軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 13

極北の狼と始祖竜、おやつで和解する

夏真っ盛り。

カイト農場は、猛暑に見舞われていた。

「あー、暑い。かき氷食べたい……」

俺、カイトは縁側でぐったりしていた。

隣ではポチも「きゅ……」と暑さで伸びている。

庭にいるフレア(不死鳥)さんは、暑さなんて関係ないとばかりに優雅に洗濯物を干しているが、見ているだけで体感温度が上がる。

その時だった。

ヒュオオオオオオッ……!

突如、強烈な吹雪が巻き起こり、真夏の農場が一瞬で極寒の地に変わった。

トマトの苗に霜が降り、バケツの水が凍りつく。

「ヒャハハハッ! 見つけたぞォォ!! ここに最強の気配があるッ!!」

空から降ってきたのは、銀髪に獣耳の青年――狼王フェンリルだ。

彼は狂気じみた笑みを浮かべ、縁側のポチを指差した。

「テメェだな……! 世界を震わせる覇気の正体は! 俺と殺し合おうぜェェ!!」

ポチが片目を開けた。

その金色の瞳が、面白そうに細められる。

いつもの 雑魚(オークやドラゴンゾンビ) とは違う。目の前の狼は、自分と対等に渡り合える「強者」の匂いがしたからだ。

「グルルッ……(いいだろう、遊んでやる)」

ポチが立ち上がった瞬間、二つの巨大な魔力が衝突した。

ドゴォォォォォォォンッ!!!!

開戦の合図は、大気の破裂音だった。

フェンリルの爪が空間を引き裂き、ポチの尾がそれを弾き返す。

「オラオラオラァッ! 凍れェェ!!」

「ギャオオオッ!!(燃え尽きろ!!)」

フェンリルが絶対零度の吹雪を放てば、ポチは口から黒い獄炎ブレスを吐き出して相殺する。

氷と炎がぶつかり合い、水蒸気爆発が連鎖する。

農場の空が、右半分は氷河期、左半分は灼熱地獄という異常気象に見舞われた。

「す、すげぇ……!」

見物していたドラグラス(竜王)とラスティア(魔王)は、結界を張りながら震えていた。

「同格……! あの戦闘狂のフェンリルと互角に渡り合うとは!」

「ちょ、ちょっと! このままだと大陸の形が変わっちゃうわよ!?」

二人の心配をよそに、戦いは激化していく。

フェンリルが氷の分身を千体生成して突撃させれば、ポチは時空を歪めてそれを回避し、フェンリルの懐に飛び込んで頭突きをかます。

「ぐはっ! やるなぁテメェ! 最高の喧嘩だぜ!」

「グルルッ!(もっと楽しませろ!)」

お互いに一歩も引かない。

世界最強同士の、次元を超えたじゃれ合い(デスマッチ)。

だが、その光景を見ていたカイトの感想は違った。

「うわあ……。ポチのやつ、新しい友達ができてはしゃいでるなぁ」

カイトには、二匹が庭で転げ回って遊んでいるようにしか見えていなかった。

すごい砂埃だ。元気なのはいいけど、これじゃあ畑が埃まみれになってしまう。

「こらー! 二人とも、遊びはその辺にしておけー!」

カイトの声など届かない。

興奮した二匹は、さらに魔力を高めていく。

フェンリルが「この一撃で終わらせてやる!」と最大出力のブレスを構え、ポチも「受けて立つ!」と口を大きく開けた。

(まずい、農場が消し飛ぶ!)

カイトはため息をつき、お盆を持って縁側から降りた。

「はいはい、休憩! お茶にするぞー!」

カイトが差し出したのは、キンキンに冷えた麦茶と、採れたてのトウモロコシ(茹で)だった。

その甘い匂いが、戦場に漂った瞬間。

ピタリ。

ポチの動きが止まった。

鼻をヒクつかせ、視線がトウモロコシに釘付けになる。

(……トウモロコシだ)

ポチの中で、優先順位が瞬時に入れ替わった。

【最強のライバルとの死闘 <<<< カイトの茹でたてトウモロコシ】

「きゅぅ~!」

ポチは一瞬で殺気を霧散させ、フェンリルに背を向けてカイトの元へ走った。

しっぽを振って「早くくれ」とねだる姿は、ただの愛犬そのものだ。

「あ? おい、待てよ!」

取り残されたのはフェンリルだ。

拳(爪)を振り上げたまま、完全に梯子を外された形になった。

「ふざけんな! これからがいいところだろ!? 無視すんなよオイ!」

フェンリルは納得がいかない。

ポチの肩を掴んで、無理やり振り向かせようとした。

「続きをやろうぜ! 俺はまだ満足してねえんだよぉぉ!!」

ギャンギャンと騒ぎ立てるフェンリル。

せっかくのおやつタイムを邪魔されたポチが「うざい」という顔をした、その時。

「――うるさいわよ、駄犬ッ!!!」

ドォォォォォォンッ!!!

真横から、紅蓮の炎がフェンリルを直撃した。

洗濯物を干し終わったフレア(不死鳥)が、鬼の形相で立っていた。

「せっかくカイト様との優雅なティータイムが始まると思ったのに! あんたの喚き声で台無しじゃない! 静かにしなさいよ!」

「ギャアアアアッ!? あ、熱っ!? フレア、テメェ何しやがる!」

フェンリルは黒焦げになって吹っ飛んだ。

氷属性の彼にとって、フレアの不死鳥の炎は相性最悪の激痛だ。

「文句ある? これ以上騒ぐなら、あんたを炭にして畑の肥料にするわよ?」

フレアの背後には、八つの炎龍が鎌首をもたげている。

完全に目が据わっていた。

「わ、分かったよ! 静かにすりゃいいんだろ……!」

さすがの戦闘狂も、キレたオカン(フレア)と、おやつに夢中なライバル(ポチ)を相手にしては、戦意を維持できなかった。

「……まったく。男の子たちは野蛮なんだから」

フレアはため息をついて髪を直すと、瞬時に「しとやかな美女」の顔に戻ってカイトに向き直った。

「カイト様、お茶が入りましたわ。いただきましょう(はぁと)」

「あ、ありがとうフレアさん。……兄ちゃんも大丈夫か? 喧嘩して腹減ったろ?」

カイトは黒焦げのフェンリルにも、トウモロコシを差し出した。

フェンリルは悔しそうに唸りながらも、その匂いに抗えず、ガブリと齧りついた。

「……ッ!?」

美味い。

なんだこのトウモロコシは。一粒一粒に魔力が凝縮され、甘味が爆発する。

戦いの疲れが一瞬で吹き飛び、力が漲ってくる。

「うめぇ……! なんだこれ、うめぇぞ!」

「だろ? 喧嘩するより、みんなで食べたほうが美味いだろ」

カイトが笑う。

ポチも「きゅぅ(分かったか新入り)」と、先輩風を吹かせてトウモロコシの芯をしゃぶっている。

フェンリルは、口元のトウモロコシと、のんきなカイトの顔を交互に見た。

そして、ため息をついて地面に座り込んだ。

「……負けたぜ。ここではテメェ(ポチ)とやり合うより、この飯を食ってる方が幸せかもしれねえ」

こうして、極北の狼王フェンリルは、トウモロコシ一本で陥落した。

以降、彼はカイト農場の「番犬」として居着くことになるが、たまにポチとじゃれ合っては、フレアに焼かれるのが日常となるのだった。