軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 4

【男の聖域】カジノの裏路地。負けた男たちのヤニ休憩

煌びやかなネオンが支配する天魔窟の表通り。

その一本裏に入った薄暗い路地裏に、紫煙をくゆらせる男たちの姿があった。

そこは、勝負に勝った者の高笑いと、負けた者の嗚咽が入り混じる、この街の 澱(おり) のような場所。

だが、彼らにとっては心安らぐ「聖域」だった。

「……ふぅ」

魔族宰相ルーベンスが、壁に背を預けて煙を吐き出した。

普段の神経質な表情とは違い、今はどこか憑き物が落ちたような、晴れやかな顔をしている。

「……珍しいな、ルーベンス。お前がそんなに穏やかな顔をしているとは」

隣で携帯灰皿を持っていた鬼神・龍魔呂が、Larkを吸いながら声をかけた。

彼は市場で仕入れた「謎の香辛料」の入った紙袋を抱えている。

「龍魔呂、お前は遊ばないのか?」

「俺は明日の飯の仕込みがあるからな。ここの市場には、魔界特有の面白いスパイスがあるんだ」

龍魔呂は相変わらずだ。

カジノに来てまで、考えるのは家族(農場の皆)の胃袋のことばかり。

「そうか……まあ、お前らしいな」

ルーベンスは口元を緩め、懐から一枚の 馬券(トトカルチョ) を取り出した。

「私は少し遊ばせてもらったよ。あっちに『 競竜(けいりゅう) 』のコーナーがあってな」

「競竜? ドラゴンレースか」

「ああ。そこで伝説のジオ・リザード、『ゴールドシップ号』という暴れ馬(竜)が出ていてな」

ルーベンスの目が、少年のように輝き出した。

「凄かったぞ。ゲートが開いた瞬間に立ち上がって出遅れたかと思えば、道中で騎手を振り落とさんばかりに暴れ回り、最後は他の竜を蹴散らしてごぼう抜きのG1優勝だ。……あれは熱かった」

「……へぇ」

「あの大暴れする姿がな、なんだかウチの 連中(カイトやポチ) と重なって見えてな……つい、大穴に賭けてしまったんだ」

ルーベンスはニヤリと笑った。

その手にある配当金は、彼の数ヶ月分の給料に匹敵する額だ。

カイト農場で培われた「混沌への耐性」が、ここに来てまさかのギャンブル運として開花したらしい。

「悪くない休日だ。……さて、この勝ち分で何を――」

「おい、辛気臭い顔して何処で油を売っておる」

低い声と共に、路地の奥から巨漢が現れた。

ジャージ姿の竜王デュークだ。その横には、少し気だるげな狼王フェンリルもいる。

「デュークか。お前たちはどうだったんだ?」

「フン、スロットなぞ子供騙しだ。ボタンを押すだけで何が面白い」

デュークは鼻を鳴らした。どうやら負けたらしい。

「俺はルーレットで少し巻き上げたけどな。……それより、疲れたぜ。人混みは嫌いだ」

フェンリルが首をコキコキと鳴らす。

彼らにとって、この街の空気は少し騒がしすぎる。

「龍魔呂、ルーベンス。男の休息と言えば……決まっておろう?」

デュークが親指でビシッと、ある建物を指差した。

「サウナだ」

その看板には『灼熱地獄サウナ ~溶岩ロウリュあり〼~』と書かれている。

「汗と共に雑念を流し、水風呂で魂を締める。これぞ至高の整いよ」

「いいな。行こうぜ、サウナ」

フェンリルも乗り気だ。

野生の王たちも、温かい風呂とサウナには抗えない。

龍魔呂は少し考え、抱えていたスパイスの袋を持ち直した。

「……ああ、分かった。仕込みの前には身を清めないとな」

「決まりだな。リベラ殿たちには『男同士の付き合いだ』と伝えておこう」

ルーベンスが吸い殻を消し、立ち上がった。

競馬で勝った男。

料理一筋の男。

威厳ある竜王。

野生の狼王。

種族も立場も違う四人の男たちが、タオル片手に「裸の付き合い」へと向かう。

その背中は、カジノのネオンよりも哀愁と男気に満ちていた。

「……あ、俺サウナハット忘れた」

「安心しろフェンリル、余分に持っておる」

そんな会話が、路地裏の風に消えていった。