軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 7

【罠】キュルリンの提案。「この農場、賭けちゃわない?」

焼肉戦争が終わり、一同が食後の満腹感に浸っていた時だった。

テラスの照明がフッと落ち、代わりに毒々しいほどのピンク色のスポットライトが、テーブルの中央を照らし出した。

「――キュルリン! 皆、楽しんでるかな~?♡」

甘ったるい声と共に、空間から小さな影が飛び出した。

黒いゴシックドレスに、悪魔の翼。手にはペロペロキャンディ。

天魔窟の支配者、賭博王キュルリンだ。

「わっ、キュルリンちゃんだ」

カイトは焼肉のタレがついた口を拭きながら、ニコニコと手を振った。

「うん、楽しいよ。お肉も美味しかったし、ありがとう」

「あはは、それは良かったわ☆」

キュルリンは空中にふわりと浮き、無邪気な笑顔を振りまいた。だが、その瞳の奥には、獲物を狙う猛獣の冷たい光が宿っている。

「ねぇ、カイトお兄さん。せっかくここに来たんだもの。ただ遊んで帰るだけじゃもったいないと思わない?」

彼女は指パッチンをした。

すると、オークの黒服たちが現れ、テラスの中央に一台の**「全自動麻雀卓」**を設置した。

緑色のマットが、夜の闇の中で怪しく輝く。

「君たちの、その『豪運』を試さないか? 麻雀という、とっても楽しいゲームでさ♪」

「麻雀……?」

その単語に反応したのは、事務長ルーベンスだ。

彼は眼鏡の位置を直し、冷ややかに鼻を鳴らした。

「ほう。確率と心理戦の遊戯か。……『豪運』だと? 失礼なことを言う」

ルーベンスは自信たっぷりに前に出た。

「私は魔族の宰相だ。国家予算の管理から戦略立案まで、全て完璧な**『 計算(ロジック) 』**の元にやっている。運任せのギャンブルなどせんよ」

「へぇ~、頼もしいわねぇメガネさん♡」

「麻雀かぁ。懐かしいな」

カイトも懐かしそうに卓を撫でた。

「転生前(日本にいた頃)によくやったよ。ルールはだいたい覚えてるかな」

「あら、それなら私も負けてはいませんわ」

リベラが純白のスーツを翻し、一歩前に出た。

「法曹界では『卓上の魔女』と呼ばれていましたの。慶應卒の頭脳を舐めないで欲しいですわ。確率計算ならルーベンス殿にも引けを取りませんことよ?」

カイト、ルーベンス、リベラ。

この三人が揃えば、どんな勝負でも負ける気はしない。

だが、キュルリンはニヤリと口角を吊り上げた。

「OK、受けてくれるのね。……じゃあ、**『賭けるもの(ベット)』**を決めましょうか」

キュルリンは懐から、一枚の羊皮紙を取り出した。

「私が負けたら、この**『天魔窟の全権利』**をあげる。この街のオーナーになれるわよ」

「街一つ!?」

一同がざわめく。だが、キュルリンは続けた。

「その代わり……君たちが負けたら、『カイト農場の全権利』を頂戴するわ。もちろん、住人(神々)ごとね♡」

「なっ……!?」

場の空気が凍りついた。

これは遊びではない。侵略戦争だ。

「ふざけるな! そんな条件飲めるか!」

フェンリルが吠えるが、カイトは意外にもあっさりと頷いた。

「いいよ」

「カイト様!?」

「だって、勝てばいいんでしょ? それに、この街をもらったら、みんなでまた遊びに来れるし」

カイトの辞書に「敗北」の文字はない。

その揺るぎない自信に、リベラはハッとした。ここで止めるのは野暮というものか。

「……分かりましたわ。では、私が契約書の確認と立会人を務めます。イカサマなどさせませんわよ?」

リベラはプレイヤーではなく、最強の「監査役」として盤外に立つことを選んだ。彼女が睨みを利かせていれば、キュルリンも露骨な不正はできないはずだ。

「よし、プレイヤーは 私(キュルリン) と、カイトお兄さん、メガネさん(ルーベンス)で決まりね」

卓に着く三人。あと一人足りない。

「えぇっと、後は……」

カイトが後ろを振り返る。

そこには、やる気満々の神々(ルチアナ、ラスティア、デューク)が控えていた。

だが、キュルリンが人差し指を振った。

「あ、神々はダメだよ。創造神とか竜王とか、あからさまに『透視』とか『牌操作』とかしそうだし。チートを使われちゃ敵わないからね~」

「えぇーっ! ケチぃー!」

ルチアナがブーイングする。

神権の使用禁止。純粋な定命の者(に近い存在)でなければならない。

となると、残っているのは……。

カイトの視線が、焼肉のタレを頬につけたまま、ポケーっとしているエルフの少女に止まった。

「じゃあ……ルナ、入るか」

「……へ?」

ルナ(大賢者・20歳)が、きょとんとして自分を指差した。

「私ですかぁ? 麻雀って、あの四角いオモチャを並べるやつですかぁ?」

「そうそう。絵合わせゲームだよ」

「おいおいカイト、正気か!?」

ルーベンスが小声で叫ぶ。

「ルナ殿は賢者だが、中身は子供だぞ!? ルールも知らん素人を混ぜてどうする!」

「大丈夫だよ。ルナ、運は良さそうだし」

「うふふ、よく分かりませんけどぉ、楽しそうですねぇ」

ルナはニコニコしながら、四人目の席に座った。

南家:キュルリン(賭博王)

西家:カイト(天然)

北家:ルーベンス(理論派)

東家:ルナ(ド素人)

「ククク……素人を入れるとは、舐められたものね」

キュルリンは内心で狂喜乱舞した。

カイトはともかく、堅物のルーベンスと、カモになりそうな素人の小娘。

(勝った。この勝負、私の圧勝よ……!)

「よぉし、さぁやろう! 今夜は徹夜だよ☆」

ジャラジャラジャラ……。

全自動卓が牌を混ぜる音が、運命の歯車の音のように響き渡る。

カイト農場の存亡を懸けた、伝説の麻雀対決が幕を開けた。