軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 5

【泥沼】開始8時間。深夜のテンションと「デザート別腹理論」

入店から8時間が経過した。

時刻は、丑三つ時を回った深夜2時。

ファミレス『デモンズ・ガスト』のボックス席は、先ほどまでの熱気とは打って変わり、淀んだ空気が漂っていた。

テーブルには空になったポテトの皿、溶けた氷のグラス、そして突っ伏して動かない美女たちが転がっている。

「……もう、疲れたぁ……」

テーブルに頬を押し付け、虚ろな目で呟いたのは、アイドル・リーザだ。

彼女の目は死んでいた。キラキラしたアイドルのオーラは、深夜のドリンクバーに溶けて消滅していた。

「……私、もうアイドル辞めようかなぁ」

「あら、どうしたの急に」

爪の甘皮をいじっていたラスティアが、気のない声で返す。

「だってぇ……笑顔で握手して、雨の中で歌って、デューク教官に走らされて……割に合わないのよぉ」

リーザがズズズ……と、炭酸の抜けたコーラを啜った。

「私……**『石油王』**と結婚したい」

「石油王……?」

「そう。働かなくても毎月口座に5000億振り込んでくれて、私のこと『姫』って呼んでくれて、ドバイに別荘買ってくれる石油王と結婚したいのぉぉ!」

リーザがバンバンとテーブルを叩く。

深夜特有の、リアルで生々しい欲望の吐露。

「……分かるわ」

不死鳥フレアが深く頷いた。

「私も、自分の炎で焼き鳥焼くの飽きたわ。誰かに焼いてもらった肉を食べながら、一生寝て過ごしたい」

「……リベラさんは? 結婚願望とかないの?」

「私ですか……?」

話を振られたリベラは、眼鏡を外し、眉間を揉みながら遠い目をした。

「……私は、私のことを『六法全書』より大切にしてくれる方なら、種族は問いませんわ。……でも、今のところ書類と判子と結婚しているような状態ですけれど」

「重い……空気が重いですぅ……」

ルナがメロンソーダの泡を見つめながら呟く。

ファミレスの深夜トークは、夢も希望もない「人生の泥沼」へと沈んでいく。

その時だった。

「……ねえ、みんな」

沈黙を破ったのは、創造神ルチアナだった。

彼女はメニュー表のあるページを開き、獲物を狙う猛獣のような目で凝視していた。

「……私、もう限界」

「え? 何が?」

「**『パフェ』**頼んでいい?」

「はぁ!?」

全員が飛び起きた。

深夜2時。最も脂肪が蓄積されやすく、ダイエットにおいては「死」を意味する時間帯だ。

「正気!? デュークのブートキャンプが無駄になるわよ!?」

ラスティアが止めるが、ルチアナは不敵に笑った。

「甘いわね、ラスティア。……**『別腹理論』**を知らないの?」

「別腹……?」

「そうよ。甘いものを見ると、胃袋が『おっ、デザートが来たぞ!』ってスペースを空けるの。これは脳科学的に証明されているのよ(※嘘です)」

ルチアナは力説した。

「それに、私たちは今日、たくさん喋ったわ。脳みそフル回転よ。つまりカロリーはプラマイゼロ……いや、マイナスよ!」

「……!!」

その 悪魔的屁理屈(ロジック) に、全員の理性が揺らいだ。

「た、確かに……頭を使うと甘いものが欲しくなるって言うし……」

「ストレス発散も必要よね……?」

「すいませぇーん!」

ルチアナが迷わずボタンを押した。

「『バベルの塔・特盛りパフェ』一つ! 生クリーム増量で!」

その注文が、堰を切った。

「裏切り者ォ! ……すいません、私も『濃厚チョコブラウニーマウンテン』!」

フレアが叫ぶ。

「私もですぅ! 『プリン・ア・ラ・モード』のプリン3倍でぇ!」

ルナも続く。

「わ、私は……『季節のパンケーキタワー』を……メープルシロップ漬けで……!」

ラスティアも陥落した。

最後に残ったのはリベラだ。

「み、皆さん……この時間に糖質爆弾はマズいですわ……内臓脂肪が……」

「リベラさん」

リーザが、悪魔の顔でリベラの肩に手を置いた。

「石油王はいなくても、『ティラミス』は裏切りませんよ?」

「ッ!!」

リベラの瞳から理性の光が消えた。

「……店員さん。『大人のほろ苦ティラミス』、ホールでください」

「「「キャハハハハハハ!!」」」

深夜のファミレスに、堕落した女たちの笑い声が響く。

数分後。

テーブルの上には、茶色と白とピンクの「糖分の塔」が林立していた。

「いただきまぁぁぁす!!」

ガツガツガツッ!

彼女たちはスプーンを振るった。

生クリームの甘さが、チョコレートのコクが、疲れた脳髄と筋肉に染み渡る。

「おいしぃぃぃ! 糖分こそが正義よぉぉ!」

「明日から本気出す! 今日はチートデー延長戦よぉ!」

深夜2時の暴食。

それは背徳の味。

だが彼女たちは忘れていた。

この数時間後に訪れる「お会計」という名の現実と、店の外で待ち受ける「さらなる 地獄(ダンジョン) 」の存在を。