軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 7

【決起】深夜2時。女子寮に『ピザ』をデリバリーせよ

深夜2時30分。

カイト農場の女子寮の裏庭にある植え込みに、黒い影たちが潜んでいた。

「……リベラ殿。警備システム(魔法結界)の状況は?」

「問題ありませんわ。私が先ほど、メンテナンス名目で一時的に解除しました。……今なら『ブツ』を通せます」

風紀委員長リベラが、ケチャップのついた口元を拭いながら、冷静に報告した。

彼女は完全に「こちら側(カロリーの信徒)」に堕ちていた。その瞳は、獲物を狙う鷹のように鋭い。

「よし。……行くぞ、ポチ」

カイトが振り返る。

そこには、背中に巨大な保温バッグを背負わされた、漆黒の始祖竜ポチがいた。

『……おい。俺は誇り高きドラゴンだぞ。なんでピザの 配達員(デリバリー) なんか……』

「成功したら、ポチにも『Lサイズ・ペパロニ増し増し』あげるから」

『……チッ。仕方ねぇな。住所はどこだ』

ポチは舌なめずりをして、翼を広げた。

食欲の前には、ドラゴンのプライドなど紙切れ同然だ。

「目標は2階、ルチアナ様とラスティアの部屋の窓だ。……行け! 『オペレーション・チーズ・メルト』開始!」

ルーベンスの号令と共に、ポチが無音で夜空へ舞い上がった。

女子寮、205号室。

そこは、地獄の底のような空気が漂っていた。

「……お腹すいた……」

「……ひもじい……」

ベッドの上で、元・創造神ルチアナと、魔王ラスティアが死体のように転がっていた。

夕食は「温野菜サラダ(ドレッシングなし)」のみ。

彼女たちの胃袋は限界を超え、お互いの腹の虫の音で会話ができるレベルに達していた。

「ねぇラスティア……私、もうダメかも。天井のシミがポテトチップスに見えてきた……」

「奇遇ねルチアナ……私にはカーテンの柄が霜降り肉に見えるわ……」

二人は虚ろな目で笑い合った。

かつて世界を争った神と魔王が、空腹によって奇妙な連帯感で結ばれている。

「……ねぇ。なんか匂わない?」

ルチアナがふと鼻を動かした。

窓の外から、風に乗って漂ってくる香り。

それは、青汁の青臭さではない。もっと芳醇で、暴力的で、幸せな香り。

「……小麦が焼ける匂い……? それに、トマトソースと……焦げたチーズ……?」

「まさか……そんな……」

コンコン。

窓ガラスが叩かれた。

二人が弾かれたように起き上がり、窓を開けると――。

『へい、お待ち』

巨大なドラゴンの顔がニューッと現れ、保温バッグから「平たい箱」を差し出した。

「ポ、ポチ!? ……え、これって……」

ルチアナが震える手で箱を受け取り、蓋を開けた。

パカッ……!

その瞬間、部屋中に黄金色の輝きが満ち溢れた。

「ひぃぃっ……!!」

そこに鎮座していたのは、直径40センチはある『特製クワトロ・フォルマッジ(4種のチーズ)』と『ミート・ラバーズ(肉尽くし)』のハーフ&ハーフ。

Sランク小麦で作られた生地の上で、チーズが海のように波打ち、サラミとベーコンが山脈のように隆起している。

「あ、あぁぁ……! チーズが……お肉が……!」

「食べて……いいの……?」

二人が顔を見合わせる。

そして、次の瞬間、理性が崩壊した。

「いただきまぁぁぁすッ!!」

ルチアナがピザを鷲掴みにする。

持ち上げた瞬間、チーズが糸を引き、どこまでも伸びていく。

ガブリッ!

「んん~ッ!! 濃厚ぉぉぉ! チーズの塩気が脳みそに直撃するぅぅ!」

「こっちのお肉も最高よ! サラミの脂と生地のモチモチ感が……あぁん、幸せぇぇ!」

二人は貪り食った。

口の周りをソースでベタベタにし、カロリーという名のガソリンを枯渇した体に注ぎ込んでいく。

「野菜? 知るかそんなもの!」という心の叫びが聞こえてきそうだ。

「……ちょっと! あんたたちだけズルいわよ!」

バンッ! ドアが開いた。

隣の部屋から、不死鳥フレアとアイドル・リーザが飛び込んできた。

匂いに釣られたのだ。

「アイドルは深夜に食べちゃダメだって!? 知るもんか! 私は今、猛烈に炭水化物が欲しいのよ!」

リーザが目を血走らせてピザにダイブした。

フレアも続く。

「この匂い……! 私の炎でも再現できない『石窯焼き』の香ばしさ! よこしなさい!」

「あっ、こら! 私のサラミ取らないでよ!」

「早い者勝ちよ!」

女子寮の一室で、深夜のピザパーティー(争奪戦)が始まった。

彼女たちの顔には、久しく忘れていた「生気」と「油」が戻っていた。

「……よし。堕ちたな」

庭の茂みからその様子を確認した龍魔呂が、ニヤリと笑った。

「外堀は埋まった。女性陣もこちら側だ」

「作戦成功だね!」

カイトが親指を立てる。

残る敵は、この健康帝国の頂点に君臨する、たった一人の少女のみ。

「行くぞ。……本丸、ルナ様のいる食堂へ」

ルーベンスが眼鏡を直した。

彼の手には、龍魔呂が心血を注いで作り上げた『最終決戦兵器(究極のジャンクセット)』が握られている。

夜明け前。

カイト農場の命運を懸けた、最後の戦いが始まろうとしていた。