作品タイトル不明
EP 8
【最終決戦】ルナ vs 究極のジャンクフードセット
夜明け前。
カイト農場の食堂は、かつてない緊張感に包まれていた。
リベラを筆頭に、ルチアナ、ラスティア、男たち……レジスタンス全員が集結し、中央のテーブルを囲んで「 主(あるじ) 」の到着を待っていた。
バンッ!!
食堂の扉が、魔法の風圧で乱暴に開け放たれた。
「……何ですか、この匂いはぁぁぁぁッ!!」
現れたのは、ジャージ姿の新オーナー・ルナだ。
彼女は鼻をつまみ、信じられないものを見る目で食堂を見渡した。
「油! 焦げた肉! そして砂糖の甘ったるい匂い! 農場中に充満していますよぉ!?」
ルナの背後には、清浄な空気清浄の 精霊(ピクシー) たちが飛び回っている。
彼女にとって、この空間はまさに汚染区域だった。
「野菜はどうしたんですか! 朝食の準備は青汁のはずでしょう!?」
「……悪いな、オーナー」
厨房の奥から、鬼神・龍魔呂がゆっくりと姿を現した。
その手には、青汁ではなく、油でギトギトになったフライ返しが握られている。
「青汁は品切れだ。……今朝のメニューは、俺たちが決める」
「なっ……反乱ですか!? リベラさん、取り締まってください!」
ルナが助けを求めるようにリベラを見た。
だが、リベラは口の端に微かについたケチャップをナプキンで拭い、静かに首を横に振った。
「残念ながらルナ様。……私も『こちら側』ですわ」
「えぇっ!? リベラさんまで!?」
「貴女の健康統治は素晴らしい。ですが……人間には、たまには『汚れ(カロリー)』も必要なのです」
リベラが眼鏡をキラリと光らせる。その瞳は、炭水化物の快楽を知った者の色をしていた。
「汚らわしいですぅ! 皆さん、目を覚ましてください! 油と砂糖は毒ですよぉ!」
ルナが叫ぶ。
その純粋すぎる正義感。野菜こそが至高。果汁100%こそが真理。
その鉄壁の信念を砕くため、龍魔呂が一歩前に出た。
「……毒かどうか、その舌で確かめてみるがいい」
ドンッ!!
龍魔呂が、銀色のトレイをテーブルの中央に叩きつけた。
その上に鎮座していたのは、ルナの常識を根底から覆す『暴力の塊』だった。
「……な、何ですかこれは……」
ルナが後ずさる。
それは、パン(バンズ)からはみ出すほど巨大な肉の塊が二段重ねになった、『メガ盛りダブルチーズバーガー』。
隙間からは黄色いチーズがマグマのように溢れ出し、厚切りベーコンが舌を出している。
その横には、黄金の山脈――『山盛り爆裂ポテト』。
そして、氷が涼しげな音を立てる、漆黒の液体――『Lサイズ・魔界コーラ』。
「茶色い……! 全部茶色いですぅ! 緑色がピクルス一枚しかありませんよぉ!」
ルナが悲鳴を上げる。
彼女の視覚情報処理が追いつかない。
「汚らわしい……! こんな油の塊、食べるわけが……」
「いいから、一口食べてみてよ」
カイトがひょっこりと顔を出した。
彼は悪魔の笑みを浮かべ、ルナの手を引いて椅子の前へ連れて行った。
「ルナちゃん、これ食べたことないでしょ? 怖い?」
「こ、怖くありません! 私は大賢者ですよぉ!」
「じゃあ、味見してみて。……もしこれを食べて『不味い』って言うなら、僕たちは一生青汁生活に戻るよ。文句も言わない」
「カ、カイト!?」
ルーベンスが焦る。それはあまりに大きな賭けだ。
だが、カイトは自信満々だった。
(だって、これの匂いを嗅いで、平気な顔してる人なんていないもん)
「……本当ですね? 一生青汁ですね?」
ルナがゴクリと唾を飲んだ。
彼女の鼻腔を、強烈な肉とスパイスの香りがくすぐり続けている。
本能が「食わせろ」と叫び、理性が「拒否しろ」と叫ぶ。
「……分かりました。私が勝って、この農場を『完全野菜帝国』にしてあげますぅ!」
ルナは震える手で、巨大なハンバーガーを掴んだ。
ずしり。
重い。
そして、温かい。
包み紙越しに伝わる熱と、指先に滲む油の感触。
「(うぅ……手がベトベトしますぅ……)」
ルナは意を決して、その茶色い塊を口元へ運んだ。
目前に迫る肉の壁。とろけるチーズの滝。
「……い、いただきますぅ……!」
彼女が小さな口を大きく開け、その禁断の 果実(バーガー) へと喰らいついた。
ガブリッ!
その瞬間、世界が静止した。
ルナの瞳孔が開き、時が止まる。
カイト農場の運命を決める、最初の一口。
野菜の巫女が、脂の洗礼を受けた瞬間だった。