作品タイトル不明
EP 6
【会計】「レジ前で財布を出さない女たち」仁義なき割り勘バトル
カランコロン♪
朝の光が差し込む『デモンズ・ガスト』。
12時間にも及ぶ耐久女子会がついに幕を閉じた。
テーブルの上には、戦いの爪痕(空のグラスと皿の山)が残され、彼女たちは満足げな顔で席を立った。
だが、最後の難関が待ち受けていた。
「……お会計、35万ゴールドになりまぁす」
サキュバス店員が、無慈悲に伝票を突きつけた。
深夜のテンションで頼んだ「パフェ」や「マグマポテト」、そして延長料金が積み重なり、ファミレスとは思えない金額になっていた。
その瞬間。
レジ前の空気が凍りついた。
「…………」
全員の視線が泳ぎ始める。
「あらぁ~? おかしいわねぇ~」
トップバッターは創造神ルチアナだ。
彼女は明後日の方向(天井のシミ)を見つめながら、バッグをゴソゴソと探るフリを始めた。
「財布を何処へやったのかしら~。神界に置いてきちゃったかしら~。……あー、聞こえないわー」
「私もだわ……」
次に魔王ラスティアが、虚空を見つめて呟いた。
「さっき食べたパフェの重力で、亜空間ポケットが歪んでしまったのかも……。私の財布、ブラックホールの事象の地平線に吸い込まれてしまったようだわ」
「奇遇ね。私もよ」
不死鳥フレアが、自分のスカートをパタパタと叩いた。
「さっきドリンクバーで熱くなりすぎて、間違って燃やしちゃったかも。……灰になっちゃったわ、テヘペロ」
「…………(無)」
アイドル・リーザに至っては、気配を完全に遮断していた。
彼女はマネキンのように直立不動となり、「私はここにはいない。私はオブジェ」というオーラを放っている。
「……はぁ」
風紀委員長リベラが、こめかみをピクピクさせながら深いため息をついた。
(やはり……こうなりますのね)
逃げる神々。
とぼける魔王。
石化するアイドル。
残るは……。
「あら、金貨ですかぁ? ないなら作ればいいじゃないですかぁ」
オーナー・ルナが、無邪気に掌をかざした。
「『 物質生成(マテリアル・クリエイト) 』。……これくらいあれば足りますかぁ?」
ジャラジャラジャラ……!
ルナの手から、精巧な偽造金貨(成分はただの鉛)が生成されようとしていた。
「やめてくださいッ!!!」
リベラが慌ててルナの手を掴んだ。
「それは通貨偽造! 重罪ですわ! 天魔窟の経済が崩壊します!」
「えぇ~? じゃあどうするんですかぁ?」
「くっ……」
リベラは震える手で自分のバッグを握りしめた。
35万ゴールド。
彼女のポケットマネー(今月の給料)が吹き飛ぶ額だ。経費で落ちるだろうか? いや、監査役のルーベンスに「ファミレスで35万?」と詰められたら言い訳できない。
(……まさか、私が払うしかありませんの?)
リベラが財布を取り出そうとした、その時だった。
「……待ちなさいリベラ」
ルチアナが、バッ! と手を挙げた。
「いいえ! ここはやっぱり、皆様の頂点に立つ女神である私が払います! 神としての威厳を見せる時よ!」
「あら、悪いわよルチアナ」
ラスティアも、スッ……と手を挙げた。
「ここは魔王である私が払うわ。天魔窟は私の庭みたいなものだし、年長者の義務よ」
「いいえ! 私が払うわよ!」
フレアも手を挙げる。
「私も払いますぅ! オーナーですからぁ!」
ルナも乗っかる。
「……いえ、私が払います」
石化していたリーザまで手を挙げた。
その光景を見て、リベラの中に「申し訳なさ」と「常識人としてのプライド」が湧き上がった。
(皆さん……やっぱり悪いと思って……)
「……いいえ、皆さん。ここは私が払いますわ」
リベラがおずおずと手を挙げた。
年長者たちに奢らせるわけにはいかない。それが風紀委員長としての矜持。
リベラの手が挙がった、その瞬間。
ルチアナ・ラスティア・フレア・ルナ・リーザが、一斉にリベラに掌を向けた。
「「「「「どうぞどうぞ!!!」」」」」
「…………へ?」
リベラの手が空中で止まった。
見事な連携。
一糸乱れぬダチョウ倶楽部。
「じゃ、お願いねリベラちゃん♡」
「ごちそうさま~!」
「領収書は『カイト農場』でお願いね!」
「あ、ちょ、待っ……!?」
抵抗する間もなく、女性陣は自動ドアを抜けて外へと逃走した。
残されたのは、呆然とするリベラと、無表情で手を差し出すサキュバス店員のみ。
「……35万になりまぁす」
「……うぅッ……うぅぅッ……!」
リベラは涙を流しながら、震える手で金貨を数えた。
(……覚えてらっしゃい。この分は、来月の皆様のおやつ代から天引きさせていただきますわ……!)
チャリーン。
悲しい支払いの音が響く。
だが、店を出たリベラを待ち受けていたのは、金欠の悲しみをも吹き飛ばす、驚愕の光景だった。