作品タイトル不明
EP 3
【新曲】リーザ『GO! GO! 五円御縁☆スパチャ伝説』で物理的に埋まる
天魔窟の中央広場には、カジノ客の射幸心を煽るための特設野外ステージが設置されていた。
普段は妖艶な踊り子が舞うその場所に、今は「賽銭箱」という名の巨大な集金ボックスを抱えたアイドルが立っていた。
「みんなー! こんばんわー! カイト農場の歌姫、リーザちゃんだよー!」
フリフリの衣装(ポケット多め)に身を包んだリーザが、満面の笑みで叫ぶ。
観客は、ギャンブルで勝ったばかりの魔族や、これから勝負に向かうオークたち。欲望にまみれた彼らにとって、リーザのキラキラしたオーラは眩しすぎた。
「今日は、この街にピッタリの新曲を持ってきたの! 聴いてね! タイトルは……『GO! GO! 五円御縁☆スパチャ伝説』!!」
「タイトルが直球すぎるだろ!」
ステージ袖で、会計係のルーベンスがツッコミを入れるが、爆音のイントロがかき消した。
BPM185。心臓を叩くような高速ビートだ。
(デデデン! デデデン! チャリーン!)
「ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!」
リーザが激しくステップを踏む。
「五円御縁! 五円御縁! ハイ!(ハイ!)♪
五円御縁! 五円御縁! ハイ!(フッフー!)♪」
その掛け声に合わせて、観客の魔族たちがノリ始めた。
「五円? よく分からんが景気のいい曲だ!」
「縁起が良さそうだぜ!」
「皆の御縁も 五円から!(そーれ!)♪
私に頂戴 御縁玉!(ちょーだい!)♪
お賽銭箱はここよ 電子の海だよスパチャよろしく!(チャリンチャリン!)♪」
リーザが巨大な賽銭箱を掲げる。
すると、客席から「俺の勝ち分を持ってけー!」「 女神(アイドル) への貢ぎ物だー!」と、小銭どころか金貨や宝石が投げ込まれ始めた。
「いいわ! その調子よ!」
リーザの目が「¥」の形に光る。
そして曲は、ルーベンスが最も恐れていたBメロへ突入した。
「スーパーで買い物 お会計(えー?)♪
財布の中身は 全部五円(マジー!?)♪
ジャラジャラ出したら レジのおばちゃん♪
笑顔でブチ切れ 『両替してこーい!』(ごめんなさーい!)♪」
「やめろぉぉぉッ!!」
ルーベンスが頭を抱えてうずくまった。
それは実話だ。
リーザが以前、カイトから貰った大量の小銭(五円玉)だけで買い物をしようとし、レジを大渋滞させて店員をキレさせた事件。それを歌詞にするとは、なんと恥知らずな!
だが、観客には大ウケだった。
「あるある! 小銭って邪魔だよな!」
「俺たちが両替してやるぜー!」
興奮した客たちが、財布の中身をぶちまけ始めた。
ステージ上に、金貨の雨が降り注ぐ。
「一円じゃ 軽すぎるし(ふわふわ)♪
百円じゃ 生々しい(ギラギラ)♪
五十円は 愛が重いわ~(おっも~い…)♪
五円が丁度よい 距離感~(ジャストフィット!)♪」
リーザは金貨の雨を巧みに避け……きれずに、徐々に足元が埋まっていく。
だが歌うのを止めない。
なぜなら、サビこそが稼ぎ時だからだ!
「黄色でピッカピッカ! ラッキーカラー!(イェッタイガー!)♪
穴が開いてる 見通し良好☆♪
だ、け、ど!♪」
リーザが絶叫する。
「チリも積もれば 山となる!(フッフー!)♪
御縁が集まれば アイドルになれるわ!(オレモー!)♪
君の五円で 推しを育てて♪
目指せ! 銀河のスーパーアイドル!(ワッショイ!)♪」
「うおおおおッ!! 育ててやるぜぇぇぇッ!!」
ドサササササッ!!
興奮が頂点に達したオークの富豪が、持っていた「金貨の麻袋」をステージに放り投げた。
それに続いて、四方八方から金塊、宝石、札束が投げ込まれる。
「きゃっ!? ちょっ、多すぎ……!」
「GO! GO! 五円! 愛の値段はプライスレス(だけど五円は欲しい!)♪」
最後のフレーズを歌い切った瞬間。
リーザの姿は消えていた。
そこにあるのは、うず高く積まれた「財宝の山」だけ。
「……リ、リーザちゃん!?」
最前列でペンライトを振っていたカイトが目を丸くする。
シーンと静まり返る会場。
すると、金貨の山の中から、ニョキッと一本の手が突き出され、ピースサインをした。
「……(ぶはっ! 大漁よ!)」
リーザは埋もれながらも、しっかりと賽銭箱を抱きしめていたのだ。
そのド根性に、会場から割れんばかりの拍手が巻き起こった。
「すげぇ! あいつこそ真の強欲アイドルだ!」
「俺たちの負けだ!」
◇
一方、カジノタワーの最上階。
その光景を見ていたキュルリンは、持っていたキャンディを噛み砕いた。
「……なんなの、あの女」
彼女の額に青筋が浮かぶ。
自分のカジノで使われるはずだった金が、あのアイドルの懐(賽銭箱)に吸い込まれていく。
それは、賭博王としてのプライドを逆撫でする光景だった。
「私の客から搾取するなんて……いい度胸ね」
キュルリンは目を細め、モニターの中のリーザ(金貨の山)を睨みつけた。
「カイトお兄さんだけじゃなく、あの泥棒猫たちも……全員、私のゲームで丸裸にしてあげるわ!」
リーザのライブは、期せずして「天魔窟vsカイト農場」の全面戦争のゴングを鳴らしてしまったようだ。
ルーベンスがステージ上で必死に金貨を回収(両替)している姿だけが、哀愁を誘っていた。