軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

41.王都

一週間に及ぶ道のりを経て、私とロザンお父様は王都にある屋敷へと辿り着いた。

「ロザン様、ルイ様。ようこそおいでくださいました」

門をくぐると、屋敷を管理しているレジーナの娘――コリナが、丁寧に一礼して出迎えてくれる。

「しばらく、世話になる」

「お気になさらず。ずっとお住まいになっても問題ありませんよ。ここはもう一つのグレンジャー家なのですから」

そう言って、コリナはくすりと微笑んだ。そのまま私たちの荷を受け取り、楽しそうに世話を焼き始める。

「来て早々で悪いが、この手紙を薬師協会へ届けてくれないか?」

「かしこまりました。すぐにお届けします」

ロザンお父様から手紙を受け取ると、コリナは迷いなく踵を返し、その場を後にした。

ようやく一息ついた私たちは、顔を見合わせてからソファへと腰を下ろす。長旅の疲れが、じわりと体に広がっていくのを感じながら。

「とりあえず、手紙を渡して様子を見よう。錬金術を使う本人が来ているのだから、何かしら反応はあるはずだ」

新しい薬を生み出す技術――錬金術。

それを実際に行使できる者が王都に来ている。その事実だけでも、薬師協会が無反応でいられるとは思えない。問題は、その反応にこちらがどう向き合えるか、だ。

「私、ちゃんと説得するよ。私の作ったものが、ちゃんと認められるように」

「俺も全力を尽くす。ルイが錬金術師として、胸を張って立っていられるようにな」

そう言って、ロザンお父様は私をまっすぐに見た。その瞳に迷いはなく、父としての覚悟だけがあった。

同じ気持ちだった。錬金術を認めさせたい。ただそれだけじゃない。私が作った薬を、必要な人に、正しく使えるようにしたい。

「……ありがとう、お父様」

私がそう言うと、ロザンお父様は少しだけ目を細めた。

「礼を言われることじゃない。俺は父親だ。娘が正しいことをしようとしているなら、背中を押すのが役目だろう」

「でも……反対されるかもしれないよ?」

「それでもだ」

きっぱりと言い切る声には、揺るぎがなかった。

「もし錬金術が危険だと言われるなら、俺が盾になる。もし未熟だと言われるなら、俺が責任を持つ。それでも認めないというなら――」

ロザンお父様は、一度言葉を切ってから、静かに続けた。

「それは、ルイが間違っているからじゃない。大人たちが、理解しようとしていないだけだ」

胸の奥が、じんわりと熱くなる。こんなふうに、無条件で信じてくれる人がいることが、こんなにも心強いなんて。

「……私、頑張る。お父様の娘として、恥ずかしくない錬金術師になる」

「ああ。もう十分、誇らしいがな」

そう言って、ロザンお父様は私の頭にそっと手を置いた。子供扱いかもしれない。でも、その手はとてもあたたかくて、確かに家族のものだった。

王都での交渉は、きっと簡単じゃない。それでも今は、不思議と不安よりも、前に進む力の方が大きかった。

私は一人じゃない。父と一緒に、胸を張って立てる。

錬金術を、正しい形で認めさせるために。

数日後、一通の手紙が屋敷に届いた。封蝋を見た瞬間、ただならぬ相手からのものだと分かる。

宛名に記されていたのは薬師協会ではなく、オルフェン伯爵の名だった。

オルフェン伯爵。

王都における薬学・調薬分野の頂点に立つ人物であり、薬師協会の会長を務める貴族。薬の認可や流通、技術の正当性を判断する最終権限を持つ、まさに中心人物だ。

今回の錬金術の話も、当然すでに彼の耳に入っているはずの人物でもある。

そのオルフェン伯爵が直接会って、話がしたい。そう、手紙には簡潔ながらもはっきりと記されていた。

思わず、私とロザンお父様は顔を見合わせる。まさか、薬師協会の会長自らが面会を申し出てくるなんて、予想もしていなかった。

それは同時に、この件が単なる「奇妙な噂」や「地方貴族の思いつき」として扱われていない証でもある。錬金術という技術が、協会の中枢にまで届き、無視できない段階に入ったということだ。

胸の奥が、きゅっと締め付けられる。期待と緊張が、入り混じった感覚。

けれどもし、このオルフェン伯爵を説得することができれば。薬師協会の会長という立場の人物が、錬金術を正式に認めれば。

それは、私の作る薬が「例外」ではなく、正当な技術として、この国に受け入れられるという意味になる。

この面会は、ただの話し合いじゃない。錬金術の未来そのものを左右する、重要な一歩だった。

「よし、ルイ。オルフェン伯爵に会いに行くぞ。必ず、説得する」

「うん。私も……全力で頑張る」

言葉にした瞬間、不思議と迷いが消えた。胸の奥にあった不安や緊張は、まだ確かに残っている。けれど、それ以上に強い意志が、静かに根を張っていくのを感じていた。

私がやろうとしていることは、前例のない道だ。錬金術という、新しい技術を認めさせる。それは、薬師協会の在り方そのものに問いを投げかける行為でもある。

簡単に受け入れられるはずがない。反発も、疑念も、きっと正面から向き合うことになる。

それでも。

私は、自分の作った薬を信じている。そして、それを必要としている人がいることも知っている。

ロザンお父様が、隣に立っている。父として、私の選んだ道を認め、支える覚悟を決めてくれている。

なら、迷う理由はなかった。

私は小さく息を吸い込み、胸の内で誓う。この場しのぎの言葉ではなく、結果で示そう。錬金術が、人を救う技術だということを。

そうして私は、顔を上げた。次に踏み出す一歩は、もう決まっている。

オルフェン伯爵に会いに行く。錬金術の未来を、この手で切り開くために。