作品タイトル不明
EP 8
【熱狂】どっちもちょーだい! スパチャの雨が降る
【1サビ】
リーザがステージの最前線へ躍り出た。
彼女は両手を広げ、50億人の視聴者に向かって、自身の欲望を隠すことなく叩きつけた。
『♪今日も私の為に世界が動く』
(カイトたち:『まわって! まわって!』)
『♪全て上手くいくわ』
(カイトたち:『絶対!』)
リーザの瞳が、カメラのレンズ越しに全銀河の視聴者を射抜く。
そして、アイドルの歴史を覆す、伝説のフレーズを叫んだ。
『♪愛も富も一つの物』
(リーザ:『どっちもちょーだい!』)
ズドォォォォォォンッ!!!
その叫びと同時に、配信画面が埋め尽くされた。
『¥1,000』『¥5,000』『¥10,000』『¥50,000』……
赤、青、黄色。
無数のスーパーチャット(投げ銭)が、まるで豪雨のように降り注いだのだ。
『言ったああああ!!』
『「どっちか」じゃない、「どっちも」だ!』
『その正直さがいい! 俺の給料全部持ってけぇぇ!』
視聴者たちのボルテージが爆発する。
AIや天使には言えない、「金も欲しい」という人間の 業(カルマ) を肯定した瞬間だった。
『♪ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪』
(カイトたち:『Want You! Want You!』)
『♪貴方の 愛(とキャッシュ) で生きていける』
(カイトたち:『Fuuu~!』)
キャッシュ。現金。
その単語がこれほど美しく響くことがあっただろうか。
リーザがウインクを飛ばすと、さらにスパチャの桁が上がった。『¥100,000』の赤スパが乱れ飛ぶ。
【Post-Chorus 1】
『♪だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ』
『♪だから、何処までもついて来てね♡』
ここでカイトが、涙を流しながら絶叫した。
全視聴者の代弁者として。
(カイトたち:『一生ついていくよー!!』)
『♪ダーリン!』
(リーザ:『チュッ♡』)
「ぐはぁっ!!」
画面の向こうで、数億人が尊死する音が聞こえた。
◇
(間奏)
竜王デュークのベースが唸りを上げ、元勇者リュウのドラムが激しくリズムを刻む。
少しファンキーな曲調に乗せて、ステージの 照明(キノコ) が怪しく明滅する。
そして、曲は2番へ。
ここから、リーザの「 貧乏生活(リアル) 」がさらに牙を剥く。
【2A】
照明が夕暮れのようなオレンジ色に変わる。
リーザが哀愁たっぷりに歌い出す。
『♪夕方の鐘が鳴ったわ』
(カイトたち:『キンコンカン!』)
『♪お腹はもうペコペコよ』
(カイトたち:『ぐ~!』)
『♪スーパーのシール見なきゃ』
(カイトたち:『半額!』)
『うわぁぁぁん!』
コメント欄が涙で埋まる。
『半額シール……俺たちの日常だ……』
『100億稼いでも、半額シールを忘れないでくれぇぇ!』
『♪ポイントカードも出さなきゃ』
(カイトたち:『ピッ! ピッ!』)
『♪家賃のために 節約しなきゃ』
(カイトたち:『現実はシビア~! ガマン!』)
リーザが、財布の中身を確認して溜息をつく演技をする。
その姿に、魔王ラスティアもステージ袖でハンカチを噛んでいた。
「魔王の私ですら、最近は経費削減がうるさいのよ……分かるわリーザ……!」
【2B】
だが、ここからが逆転劇だ。
リーザが顔を上げる。貧乏な自分を振り払うように。
『♪さぁ魔法の時間の始まりよ』
(カイトたち:『Change The World!』)
『♪地味な私は 楽屋に置いて行くわ』
(カイトたち:『バイバイ!』)
『♪マイクを握れば 私が女王様』
ドライアイス大根の煙の中から、リーザが仁王立ちで現れる。
その背後には、カイトが育てた「黄金に輝くカボチャ」が後光のように鎮座している。
(カイトたち:『オ・レ・の! 女王様ー!』)
【2サビ】
そして、欲望はさらに加速する。
『♪今夜も私の為に星が降る』
(カイトたち:『ひかって! ひかって!』)
『♪全部手に入れるわ』
(カイトたち:『強欲!』)
『♪夢も金貨も輝くもの』
(リーザ:『どっちも好きー!』)
『♪株券欲しい♪ お城も欲しい♪』
(カイトたち:『Buy Now! Buy Now!』)
『♪貴方の愛(と貢ぎ)で輝いていける』
(カイトたち:『Fuuu~!』)
「貢ぎ」と言い切った!
だが、視聴者はもう止まらない。
『貢がせてくれぇぇ!』
『俺の年金を使ってくれぇぇ!』
スパチャのシステムが処理落ち寸前になるほどの熱狂。
カイトもステージ下で、もはや農夫の顔ではなかった。
完全なる「トップオタ」として、大根ライトを振り回し、喉を枯らしていた。
「いけぇぇぇリーザちゃん!! 銀河一の強欲アイドルになれぇぇぇ!!」