェンリル? ポチ? 寝ちゃったの?」
カイトが首を傾げる。
そこへ、騒ぎを聞きつけたリベラやルチアナたちが館から飛び出してきた。
「カイト様! 何事ですの!? 庭からドス黒いオーラが……って、くさッッ!?」
リベラが鼻を押さえて膝をつく。
「な、なによこの匂い!? 肥料タンクが爆発したの!?」
ルチアナがドレスの袖で顔を覆う。
「ち、違うよ! これは『くさや』っていう美味しい干物で……」
「捨てなさい!!」
ラスティアが叫んだ。
「今すぐその生物兵器を異空間に廃棄しなさい! 庭の草花が枯れるわ!」
「ええ~……美味しいのに……」
カイトがしょんぼりする。
だが、その強烈すぎる芳香に、逆に目を輝かせて近づいてくる男たちがいた。
「……ほう」
「……この香り、まさか」
リュウ、ルーベンス、そして龍魔呂。
酒飲み(ノンベエ)たちの目が、怪しく光った。