軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 3

【入店】天魔窟のファミレス『デモンズ・ガスト』へようこそ

天魔窟のネオン街の一角に、その店はあった。

赤と黒の看板に、 蝙蝠(コウモリ) のマーク。

24時間営業の魔界ファミリーレストラン、『デモンズ・ガスト』である。

「……着いた……」

「……ここが、約束の 地(オアシス) ……」

自動ドアの前に立ったのは、カイト農場から命からがら逃げ出してきた女性陣だった。

創造神ルチアナ、魔王ラスティア、風紀委員長リベラ、不死鳥フレア、アイドル・リーザ、そしてオーナー・ルナ。

全員、髪はボサボサ、足取りは生まれたての子鹿のようにプルプルと震えている。

まるで敗残兵のような一行だが、その目は「座りたい」という執念だけで燃えていた。

ウィィィィン……。

自動ドアが開く。

「いらっしゃいませぇ~。デモンズ・ガストへようこそぉ~」

気だるげな声と共に、冷房の冷気がフワッと顔に当たった。

「「「あぁぁぁ……涼しいぃぃぃ……!!」」」

全員がその場で崩れ落ちそうになった。

デュークのブレスで焼かれた肌に、人工的な冷気が染み渡る。これぞ文明の利器。

「……何名様ですかぁ?」

現れたのは、ボンテージ風の制服を着たサキュバスの店員だった。

尻尾をパタパタさせながら、ガムを噛んでいる。接客態度は極めて「塩対応」だ。

「……6名よ」

ルチアナが、カウンターに手をついて身体を支えながら言った。

「できれば、奥の……ドリンクバーに近いボックス席をお願い。……絶対に、動きたくないの」

「はいはい、6名様ご案内~。禁煙席でいいですかぁ?」

サキュバス店員は、客が「神」だろうが「魔王」だろうが気にしない。彼女にとって重要なのは、シフトが終わる時間だけだ。

「失礼しまぁす。お冷とおしぼりでぇす」

案内されたのは、ふかふかの赤いソファ席だった。

ドサッ、ドサッ。

女性陣が吸い込まれるようにソファに沈み込む。

「……はふぅ。お尻が……お尻が守られているわ……」

ラスティアが涙ぐむ。

さっきまで砂利道でスクワットをさせられていた臀部が、ベルベットの感触に癒やされていく。

「……ご注文はお決まりですかぁ?」

店員がハンディ(注文端末)を構える。

さあ、戦いの始まりだ。

彼女たちはカイト農場から着の身着のままで逃げてきた。所持金は少ない。

だが、時間は無限にある。

ルチアナがメニュー表をバサッと広げ、キリッとした顔で宣言した。

「『プレミアム・ドリンクバーセット』。……人数分で」

「……お食事は?」

「いらないわ。……あ、ポテトだけ一つ頂戴。『山盛りマグマポテト(Lサイズ)』を」

「以上で?」

「以上よ」

チッ。

サキュバス店員の舌打ちが聞こえた気がした。

客単価の低い、最も嫌われるタイプの注文だ。

「……かしこまりましたぁ。ドリンクバーはあちらになりまぁす」

店員が去っていくと、リベラが恐縮しながら小声で言った。

「ルチアナ様……さすがに申し訳なくないですの? 6人で席を占領して、ドリンクバーだけなんて」

「何言ってるのよリベラ」

ルチアナは、おしぼりで顔を拭きながら、ふてぶてしく笑った。

「私、神よ? 言わば『お客様は神様』の語源よ? 私が座っているだけで、この店のご利益になるんだから感謝してほしいくらいだわ」

「その理屈は人間界では通じませんわ……」

「それにね」

ルナがストローを弄りながら補足した。

「ここは『天魔窟』ですよぉ。私、ここのオーナーですからぁ。文句は言わせませんよぉ」

「権力の私物化……!」

リベラは頭を抱えた。

だが、もう後戻りはできない。

彼女たちは、デュークの筋肉地獄から逃れるため、このファミレスという砦に立て籠もることを選んだのだ。

「さあ、行くわよ皆!」

ルチアナが号令をかける。

「まずは一杯目……『メロンソーダ』で乾杯よ! 朝まで粘るわよ!」

「「「おー!!」」」

こうして、伝説の「12時間耐久女子会」の火蓋が切って落とされた。

外ではポチが「俺のポテトまだか……」と駐車場で待機している中、店内では、神々による終わらないお喋りが始まろうとしていた。