軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 8

【開局】ざわ……ざわ……! 賭博王のイカサマ技術

東一局。

全自動卓が牌をかき混ぜる音が止み、配牌が完了した。

「ロン。タンヤオ、ドラ1。2000点だ」

ルーベンスが眼鏡を光らせ、静かに牌を倒した。

彼は自身の 理論(ロジック) に基づき、堅実な手を組んでいた。

「わ~、負けた~(棒)。ルーベンスさん強~い」

対面のキュルリンが、わざとらしいほど平坦な声で悔しがった。

彼女の手牌はバラバラ。まるで初心者のような打ち筋で、ここ数局、カイトやルーベンスへの放銃(振り込み)を繰り返している。

「あれ? キュルリンちゃん、もしかして麻雀弱い?」

カイトが不思議そうに首を傾げた。

彼の目には、この街の支配者が、ただの「運の悪い女の子」に映っているようだ。

「えへへ……実は~、久しぶりだから調子が出なくてぇ」

キュルリンは舌をペロッと出し、上目遣いでルーベンスを見た。

「ね! お願い! もう少しスリルが欲しいの! レートを上げよう! ね! ね!」

「レートを上げる、だと?」

ルーベンスの手が止まる。

現在のレートは「点棒一本=金貨一枚」相当。これでも十分に高いが、彼女が提案したのは更なる深淵だ。

「点棒一本につき……『農場の権利書 1%』。どう? その代わり、私が負けたら天魔窟の権利を全部即座に譲渡するわ!」

常軌を逸した提案。

背後に控えるリベラが「異議あり!」と叫ぼうとしたが、ルーベンスがそれを手で制した。

「ふふ……良いだろう」

ルーベンスはニヤリと笑った。

(カモが焦って墓穴を掘ったな。私の計算では、彼女の打ち筋は隙だらけだ。ここで受けて立てば、一気に決着をつけられる!)

「その勝負、乗った。私の 計算(ロジック) で、貴女を丸裸にして差し上げよう」

「わぁい! ありがとうメガネさん♡」

キュルリンは満面の笑みを浮かべた。

だが、その瞳の奥が一瞬だけ、爬虫類のように細まり、濁った光を放ったのを、リベラだけが見逃さなかった。

(……まずいですわ。これは『釣り』ですわ!)

「よく分かんないけどぉ、続けていいですかぁ?」

東家のルナが、あくびをしながら牌をツモった。

彼女はレートの意味など理解していない。手元の牌を積み木のように並べ、絵柄を楽しんでいるだけだ。

「ええ、始めましょうか。……本当の勝負をね」

キュルリンが牌山に手を伸ばす。

その瞬間。

空気が変わった。

ざわ……ざわ……!

(馬鹿な男たち。今の「負け」は全て撒き餌よ)

キュルリンの指先が、目にも止まらぬ速さで牌をすり替える。

『燕返し(つばめがえし)』。

『エレベーター(積み込み)』。

彼女は全自動卓の内部構造すら熟知し、磁力を操作して、自分に有利な牌山を形成していたのだ。

「リーチ」

キュルリンの声が低く、冷たく響く。

先ほどまでの甘ったるい雰囲気は消え失せていた。

「ッ!?」

ルーベンスの背筋に悪寒が走る。

早い。

そして、捨て牌に迷いがない。

「一発ツモ。……メン・タン・ピン・三色・ドラドラ。 倍満(バイマン) 、16000点よ」

ドサッ。

牌が倒される。完璧に美しい手役。

「な……馬鹿な!? 確率的にあり得ないツモだ!」

「確率は『作る』ものなのよ、メガネさん? さあ、支払ってもらおうか!」

キュルリンが嗜虐的な笑みを浮かべる。

点棒が移動する。それはただの棒ではない。カイト農場の「所有権」が、ガリガリと音を立てて削り取られていく音だ。

「くっ……! まだだ、まだ私の計算の範疇だ……!」

ルーベンスの額に冷や汗が流れる。

カイトは「すごいね!」と無邪気に拍手し、ルナは「キラキラしてますねぇ」と牌を眺めている。

魔境・天魔窟の本性が牙を剥いた。

ここからが、地獄のジェットコースターの始まりである。