作品タイトル不明
第十二章 12時間ファミレス耐久レース
【絶望】デューク教官の『おはようブレス』で始まる朝
午前4時00分。
まだ夜明け前。カイト農場は漆黒の闇と静寂に包まれていた。
本来なら、鳥のさえずりで目覚める爽やかな時間帯。
だが、今日の目覚まし時計は、「地獄の業火」だった。
「――起床ォォォォッ!! 起きろ豚共ォォォッ!!」
ドガァァァァァァァッ!!!
女子寮の窓ガラスが震え、真紅の炎が部屋の中に吹き荒れた。
太陽よりも熱い、物理的な「おはよう」だ。
「ぎゃあぁぁぁぁッ!! 熱っ!? 熱いぃぃぃ!」
創造神ルチアナが、焦げた布団から飛び起きた。
「何!? 敵襲!? 魔王軍の残党!?」
「魔王軍ならここにいるわよッ! ……髪が! 私のキューティクルがチリチリに!」
隣のベッドで、魔王ラスティアが髪先を焦がして悲鳴を上げる。
二人が慌てて窓の外を見ると、そこには――。
迷彩柄のタンクトップを着て、首からホイッスルを下げた竜王デュークが、仁王立ちしていた。
その口からは、まだ硝煙(ブレスの残り香)が漏れている。
「貴様ら、点呼に遅れるとは何事だ。グラウンドへ集合するまで3秒やる。それ以上遅れたら、次は部屋ごと焼却処分だ」
「さ、3秒ぉぉぉ!?」
「無茶苦茶よ! 着替える時間もないじゃない!」
ルチアナとラスティアはパジャマのまま、窓から飛び降りた。
廊下からは、同じく叩き起こされたリベラ、ルナ、フレア、リーザたちが雪崩のように転がり出てくる。
「ひぃぃッ! まだお肌のゴールデンタイムですのにぃ!」
「早起きは健康に良いですが、限度がありますわぁぁ!」
◇
校庭(グラウンド) 。
カイト農場の全住人が、整列させられていた。
全員、顔色は最悪。髪はボサボサ。そして何より、「重り」をつけられていた。
「……教官。質問よろしいですか」
リベラが、足首につけられた巨大な鉄球(アダマンタイト製)を指差して尋ねた。
「この、囚人がつけるような鉄球はなんですの? 重さがトン単位である気がしますけれど」
「アクセサリーだ」
デューク教官は、白い歯をキラリと光らせた。
「貴様らの体は、脂肪と糖分で腐りきっている。まずはその鉄球を引きずりながら、農場の外周を50周ランニングだ」
「ご、50周……!?」
「正気か!? 死人が出るぞ!」
ルーベンスが青ざめる。
だが、デュークは持っていた指導棒(鉄パイプ)をバシッと手のひらに打ち付けた。
「安心しろ。死にそうになったら、俺が回復魔法(物理)で叩き起こしてやる。……さあ、走れェェェッ!!」
ピピィーーーーッ!!
ホイッスルが鳴り響く。
地獄のマラソンが始まった。
「うぐっ……お、重い……足が上がらない……」
「ジャージが……また破けるぅぅ……」
ズルズル……ガシャン、ガシャン。
かつての世界の管理者たちが、鉄球を引きずりながらゾンビのように歩く。
時速2キロ。遅い。これでは日が暮れてしまう。
「遅いッ! 貴様らの脂肪はその程度か! もっと燃やせ! 魂(ソウル) を燃やすんだ!」
デュークが背後から、低威力の 火球(ファイアボール) を撃ち込んでくる。
「ひぃぃッ! お尻が熱いぃぃ!」
「鬼よ! 悪魔よ! トカゲよ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図。
だが、そんな集団の横を、爽やかな風と共に駆け抜ける影があった。
「おっはよー! みんな精が出るね!」
「……カイト様!?」
リベラが目を見開く。
カイトだ。
彼はいつもの作業着姿で、笑顔でランニングしている。
だが、彼の背後には、鉄球など比較にならない**「巨大な物体」**がロープで繋がれていた。
『Zzz……肉……骨付き肉……』
それは、爆睡している**始祖竜ポチ(全長20メートル・ドラゴン形態)**だった。
「えっ……ポチを引きずって走ってるの……?」
ルチアナが絶句する。
数百トンはある巨竜を、カイトはまるで散歩中の犬のように、軽々と引きずって走っていたのだ。
しかも、息一つ切らしていない。
「デュークさんが『準備運動しよう』って言うからさ! 丁度いいやと思って、ポチを起こさないように運んでるんだ!」
カイトはその場で軽やかに腿上げをした。
「いやぁ、朝の運動は気持ちいいね! これで朝ごはんが美味しく食べられそうだよ!」
「…………」
全員の心が折れる音がした。
(勝てない。この 農夫(バケモノ) には、基礎スペックで勝てない……!)
「ほらみんな、置いてくよー! 遅れると朝ごはん抜きだって!」
タッタッタッ……。
カイトは爽やかに加速し、砂煙を上げて周回遅れにしていく。
「……見たか、豚共」
デューク教官がニヤリと笑った。
「あれが『理想の肉体』だ。貴様らも死ぬ気で目指せ。……さあ、次はスクワット1000回だ!」
「「「殺す気かぁぁぁぁッ!!!」」」
カイト農場の朝は、絶望と筋肉痛の悲鳴と共に始まった。
だが、女性陣の目は死んでいなかった。
彼女たちの脳裏には、ある一つの「楽園」への逃走ルートが浮かんでいたのだ。