作品タイトル不明
45.魔物討伐
私たちはアズルヴェノムの生息地を特定すると、一度領地へ戻り、戦闘の準備を整えた。そして、ロザンお父様とアマリアお姉様を伴い、その場所へと足を踏み入れる。
深い森の中。先頭を行くのはアマリアお姉様で、そのすぐ後ろを私が歩き、背後をロザンお父様が固めてくれていた。
先頭を進むアマリアお姉様からは、ひりつくような気迫が伝わってくる。鋭い眼差しで周囲を見渡し、わずかな気配も逃さないよう神経を研ぎ澄ませている。剣は片時も手放さず、終始、臨戦態勢のままだ。
「おいおい、アマリア。そんなに気を張っていたら、体がもたないぞ。魔物の気配なら俺が探っている。少しは肩の力を抜け」
「そうは言っても……今日はルイが一緒なのよ。もし、ルイに何かあったら……!」
言葉の端々に、強い緊張と焦りが滲んでいた。
今日、まともに戦えない私がいるせいで、余計な心配をかけてしまっている。守ってもらえるのは嬉しいけれど、どうしても申し訳ない気持ちが湧いてしまう。
「ごめんなさい……。私が、ついていきたいって言ったばかりで」
「ち、違うのよ! ルイは悪くないの! ただ……ルイの身に何かあったら、自分が許せなくなりそうなだけで……。だから、気にしなくていいのよ!」
しゅんとして謝ると、今度はアマリアお姉様が慌てて言葉を重ねてきた。その必死な様子に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
そのとき、ぽん、と優しく頭に手が置かれた。
「ルイは安心して、傍にいればいい。魔物の相手は俺とアマリアがやる。ルイの仕事はその後だ」
「うん! 二人とも、お願いします!」
「任せて。ルイには、指一本触れさせないから」
この強い家族が一緒なら、きっと大丈夫だ。ヴェルドリーパーは、必ず捕縛してくれる。私はそう信じていた。
そのまま森の奥へと進んでいくと、二人の動きが同時に止まった。
「魔物の気配、だな」
「えぇ、奥にいるわ」
一体、なんの魔物が出たのだろうか? 不安に思いながら、慎重に歩を進めるアマリアお姉様の後をついていく。すると、私の耳にもそれが聞こえてきた。
「……羽音?」
何かが飛び回っている音がする。それも小さな音じゃない、とても大きな音だ。
「きっとアズルヴェノムだと思うわ。体の大きな蜂の魔物だから、その羽音なんだと思う」
「数が多いから気をつけろ」
「分かっている」
二人の言葉を聞いて、緊張してきた。ドキドキしながら、先へ進んでいくと――木々の隙間に何かが飛び交っている光景が目に飛び込んできた。
もう少し近づいててみると、そこには紫色をした大きな蜂が飛び交っているのが見えた。あれは、本で読んだアズルヴェノムの容姿とそっくりだ。
「あれね。でも、凄く騒いでいるけれど、何かあったのかしら?」
「もう少し近づいて、見てみよう」
確かに、アズルヴェノムは忙しく飛び回っている。何かあったに違いない様子だった。
私たちは様子を窺うために、更に近づいていった。木の影に隠れると、そっと奥を覗き見る。すると、アズルヴェノムが一点の方向に向かって何度も突進している姿が分かった。
一体、何に? そう思って、突進していく方向を見てみると、そこには植物で出来た人型の魔物が立っていた。あれは本で見たことがある、ヴェルドリーパーだ。
「見て、二人とも! ヴェルドリーパーがいる!」
「あれが、目的の魔物ね」
「……だったら、早く救出した方がいいだろう。アズルヴェノムの数が多すぎて、ヴェルドリーパーが押されている」
よくよく見ると、ヴェルドリーパーの周りには数十匹ものアズルヴェノムがいて、一斉に攻撃を仕掛けている様子だった。どうやら、天敵には団体で対処しているみたいだ。
「じゃあ、私が先行するわ」
そう言い残すと、アマリアお姉様の姿が一瞬で森の影から躍り出た。
「――はあっ!」
地面を強く蹴った瞬間、風を切る音とともに剣閃が走る。紫色の羽音が重なり合う中、一直線に突っ込んできたアズルヴェノムが、胴体から真っ二つに断たれた。
