作品タイトル不明
EP 2
【到着】ネオン輝く不夜城。リュウ、開始3分で財布を失くす
始祖竜ポチによる超特急便(空中殺法)で数時間。
カイト一行は、大陸の西の果てにある巨大な盆地に降り立った。
そこは、夜空を焦がすほどの極彩色の光に包まれていた。
天魔窟(てんまくつ) 。
24時間眠らない欲望の街。巨大なカジノホテルが林立し、路地裏からは嬌声と鉄火場の熱気が漏れ出している。
「わぁ~! キラキラしてるね!」
カイトは無邪気に目を輝かせた。
バス(ポチ)から降りたアレンや子供たちも、「すっげー!」「お城みたい!」とはしゃいでいる。
「……空気の味が違いますわね」
リベラは眼鏡を光らせ、周囲を警戒した。
すれ違う客の目は血走っており、路地には身ぐるみ剥がれた敗者がうずくまっている。まさに弱肉強食の魔境だ。
だが、そんな空気をもろともしない男が一人。
「……聞こえる。俺を呼ぶ『音』が……!」
元勇者リュウだ。
彼はカジノの入り口から漏れ聞こえる 電子音(ファンファーレ) に反応し、禁断症状のように体を震わせていた。
「じゃあ、ちょっと行ってくる! 後で合流な!」
リュウは脱兎のごとく駆け出そうとする。
「あ、ちょっとリュウさん!」
カイトが慌てて呼び止める。
「お小遣い、銀貨5枚(約5000円)しかないでしょ? そんなんじゃすぐ終わっちゃうよ?」
セーラ(妻)の厳格な管理により、彼の手持ちは雀の涙だ。この街のレートで銀貨5枚など、席料にもならない。
だが、リュウはニヤリと不敵に笑い、親指を立てた。
「ふっ、甘いなカイト君。俺には『作戦』がある」
「作戦?」
「まずはレートの低い『 羽根物(ハネモノ) 』で手堅く軍資金を増やす! そこで流れを掴んでから、一気に『MAX機』で大勝負に出るんだ! わらしべ長者理論だよ!」
その目は、完全に理性を失ったギャンブラー特有の輝きを放っていた。
「……だそうですわ」
リベラは冷ややかな目で見送った。
「救いがない者は放っておきましょう。あれはもう、自分の人生すら『玉』に見えている廃人ですわ」
「いってきまーす! 待ってろよCR異世界転生ぇぇぇ!」
リュウは光の彼方(パチンコ屋)へと消えていった。
◇
「さて、私たちも楽しみましょうか」
男(ゴミ) を見送った後、女性陣は一気にバカンスモードに切り替えた。
「あっちのタワーに、最高級の『エステサロン』があるわよ♡」
不死鳥フレアが、ガイドブック片手にウキウキと指差す。
普段は激務に追われる世界の管理者たちにとって、今日は貴重な休日だ。
「いいわねぇ。私はまず『岩盤浴』で毒素を抜いてから行くわよ」
創造神ルチアナが、ジャージの肩を回した。
「最近、お酒とポテチの摂りすぎでむくんでるのよぉ。デトックスしないと」
「あらルチアナ、自覚あったのね」
魔王ラスティアがクスクスと笑う。
「コースとしては、まず岩盤浴で汗を流して、スッキリしたところで全身マッサージね。そのあと、フードコートで限定スイーツ巡り……完璧だわ」
「あら、私のお肌には必要ありませんけど……まあ、付き合って差し上げますわ」
エルフのルナ(肌年齢10歳)が、生意気にも混ざってくる。
女性陣はキャッキャと盛り上がりながら、カジノではなくスパ施設の方へと歩いていった。
「みんな楽しそうだなぁ」
カイトは取り残された子供たちと、龍魔呂、ルーベンス、そして小型化したポチと共に立ち尽くす。
「カイト殿、我々はどうしますか?」
「うーん、とりあえずアレンくんたちと遊園地エリアに行こうか。龍魔呂さんは?」
「俺は市場を見てくる。この街特有のスパイスがあるらしいからな」
それぞれが散会しようとした、その時だった。
「……あ、あれ?」
アレンが指差した。
パチンコ屋の方角から、フラフラと幽霊のような足取りで戻ってくる男がいた。
リュウだ。
行ってから、まだ3分も経っていない。
だが、その表情は「全てを失った者」の虚無に包まれていた。
「……リュウさん?」
カイトが恐る恐る声をかける。
「……カイトくぅぅぅん……」
リュウは乾いた笑みを浮かべ、空っぽの財布を逆さにした。
「……回らなかった。……釘が……釘が渋すぎたんだ……」
「えっ」
「最初の千円で一回も入賞しなくて……熱くなって……気づいたら銀貨が消えてた……」
【悲報】元勇者、入店から3分で破産。
「羽根物すら……打たせてもらえなかった……」
ガクリと膝をつくリュウ。
リベラは扇子で口元を隠し、冷徹に言い放った。
「当然ですわ。ここは裏社会。観光客から搾り取るのが彼らのビジネスですもの。……良い勉強になりましたわね(5000円で済んで)」
「うわぁぁん! まだ演出見てないよぉぉ!」
泣き叫ぶ勇者。
その様子を、カジノタワーの最上階からモニターで眺めている少女がいた。
「……あはは! バッカみたい!」
賭博王キュルリンは、モニター越しにリュウの無様な姿を見て、お腹を抱えて笑っていた。
「あの勇者、本当にチョロいんだから♡ さーて、次は誰をカモにしようかな~?」
彼女の視線が、楽しそうに歩くカイトに向けられる。
まだ誰も気づいていない。
この街全体が、巨大な蜘蛛の巣であることを。