作品タイトル不明
EP 3
【審判】鬼神・龍魔呂の「黄金炒飯」理論
「……騒がしいな」
脂の煙と竜の熱波が充満する厨房に、氷のように冷徹な声が響いた。
煙を切り裂いて現れたのは、作務衣姿の鬼神・龍魔呂である。
彼は、ラードまみれのリュウ、粉まみれのルーベンス、そして口から煙を吐くデュークを、ゴミを見るような目で見下ろした。
「夜食を作ると言うから静観していたが……なんだこの惨状は。ここは残飯処理場か?」
「なっ……! 残飯だと!?」
リュウが中華鍋を構えて抗議する。
「俺たちが作っているのは、男の 魂(ソウル) フードだ!」
「魂? ……笑わせる」
龍魔呂は鼻で笑った。
「酸化した脂。舌を麻痺させる化学調味料。そして……ただ焦がしただけの炭素物質(デュークの炒飯)。そんなもので、私の胃袋が満たされるとでも?」
「なんだと貴様……!」
デュークのこめかみに青筋が浮かぶ。
龍魔呂は無言で、カイトの手から最後の中華鍋と、Sランク卵「極」を受け取った。
「……どけ、素人ども。『本物』を見せてやる」
龍魔呂がボウルに卵を割り入れ、そこに温かいご飯を投入した。
そして、箸で優しく、しかし素早くかき混ぜ始めた。
「えっ? 龍魔呂さん、焼く前に混ぜちゃうの?」
カイトが目を丸くする。
「そうだ。炒飯の失敗の9割は、米同士がくっつき、ベチャつくことにある。……ならば、焼く前に全ての米粒を卵液でコーティングしてしまえばいい」
龍魔呂の手つきは、まるで砂金を選別するように繊細だった。
米の一粒一粒が黄金色の卵を纏い、キラキラと輝き始める。
「これが『黄金の 鎧(ゴールド・アーマー) 』だ」
「な、なるほど……! 理にかなっている……!」
ルーベンスが唸る。
「行くぞ」
龍魔呂がコンロに火をつけた。
火力は中火。デュークのような爆炎ではない。
だが、鍋に米を投入した瞬間、その場にいた全員が息を呑んだ。
ザッ……ザッ……ザッ……!
音が違う。
リュウのような「ガコンガコン!」という暴力的な音ではない。
米が鍋肌を滑る、絹のような摩擦音。
龍魔呂の手首のスナップだけで、黄金の米粒が宙を舞い、空中で整列して鍋に戻っていく。
「美しい……」
カイトが見惚れる。
「余計な脂はいらない。卵の油分と、米の水分だけで踊らせる。……これが『 黄金炒飯(ゴールデン・チャーハン) 』だ」
鍋の中で、米が宝石のように発光し始めた。
パラパラと舞う米粒が、厨房の照明を反射し、黄金の粒子となって輝く。
「仕上げだ」
龍魔呂が最後に鍋肌から醤油を数滴垂らし、青ネギを散らした。
ジュッ……。
香ばしい香りが立ち上り、鍋を大きく一振り。
「……完成だ」
皿に盛り付けられたのは、もはや料理の域を超えた「黄金の山」だった。
一切のムラがなく、全ての米粒が独立して輝いている。
「…………」
リュウ、ルーベンス、デュークの三人が、ゴクリと唾を飲み込んだ。
ラードも、魔法の粉も、竜の炎もない。
ただ純粋な 技術(テック) のみで構成された、至高の一皿。
「食ってみろ。……飛び跳ねるぞ」
龍魔呂が箸を置いた。
男たちの、静かなる実食タイムが始まる。