軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5.痛み止めの薬を求めて(1)

自室に戻った私は、椅子に腰掛け、机に向かった。余計なものは一切いらない。今、やるべきことはひとつだけ。

痛み止めの解析。

イザベルお母様が使っている薬。その正体を知り、どこに問題があるのかを突き止める。それが、突破口になるはずだ。

「……よし」

私は小さく息を吸い、意識を集中させる。

「鑑定」

【痛み止め】

・効能:痛みを和らげる(弱)

・ロキニン草を乾燥させ、粉末化した薬

・過剰乾燥により有効成分の一部が失活

・吸収効率が低い

・品質:73/100

静かに、情報を読み込む。

「……なるほど」

ロキニン草。痛み止めとしてはごく一般的な薬草だ。決して粗悪な素材じゃない。品質が七十を超えているのも、その証拠。

問題は作り方。

「乾燥、させすぎ……」

乾燥させれば保存は利く。でも、その分、揮発しやすい成分や、熱に弱い成分は失われる。粉末にする過程で空気に触れ、さらに効力が落ちている。

それに――。

「吸収効率が低い、か」

体内に入ってから効き始めるまで、どうしても時間がかかる。健康な人なら問題ない。でも、イザベルお母様のように、神経が過敏になっている状態だと――。

「痛みが出てからじゃ、遅いんだ」

だから効いているようで、実際には追いついていない。そして、何度も使ううちに身体が慣れ、効果を感じにくくなっている。

私は、鑑定結果をもう一度、上から見直した。

「素材は悪くない。薬草自体も間違ってない」

つまり――。

「改良の余地、だらけ」

まず、乾燥の方法を変える。完全乾燥じゃなく、成分を残した半乾燥。あるいは――。

「煎じ薬、抽出液……」

粉末じゃなく、液体にする。それをさらに錬金術で精製すれば、有効成分だけを濃縮できるかもしれない。

「……出来る」

少なくとも、今よりは確実に良く出来る。この薬は、限界まで使い切ったものじゃない。まだ、伸び代がある。

「まずは、素材採取からだ」

錬金術師としての仕事は、もう始まっている。イザベルお母様の痛みを減らすための、最初の一歩。

私は、静かに決意した。必ず、この痛み止めを作り変えてみせる。

「よし……森に着いた」

屋敷を抜け、私は近くの森へと足を運んだ。ロキニン草は森に自生している。以前、お医者さんからそう聞いたことがある。

だったら、この森にもきっとある。何よりここは、私にとって見慣れた場所だ。小さい頃から何度も足を踏み入れてきた、言わば庭みたいなもの。探すには、うってつけだった。

とはいえ。薬草が生えている場所ということは、同時に魔物の棲み処でもある。

「……油断は禁物、だね」

私は足元に落ちていた太めの棒を拾い上げた。少し重いけれど、振るにはちょうどいい。

「とりあえず、これで十分かな」

この辺りに出るのは、スライムやホーンラビットくらい。今の私でも、これがあれば対処できる。握り具合を確かめてから、私は一歩、森の中へ踏み出した。

「じゃあ、行こっか」

小さく呟いて、私は森の奥へと歩き出した。森の中は静かで、木漏れ日が差し込み、ぱっと見ただけなら危険なんて何もなさそうに見える。

でも、こういう時ほど油断は禁物だ。

「あっ、いた」

ふと視線を上げると、木の枝にスライムがへばりついているのが見えた。動きは鈍く、今すぐ襲ってくる気配はない。……けれど、放っておくわけにはいかない。

スライムは畑の作物を荒らし、家畜を襲い、隙あらば家屋に侵入してくる厄介な魔物だ。しかも増殖の速度が異常に早い。一匹見逃した結果、いつの間にか百匹に増えていた、なんて話も珍しくない。

だからこそ――。

「見つけたら、即駆除」

それが、村の共通認識だ。

「下りてこーい」

私は拾ってきた木の棒で、スライムが張り付いている枝を叩いた。ごん、と鈍い音が響き、振動に耐えきれなくなったスライムが、ずるずると剥がれ落ちてくる。

「よっしゃ、キター!」

落下のタイミングに合わせて、私は棒を大きく振り抜いた。

――ぐしゃっ。

木の棒がスライムを真っ二つに裂き、その中心にある核を砕く。それと同時に、スライムは動きを止め、ただの粘液へと変わった。

「よしよし。まずは一匹目」

私は棒を肩に担ぎ、満足そうに頷く。

「今日は……十匹くらいは倒しておきたいな」

イザベルお母様のための薬草探しが一番の目的だけど、村の安全を守るのも大事な仕事だ。森に入ったからには、有害な魔物は出来るだけ減らしておきたい。

それは、アマリアお姉様のためでもある。アマリアお姉様の職業は剣士。村の治安維持を任され、日々、魔物の討伐に出ている。

だから、私がこうして下準備をしておけば、少しは負担を減らせるはずだ。

「……よし、次を探そう」

私は気持ちを切り替え、再び森の奥へと足を進めた。