軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

73.生産体制

「ファルスお兄様、スウィン! 出来たよ!」

「本当かい? よくやったね、ルイ」

「これは早いいい知らせだ」

二人が待っている部屋に入ると、嬉しそうな声が上がった。私はテーブルの上に、出来たばかりの薬をそっと置く。

「これが、ルイの改良した薬か……」

スウィンが瓶を手に取り、感心したように眺める。

「どうやったんだい?」

「エイリカの花に塩を混ぜて、浸透圧で水分を抜いたの。それで乾燥時間を短縮できたし、薬効も壊れなくなったよ」

「そんな方法が……。さすが錬金術師だ。僕たちとは視点が違うな」

スウィンが感心したように頷く。するとファルスお兄様が、興味深そうに身を乗り出した。

「じゃあ、モーンワームの分泌液はどうなった?」

「実はね……分泌液を粉末化する錬金術があったの。だから、それを使って作ったんだ」

私は小さな包みを開いて見せる。中には、さらさらとした粉末が入っていた。

「へぇ……」

ファルスお兄様が指先で少しだけすくい、軽く指の間で擦る。

「この粉末はよく出来ている。なるほど、錬金術で加工したわけだね」

「うん。でも……」

私は少しだけ言葉を濁した。

「でも?」

「これだと、私が錬金術で粉末に加工しないといけないでしょう? そしたら、ファルスお兄様が言っていた仕事を一般の人にも手伝ってもらうっていう話から、外れちゃう気がするんだけど……」

ファルスお兄様は、ずっと私のことを考えてくれていた。私が好きなように錬金術を使えるように、余計な仕事に縛られないように、道を整えてくれている。

だからこそ、分業の話になったのだ。

薬を作る仕事を細かく分けて、出来るところは町の人たちに任せる。そうすれば、多くの人が働けるし、薬もたくさん作れる。そして何より、私一人に負担が集中することもない。

それなのに。今回の改良は、錬金術を使わないと成り立たない工程を作ってしまった。

モーンワームの毒素を抜いて分泌液を粉末化する工程。それは、今のところ私にしか出来ない。つまり、薬を作るたびに私が必要になる。

「確かに、これだと一般的に大量に出回っている風邪薬にルイの力が必要になる」

「……やっぱり、これは失敗?」

「……いや、ちょっと待って」

ファルスお兄様が顎に手を当てて考え始める。そして、紙にペンで何かを書いている。しばらく待っていると――。

「いや、大丈夫そうだよ」

「本当!?」

ファルスお兄様は、書きかけの紙をこちらに向けながら頷いた。

「うん。問題は、モーンワームの分泌液の部分だけだよね」

「うん……」

「だったら、そこだけ役割を分ければいい」

紙の上には、いくつかの工程が矢印で繋がれていた。

「まず、モーンワームの分泌液の採取は、薬師協会を通して専門の冒険者に依頼する」

「冒険者に?」

「そう。素材採取は彼らの得意分野だろう?」

確かにそうだ。危険な魔物や虫の素材は、もともと冒険者が持ち帰ることが多い。

「そして、採取してきた分泌液をルイが粉末に加工する」

「……私が?」

「うん。でも安心して。ここが大事なんだけど」

ファルスお兄様は軽くペンで紙を叩いた。

「ルイは家にいればいい。素材は全部こちらに運ばれてくる。だから、ひと月に一度、まとめて粉末化すればいいだけだ」

「え?」

「在庫を作るんだよ。薬が作られるたびに加工する必要はない。ある程度まとめて素材を加工しておけばいい」

スウィンが腕を組みながら頷いた。

「なるほど。倉庫に粉末をストックしておくわけか。ここまで、精巧な粉末化をしているのだから、品質も落ちないと思う」

「そう。だからルイの仕事は、月に一度か二度、粉末化するだけになる。これなら仕事はそれほど増えないと思う」

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥の緊張がすっとほどけた。……よかった。

「そっか……それなら、大丈夫そう」

自然と、ほっとした声が出る。するとファルスお兄様は、さらに紙に書き込みながら続けた。

「うん、全体像が見えてきた」

さらさらとペンが動く。

「まず素材採取は冒険者に任せる。その際、採取方法をきちんと決めて、品質管理も徹底する」

「品質管理……」

「うん。雑に取ってきてもらったら困るからね」

スウィンが苦笑する。

「確かに。冒険者はその辺り適当な奴も多いからな」

ファルスお兄様は構わず続けた。

「次に、四つの素材の下処理。これは一般の人たちの手を借りる」

「町の人たち?」

「そう。乾燥、洗浄、選別……そういう工程は人手があれば出来る」

そして、ちらりと私を見る。

「しかも、その処理方法はルイが改良してくれた」

「……あ」

そうだ。エイリカの花の処理も、乾燥方法も、効率よくする方法を考えた。

「つまり、一般の人でも高品質な素材を作れるようになったわけだ」

スウィンが感心したように言う。

「なるほどな。ルイは直接作業しなくても、質を上げてるわけか」

ファルスお兄様は、最後に一つの工程に丸を付けた。

「そして、ルイは一つだけ」

ペン先が、その丸を指す。

「モーンワームの分泌液の粉末化。この工程だけ担当する」

私は、紙の流れをじっと見つめた。素材採取。下処理。粉末化。そして――。

「最後に薬師が調合する。そこで完成だ」

スウィンが紙を覗き込み、にやりと笑った。

「なるほど。役割がきれいに分かれてる」

「うん」

ファルスお兄様も満足そうに頷く。

「素材を取るのは冒険者。素材を整えるのは町の人たち。粉末化はルイ。そして調合は薬師」

そして、静かに言った。

「これで、新しい風邪薬の完成だ」

私は、その紙を見つめながら思った。……すごい。私一人じゃ、ここまで考えられなかった。

でも、こうやって役割を分ければたくさんの人が関わって、薬を作れる。しかも、私は錬金術を続けられる。

「ファルスお兄様……」

「ん?」

「ありがとう」

そう言うと、ファルスお兄様は少し驚いた顔をして、すぐに優しく笑った。

「いいんだよ。ルイには自分の道を進んでほしいんだ。だって、錬金術を使っている時のルイは生き生きしているから、応援したくなっちゃうんだよ」

優しい言葉でそう言ってくれる。胸がいっぱいになって、思わずファルスお兄様に抱き着く。

「本当にありがとう!」

「ふふっ、さっきもそれ聞いたよ」

「何度だって言いたいよ!」

ファルスお兄様が私のお兄様で本当に良かった。

「じゃあ、もっと話を詰めていこう。誰も異議を唱えないようにね」

そうして、私たちは話し合いを続けた。今度は誰もが頷く内容にするために。