作品タイトル不明
EP 9
【実食】ボスドロップは『ゼロカロリー・ドラゴン』
「はぁ……はぁ……! もう、歩けないわ……」
地下ダンジョン最深部。
創造神ルチアナが、汗だくでその場に膝をついた。
彼女の頭上に表示されたカウンターは『消費:99,800kcal』。
目標の10万キロカロリーまで、あとわずかだ。
「頑張ってくださいルチアナ様! あと少しで借金完済ですわ!」
リベラが励ますが、彼女も眼鏡が曇り、足がプルプルと震えている。
ファミレスでの暴食分は完全に燃焼した。だが、それ故に――。
「……お腹、空いた」
魔王ラスティアが本音を漏らした。
運動すれば腹が減る。これは生物の理だ。
だが、ここで食べれば元の木阿弥。
その時だった。
プルルンッ……!!
巨大な振動と共に、ダンジョンの天井から何かが降ってきた。
それは、全長30メートルはある巨大なドラゴンの形をした、透き通るような「スライム」だった。
「ボスだ! ……でも、なんか様子が変だぞ?」
カイトがツルハシを構える。
そのボスモンスターからは、腐臭や獣臭ではなく、ほのかに「グレープフルーツの香り」が漂っていた。
「鑑定しますぅ!」
ルナが目を細めた。
「こ、これは……Sランク変異種! 『ゼロカロリー・エンペラー・スライム(こんにゃくゼリー味)』ですぅ!」
「「「ゼロカロリーぃぃぃ!?」」」」
その単語を聞いた瞬間、女性陣の目に野獣の光が宿った。
「つまり……いくら食べても太らないってこと!?」
「夢の食材じゃない!」
「 殺(や) るわよ!!」
空腹の女神たちが殺気立つ。
だが、相手は物理攻撃を弾くプルプルの弾力ボディだ。
「カイトさん! 私が凍らせますから、砕いてくださいぃ!」
ルナが杖を掲げた。
「『 絶対零度(アブソリュート・ゼロ) 』!」
カチコチコチッ!!
極大の冷気がスライムドラゴンを包み込み、一瞬にして巨大なシャーベット状の氷像へと変えた。
「ナイスだよルナ! ……いくぞッ!」
カイトが跳躍した。
手にしたボロボロのツルハシに、農作業で培った筋力を込める。
「『 開墾(クラッシュ) ・インパクト』ォォォッ!!」
ガゴォォォォォンッ!!!
一撃。
巨大な氷像は粉々に砕け散り、キラキラと輝く「一口サイズのゼリー」となって降り注いだ。
◇
「……素晴らしい素材だ」
どこからともなく、鬼神・龍魔呂が現れた。
彼はカイトたちとは別ルートで採掘していたらしいが、食材の気配を察知して合流していた。
「これは天然の『寒天』と『魔界コンニャク芋』のハイブリッドだ。糖質ゼロ、脂質ゼロ。それでいて食物繊維はレタスの100倍……!」
龍魔呂が手際よく、砕けたゼリーの山を器(ツルハシで掘った岩の皿)に盛り付ける。
そこに、特製の「カロリーオフ・シロップ」を回しかけた。
「さあ、食うがいい。これぞ『無限デザート』だ」
「「「いただきまぁぁぁす!!」」」
女性陣が群がった。
スプーンなどない。手づかみで、冷たくてプルプルの塊を口に放り込む。
「んん~ッ! 冷たくて美味しいぃぃ!」
「弾力がすごいわ! 噛みごたえがあるから満腹感が出る!」
「しかもゼロカロリー! これは実質、空気を吸ってるのと同じよ!」
パクパクパクパク……!
猛烈な勢いで消費されていくゼリーの山。
カイトも横で食べている。
「うん、さっぱりしてて美味しいね! 農作業の合間に良さそう!」
「いくらでも入りますわ! 私の胃袋は宇宙ですの!」
リベラも理性をかなぐり捨てて貪り食う。
借金は、ボス討伐の 報酬金(ドロップアイテム) で既に完済されていた。
あとは、この食欲を満たすだけだ。
全員の腹が、妊婦のようにパンパンに膨れ上がった頃。
ドスゥン!!
天井の穴から、黄金のドラゴン――竜王デュークが降り立った。
彼は呆れた顔で、腹を突き出して動けなくなっている女性陣を見下ろした。
「……貴様ら、馬鹿なのか?」
「なによデュークぅ……ゲプッ。これはゼロカロリーなのよ? 太らないわ」
ラスティアが強気に言い返す。
だが、デュークは冷酷な事実を告げた。
「確かにカロリーはゼロかもしれん。だが……」
デュークは、ラスティアのパンパンになったお腹を指差した。
「それだけ大量の固形物を詰め込めば、『胃袋が拡張』される。……つまり、胃が大きくなり、今まで以上に空腹を感じやすい体質になったということだ」
「…………え?」
空気が凍りついた。
「さらに言えば、消化のために内臓が活発化し、これから猛烈な食欲が襲ってくるだろう。……リバウンドの準備は完了だな」
「いやぁぁぁぁぁぁッ!!!」
ルチアナが絶叫する。
ゼロカロリーの罠。
質量保存の法則は絶対だ。食べた体積の分だけ、胃は広がる。
「さあ、帰るぞ。……明日からは、拡張された胃袋を縮めるための『 断食(ファスティング) 合宿』だ」
デュークが無慈悲に告げた。
満腹の幸福感は一瞬にして消え去り、再び地獄への扉が開かれたのだった。