作品タイトル不明
46.解毒薬の調合
王都の屋敷へ戻ると、私はすぐに調合室へ向かった。机の上に並べたのは、ヴェルドリーパーから採取した蔦。まだ魔力の名残を感じさせる、しなやかな植物だ。
「よし……品質は問題なし。劣化もしてないね」
まずは素材そのものを正確に把握するところから。蔦を軽く指で押しながら、どうやって成分を取り出すべきか考える。
「問題は……どこに、どんな形で成分が含まれているか、だよね」
答えを求めて、スキルを起動する。
「鑑定!」
【ヴェルドリーパーの蔦】
・植物系魔物の身体の一部
・伸縮自在で、手足のように自在に操られていた
・アズルヴェノムの毒を中和・分解する成分を有する
・成分は蔦の繊維部に内包されている
「……繊維の中、か」
蔦の表面を眺めながら、頭の中で可能性を並べていく。繊維に含まれているなら、理論上は――。
「そのまま摂取すれば、毒は中和できる……?」
ふと浮かんだ考えに、すぐ自分で首を振る。そう簡単にいくなら、調合なんて必要ない。
念のため、鑑定結果を最後まで確認する。
・痛みを引き起こす成分を含有
「……やっぱりね」
毒は消えても、別の問題が残る。つまり、この蔦は効果はあるけど、そのままでは危険な素材だ。
「となると……必要なのは、不要な成分の切り分け」
頭の中で手順を組み立てる。
「まず【成分消去】で痛みの原因を取り除いて、次に【成分抽出】で有効成分だけを取り出す……かな」
理屈は通っている。でも、実際に上手くいくかはやってみないと分からない。魔物由来の素材は、扱うのは初めてだ。
「失敗する可能性は……ある。でも」
私は蔦にそっと手を伸ばした。
「だからこそ、試す価値はあるよね」
そう呟いて、調合の準備に取りかかるのだった。
「まずは、痛みを引き起こす成分を取り除くことからだね」
蔦を一本、目の前に置く。その上に手をかざして、意識を集中する。
「痛みを取り除く……【成分消去】」
頭の中でイメージをして、魔法を発動させた。すると、手に感触が伝わってくる。蔦に含まれていた、成分が徐々に消えていく感覚だ。これで痛みが取り除かれたはず。
「どれどれ……成分はどうなっているかな?」
あたらめて鑑定をしてみると――。
【ヴェルドリーパーの蔦】
・植物系魔物の身体の一部
・伸縮自在で、手足のように自在に操られていた
「あっ、成分の説明が消えてる! し、しまった……有効成分も消去しちゃった。あんまり、使い慣れてないから失敗しちゃった……」
どうやら、やりすぎたみたいだ。がっくりと肩を落とし、失敗した蔦をよけた。
「大丈夫、蔦はまだある。今度こそ、失敗しないように気を引き締めないと!」
落ち込んでいる暇はない。もう一度チャレンジだ。目の前に新しい蔦を置くと、深呼吸をして手をかざす。そして【成分消去】の魔法を発動させる。
感覚を研ぎ澄ませ、成分を探る。すると、二つの成分の気配を感じることが出来た。この二つで消し去る成分は……こっちだ!
痛みの感覚がした成分に向けて、集中して魔法を発動させる。すると、その成分が消えていくのが分かった。これで、痛みの成分は消えたと思うけれど……どうかな?
「よし、鑑定!」
【ヴェルドリーパーの蔦】
・植物系魔物の身体の一部
・伸縮自在で、手足のように自在に操られていた
・アズルヴェノムの毒を中和・分解する成分を有する
「あっ、今度はちゃんと残っている! 成功だ!」
良かった、ちゃんと目的の成分を消去出来たみたいだ。これで、有効成分だけ残った素材の出来上がりだ。
「じゃあ、次は【成分抽出】をしないとね。まずはいつも通り」
私は容器を用意すると、中に水を入れ、ぶつ切りにした蔦を入れた。それから、混ぜ棒を入れて、かき混ぜながら【成分抽出】をする。
「さて、成分は抽出されたかな? 鑑定」
【???の水】
・微量のアズルヴェノムの毒を中和・分解する成分を有する
「うーん、反応は良くない。さらに、やってみると?」
【???の水】
・微量のアズルヴェノムの毒を中和・分解する成分を有する
「やっぱり、だめか」
どうやら、ぶつ切りではそう簡単に成分が抽出されないみたいだ。試しに温度を上げてみても、結果は変わらず。ここは素材自体に何かの加工を施さないといけない。
「さて、素材は蔦か……。成分は繊維に含まれているっていうから、まずは繊維を表に出さないといけなさそう。だったら、使う魔法は【粉砕】」
容器の中にぶつ切りにした蔦を入れる。そして、【粉砕】の魔法をかける。すると、ぶつ切りになっていた、蔦が細かい繊維に切り裂かれた。
「これで、きっと成分が溶けだしてくれると思う」
新しい容器に粉砕した蔦と水を入れると、混ぜ棒でかき混ぜる。【成分抽出】をしながら、しばらく様子を見た。
「どんな感じかな? 鑑定」
【???の水】
・少量のアズルヴェノムの毒を中和・分解する成分を有する
「あっ、良い感じ! さらに続けると?」
【???の水】
・少量のアズルヴェノムの毒を中和・分解する成分を有する
「んー、あと一歩足りない。何か、別の処置を施さないと……。でも、何をしたら……」
錬金術の魔法の画面を開いて、ヒントを探す。だけど、ヒントになりそうな魔法は見当たらない。ということは、今ある中でどうにかしないといけない。
「繊維から成分の抽出を促すには、何があるかな? もう一度、温めてみる?」
先ほどは反応がなかったけれど、繊維が細かくなった今なら効く可能性がある。物は試しだ、恐れずやっていこう。
「じゃあ、【温度上昇】っと」
水の温度を高めて様子を見る。すると、水が濁ってきたような気配がした。
「あっ、これ……良い感じじゃない? 鑑定!」
【解毒薬】
・アズルヴェノムの毒を中和・分解する成分を有する
「あっ!」
【失敗した薬】
・熱で成分が壊された失敗作
「あーっ! 今、今……一瞬成功したのにっ!」
どうやら、温度が上がりすぎると成分が壊れてしまうみたいだ。折角、成功したのに!
「でも、これでやり方が分かった。次は成功させる!」
この失敗は成功のもと。すぐに新しい蔦を用意した。【粉砕】で細切れにし、水の入った容器に入れる。混ぜ棒でかき混ぜながら、少しずつ【温度上昇】を加える。
「慎重に……慎重に……」
成分が壊れないように、少しずつ温度を上げていく。そして、リアルタイムで鑑定をして、様子を見ていく。
【???の水】
・少量のアズルヴェノムの毒を中和・分解する成分を有する
「まだだね。もう少し温度を上げて……」
【???の水】
・少量のアズルヴェノムの毒を中和・分解する成分を有する
「だったら、もう少し……」
【解毒薬】
・アズルヴェノムの毒を中和・分解する成分を有する
「ここだ!」
すぐに【温度上昇】切って、【温度下降】を施して、熱が上がるのを防ぐ。しばらくすると、お湯だったものが水になるまで温度が下がった。
「これでどうかな?」
恐る恐る、鑑定をしてみると――。
【解毒薬】
・アズルヴェノムの毒を中和・分解する成分を有する
「うん、これで成功だ!」
素材が一つだけだったけど、凄く神経を使った。でも、ちゃんと薬が出来た。これなら、トレイト伯爵の娘さんを助けられる!