落ちるよりも早く、次。
アマリアお姉様は着地と同時に体をひねり、背後から迫る二匹目へ剣を振り抜く。鋼が肉を裂く鈍い感触とともに、毒針が虚空を突いた。
「遅いわ!」
吐き捨てるような声と同時に、横薙ぎの一閃。羽を断たれたアズルヴェノムが悲鳴のような羽音を立てながら地面に叩きつけられる。
しかし、敵は多い。
空を埋め尽くすほどの数のアズルヴェノムが、一斉に標的をアマリアお姉様へと変えた。羽音が爆音のように膨れ上がり、四方から毒針が降り注ぐ。
「ルイは隠れていろ!」
その一声と同時に、ロザンお父様が前へと躍り出た。片腕で剣を強く握り締め、全身に魔力を巡らせる。その気配だけで、周囲の空気が張りつめる。
――ぶんっ。
力強く剣を振り払った瞬間、刃先から無数の魔力の刃が放たれた。風を裂き、空を走る魔力の斬撃。
次の瞬間、飛び交っていたアズルヴェノムの群れが、まとめて引き裂かれる。
羽音が悲鳴に変わり、紫色の体が次々と宙で断ち切られ、地面へと落ちていった。十数匹が一瞬で、原形をとどめない姿になる。
「……まだだ。もう一度!」
ロザンお父様は冷静に残敵を見据える。空に残ったアズルヴェノムを正確に捉え、再び剣を振るった。
放たれた魔力の刃は、先ほどよりも鋭く、速い。逃げ場を失ったアズルヴェノムたちは、抵抗する間もなく切り刻まれていく。
――バサッ、バサッ。
重たい音を立てて、次々に地へ落ちる影。
やがて、あれほど森を満たしていた羽音は、嘘のように消え去った。残ったのは、静まり返った空気と、圧倒的な力の余韻だけ。
「はぁっ!」
すると、残ったアズルヴェノムをアマリアお姉様が掃討した。素早い剣裁きに、アズルヴェノムは散っていった。
「よし、これでアズルヴェノムはみんな打ち取ったな」
「じゃあ、残りはヴェルドリーパーね。ルイ、縄を頂戴」
「はい!」
私は【素材保管】から縄を取り出すと、アマリアお姉様に投げ渡した。二人はヴェルドリーパーに向き合うと、少しずつ距離を縮める。
すると、ヴェルドリーパーは自分の体から蔦を伸ばして攻撃してきた。その蔦を前に、ロザンお父様が仁王立ちをする。
剣を身構えると、蔦が剣にきつく巻きつけられた。そして、それを引っ張ろうとするが、ロザンお父様はびくともしない。
「アマリア、今のうちだ」
「分かった」
ロザンお父様が引き付けておくと、アマリアお姉様がヴェルドリーパーとの距離を詰めた。一気に至近距離まで近づくと、手慣れた様子で縄でヴェルドリーパーを縛り上げる。
「縛ったわ!」
「だったら、この蔦はいらんな。ふん!」
ロザンお父様が剣を引くと、いとも簡単に蔦は切り裂かれた。
「ルイ、出てきてもいいぞ」
その声に私は木の陰から飛び出した。
「二人とも凄い! あっという間に、魔物を掃討しちゃった!」
「これくらいの敵なら簡単よ」
「体はこんなのだが、俺だってまだまだやれるんだ」
二人とも、本当に強くて凄い! 尊敬の眼差しを向けると、二人は誇ったように胸を張った。
「それはそうと、このヴェルドリーパーはどうするの?」
「今、成分がどこに含まれているのか調べるね」
私は縛り上げられたヴェルドリーパーに近づくと、鑑定をした。見たい内容は解毒する成分がどこに含まれているのか、ということだ。
【ヴェルドリーパー】
・体内にアズルヴェノムの毒を中和・分解する成分を有する
・成分は体の蔦に含まれている
「分かった。蔦の部分を切り取って」
「分かったわ」
アマリアお姉様はナイフを抜くと、ヴェルドリーパーの蔦の部分を切り裂いた。すると、ヴェルドリーパーは断末魔を上げて、パタリと動かなくなった。どうやら、蔦の部分が本体みたいだ。
「はい、ルイ。取れたわよ」
「ありがとう!」
アマリアお姉様から十数本の蔦を受け取る。この蔦があれば、アズルヴェノムの毒を中和する薬を作ることが出来る。
「これで素材は手に入った。すぐに領地に戻ろう」
早速、屋敷に戻って調合だ!