軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十章 ザワザワするカイト達

【招待状】修学旅行の行き先は「裏社会のカジノ」になりました

カイト分校が開校し、リベラが理事長に就任してから数日後。

平和な(?)日常を送っていたカイト農場に、一匹の黒いコウモリが飛来した。

コウモリはリベラのデスクの上にポトリと一通の封筒を落とすと、煙のように消え失せた。

「……何かしら、これ」

リベラは怪訝な顔で、漆黒の封筒を手に取った。

封蝋には、ハートマークとドクロを組み合わせた、悪趣味だが妙に可愛らしい刻印が押されている。

「嫌な予感がしますな……」

隣で胃薬を飲んでいた事務長ルーベンスが顔をしかめる。

リベラがペーパーナイフで開封すると、中から甘ったるい香水の匂いと共に、極彩色の招待状が現れた。

『大好きなカイトお兄さんと、農場の愉快な仲間たちへ♡』

踊るような筆記体。

『毎日、農業やお勉強でお疲れじゃない? たまにはパーッと遊びましょう! 私の街、「 天魔窟(てんまくつ) 」にご招待するわ! 最高級のスイートと、刺激的なアトラクションを用意して待ってるネ☆ ――愛を込めて、キュルリンより』

「天魔窟……!」

その名を聞いた瞬間、ルーベンスがガタッと椅子から立ち上がった。

「大陸最大の歓楽街にして、裏社会の巣窟! 酒とギャンブルと欲望が渦巻く、魔境中の魔境ではありませんか!」

「……やっぱり。賭博王キュルリンからの招待状ですわね」

リベラは眼鏡をクイッと押し上げ、冷徹に分析した。

「ただの親睦会なわけがありません。これは明確な『罠』ですわ。カイト様の力を取り込むか、あるいは農場の権利を狙っているか……。無視するのが賢明です」

「だよねぇ。危ないもんね」

カイトも隣でうんうんと頷いていた。

だが、次の瞬間。招待状に同封されていたチラシを見たカイトの目が、キラキラと輝き出した。

「わぁ! 見てよリベラちゃん! 『ドリーム・ランド』だって! 遊園地かな?」

カイトが指差したのは、天魔窟の煌びやかなネオン街の写真だった。

そこには『夢の国』『大人の遊園地』といったキャッチコピーが踊っている。

「ち、違いますわカイト様! それは隠語です! 『大人の遊園地』というのは、つまりカジノや風俗……」

「え~? でもほら、アレンくんたちも毎日勉強頑張ってるし、たまには『修学旅行』もいいんじゃない?」

「修学旅行!?」

リベラが絶句したその時、理事長室のドアがバーン! と勢いよく開かれた。

「カイトくぅぅぅんッ!! 行こう!! 絶対に行こう!!!」

血走った目で飛び込んできたのは、元勇者リュウ(鍵田 竜)だ。

彼はカイトの手にあるチラシをひったくり、震える手で一点を凝視した。

「こ、これだ……! ついに導入されたんだ……!!」

リュウが見つめる先には、新台入替の告知があった。

『最新台! CR 異世界転生 ~勇者辞めてパチンコ打つ件~』

「うおおおおッ! 俺の人生がパチンコになってるぅぅぅ! 演出が見たい! 全回転フリーズを引きたい! 脳汁を出したいぃぃッ!」

「パパ、脳汁ってなぁに?」

後ろから付いてきたアレン(5歳)が不思議そうに尋ねるが、リュウは聞こえていない。

「頼むカイト君! 天魔窟へ連れて行ってくれ! 俺の魂が、あそこで呼んでいるんだ!」

「うーん、リュウさんもこう言ってるしなぁ」

カイトは困ったように笑い、リベラを見た。

「リベラちゃん、ダメかな? みんなでバスに乗って行けば楽しいと思うんだけど」

「……はぁ」

リベラは深く、深く溜息をついた。

カイトが行くと言えば、それは決定事項だ。それに、リュウを放置すれば勝手に借金を作って密航しかねない。ならば、管理下(監視下)に置くのがリスクヘッジか。

「……分かりましたわ。ただし! あくまで『社会科見学』です。私が引率しますから、勝手な行動は慎んでくださいまし!」

「やったー! ありがとうリベラちゃん!」

「ひゃっほー! 脳汁だぁぁぁ!」

数時間後。

カイト分校の正門前に、一台の巨大な乗り物が用意されていた。

カイトが「観光バス」をイメージして、世界樹の木材で作った大型馬車(タイヤ付き)である。

「わーい! バスだバスだー!」

「お菓子持ったー?」

アレンや魔族の子供たち、そしてリーザや神々が嬉しそうに乗り込んでいく。

リーザは「この遠征で稼ぐわよ!」とスパチャ用の賽銭箱を抱え、龍魔呂は「現地の食材を視察する」と包丁セットを確認している。

そして、この巨大バスの先頭には――。

『……おい。なんで俺が動力源なんだ』

漆黒の鱗を持つ巨大な生物――始祖竜ポチが、ハーネスを付けられて不機嫌そうに座っていた。

「だってポチ、力持ちだし、空も飛べるから便利でしょ?」

カイトがバスの屋根から声をかける。

『俺は誇り高き始祖竜だぞ!? バス馬車馬扱いすんな! 訴えるぞ!』

「あら、ポチさん」

窓からリベラが顔を出し、契約書をチラつかせた。

「貴方の雇用契約書の第4条、『その他、 甲(カイト) が命じる業務全般』に同意しておりますわよね? 拒否権はありませんわ」

『ぐぬぬ……あの悪徳弁護士め……!』

ポチは涙目で唸った。

この農場に来てから、プライドはずたズタだ。

「ポチー! 出発進行ー!」

アレンが運転席(御者台)から叫ぶ。

『ちっ、仕方ねぇ! 振り落とされても知らねぇからな!』

ドォォォォン!!

ポチが地面を蹴り、巨大な翼を広げた。

カイト特製バスがふわりと浮き上がり、猛烈なスピードで空へと駆け上がる。

「わぁ~! 高い高い~!」

「うおぉぉ! 天魔窟が俺を待っているぅぅ!」

歓声と絶叫を乗せて、一行は欲望の街へと飛び立った。

待ち受けるのは、可愛い小悪魔キュルリンの罠か、それともカイトたちの天然暴走か。

波乱の修学旅行が、今始まる。