軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

55.風邪薬の現状

スウィンは風邪薬の包みを丁寧に開き、掌の上に中身を晒した。そこに現れたのは、くすんだ緑色をした細かな粉末だった。

「これが、一般に流通している風邪薬だ。熱、咳、鼻水、頭痛。風邪に伴う症状を広く抑える」

スウィンは指先で少量をすくい、光にかざす。

「複数の薬効素材を混ぜ合わせてある。解熱作用、鎮咳作用、鼻の炎症を抑える成分、頭痛を和らげる成分。それらを一つにまとめた、いわば総合薬だな」

「なるほど。一つの症状に特化していない分、誰にでも使いやすい、と」

「あぁ。症状がはっきり分からない段階でも飲めるように作られている。風邪かどうか判断できなくても、とりあえずこれを飲めば楽になる。そういう薬だね」

スウィンの言葉に、私は静かに頷いた。

確かに便利だ。長年考えられて、この形に収まったのだろう。だが同時に、薬効が広く浅くなりやすい。

「……その分、効き目は穏やかなんだね」

「察しがいいね」

スウィンは苦笑しながら、包み紙を指で折り畳む。

「一つひとつの症状に対する効きは弱めだ。高熱に特化した薬や、激しい咳を止める薬と比べると、どうしても見劣りする」

「それでも、一般には十分とされている……と」

「その通り。強すぎる薬は副作用の危険もあるし、値段も上がる。だから誰でも安全に使える範囲に抑えた配合になっている」

緑色の粉末をじっと見つめる。

万人向け。安全性重視。効果は平均的。頭の中で、情報が整理されていく。

この風邪薬は、悪くない。けれど、最適ではない。だったら、私が錬金術で作るのは最適された風邪薬ということだ。

じゃあ、まずやることは――この風邪薬の効果を確かめること。

「この風邪薬……鑑定してもいい?」

「もちろんだ。好きなように見てくれ」

スウィンはそう言って、包み紙ごと風邪薬を私の前に差し出した。私は小さく頷き、意識を集中させる。

――鑑定。

【風邪薬】

・熱、咳、鼻水、頭痛など、風邪に伴う諸症状を抑える

まずは、想定通りの結果。効能そのものは、ごく一般的だ。

次は……品質。私は鑑定結果をさらに掘り下げる。

【風邪薬】

・品質:51/100

「……え?」

思わず声が漏れた。予想していたより、ずっと低い。

「こ、これ……品質が低いんだけど?」

「品質? 作ったばかりだと思うんだけど……」

スウィンは不思議そうに首を傾げつつ、むしろ興味深そうに顎に手を当てる。

「念のため聞くけど……この薬、長い間放置されていたわけじゃないよね?」

「いや。作られたのは一週間前だ。保管状態も問題ない」

一週間。保存劣化が起きるには、あまりにも早すぎる。

ということは、原因は、二つに絞られる。

素材の品質が低い。もしくは、製造工程に無駄や失敗がある。国に認められた薬師でも、完璧に薬を作っている訳ではなさそうだ。

じゃあ、素材は何を使っているんだろう?

【風邪薬】

・イイキカの葉(熱を抑える効力がある)

・レトレトム草(咳を抑える効力がある)

・エイリカの花(鼻水を抑える効力がある)

・ミットの根(頭痛を抑える効力がある)

なるほど。四種類の薬効素材を組み合わせた、典型的な総合風邪薬だ。

配合自体は、理にかなっている……。問題は、それぞれの効力がきちんと発揮されているかどうか。

私は鑑定結果を、さらに深く読み取る。

【風邪薬】

・イイキカの葉(熱を抑える効力:少量)

・レトレトム草(咳を抑える効力:少量)

・エイリカの花(鼻水を抑える効力:少量)

・ミットの根(頭痛を抑える効力:少量)

「……全部、少量?」

思わず眉をひそめる。一つくらいは十分な効力があっても良さそうなものなのに、どれも控えめだ。

これは、偶然じゃない。素材そのものか、工程か。原因を切り分ける必要がある。

「鑑定……もう少し、詳しく」

半ば独り言のように呟くと、鑑定結果が書き換えられた。

【風邪薬】

・イイキカの葉

(素材の品質が低く、十分な効力を発揮できていない)

・レトレトム草

(素材の品質が低く、十分な効力を発揮できていない)

・エイリカの花

(乾燥させすぎにより、有効成分が失われている)

・ミットの根

(処理工程で有効成分が抜けすぎている)

「……なるほど」

原因は一つではない。半分は素材の段階で品質が低く、残り半分は加工工程で効力を損なっている。

これじゃ、品質が五割程度になるのも当然だ。保存性や量産性を優先した結果、本来得られるはずの薬効が、削られてしまっている。

「つまり……」

私は一度、静かに息を吐き、頭の中で導き出した結論を確かな形にする。

素材の品質を見直し、乾燥や抽出といった処理工程を最適化すれば、同じ構成の風邪薬であっても、その効果は見違えるほど向上するはずだ。

今のこの風邪薬は、決して失敗作ではない。ただ、改善されるべき余地が、あまりにも多すぎるだけなのだから。

けれど、それだけでは足りない。それではただの「少し出来のいい薬」で終わってしまう。

錬金術で作る意味がない。

錬金術とは、既存の枠をなぞるための技術じゃない。人の命を、生活を、確かに前へ押し上げるための力だ。

ならば答えは一つ。

素材を増やす。錬金術でしか扱えない素材を加え、効力そのものを底上げする。

症状を抑えるだけじゃない、身体が「治ろうとする力」そのものを支える風邪薬へ。私は、その改良案を胸に刻みながら、次に踏み出すべき工程を静かに見据えた。

ここからが、本当の錬金術だ。