軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35.ポーションを作る

「さて……どんな効果を組み合わせて、薬を作ろうかな」

私は生活圏素材辞典を開き、ページをめくりながら思考を巡らせる。目的はただ一つ。この世界の治療の在り方を、もう一段階先へ進めること。

「この世界で一般的なのは、塗り薬による治療だよね」

傷口を洗い、必要なら縫合し、その上から薬を塗る。薬効で炎症や痛みを抑えつつ、最終的には自然治癒力に委ねる。それが、この世界における標準的な治し方だ。

理にかなっているし、間違ってはいない。けれど――。

「決定的に足りないのは、時間を短縮する発想だ」

ふと、前世――ゲームの記憶が頭をよぎる。

飲めば即座に傷が塞がり、体力が回復するポーション。この世界には、そういう飲んで治す治癒薬が存在しない。

理由は分かる。生体の回復を内側から一気に促すのは、素材的にも、理論的にも難易度が高い。下手をすれば体に過剰な負荷をかけてしまう。

でも――。

「もし、それが実現できたら?」

治癒を待つ時間がなくなる。戦闘中でも、移動中でも、致命傷になる前に立て直せる。

「本来、治癒薬ってそうあるべきなんじゃないかな」

傷を覆うだけじゃなく、体の内側から治す。自然治癒力を待つのではなく、意図的に引き上げ、加速させる。

そのためには、単純な回復成分だけじゃ足りない。再生を促す成分など、それらをどう組み合わせてどう作用させるか。

「……うん、ただの塗り薬の延長じゃダメだね」

私は辞典のページを指でなぞりながら、素材と効果の関係を頭の中で組み立てていく。

これは、既存の治療法の改良じゃない。治癒薬という概念そのものを、作り直す試みだ。

「傷を治すための回復力。そして、飲んだ瞬間に作用する即効性。この二つを成立させられれば、飲んで治る回復ポーションは理論上、完成するはずだ」

私はそう結論づけて、指先で辞典の縁を軽く叩いた。

重要なのは、この二つの効果が同時に、かつ無理なく働くこと。どちらか一方だけでは意味がない。

回復力だけが高くても、発現が遅ければ結局は自然治癒と大差がない。逆に即効性だけがあっても、回復量が乏しければ応急処置にしかならない。

「……つまり、必要なのは速さと質の両立だよね」

即効性を担う素材。回復量を支える素材。

その二つが、しっかりと柱になるように成分を組み立てなければならない。

「それに適した素材は……あっ。これなんてどうかな?」

私は辞典の中の一項目に指を止めた。

【リンドリンドの樹液】

・舐めると、すぐに体がじんわりと温かくなる成分を含む。

「即効で反応が出る素材だね」

理屈は分からなくても、効果が早いという事実は重要だ。舐めただけで体感できるほどなら、体内に取り込まれた瞬間から作用しているということになる。

「この即効性をポーションに付与できれば……」

回復成分が体内に入ったその瞬間から、薬効を発現させられる。塗って待つ必要も、時間経過を前提にする必要もない。

「うん、方向性としては悪くない」

ただし、即効性があるだけでは不十分だ。これはあくまで引き金であって、治癒そのものを担う役割ではない。

「だから、リンドリンドの樹液は主役じゃない」

あくまで補助。回復成分を前に押し出すための加速装置。

「回復量を確保できる素材と、どう組み合わせるか……」

私は再び辞典に目を落とし、次の素材候補を探し始めた。速さは、これで確保できる。あとはどれだけ治せるかだ。

「傷の回復、傷の回復……」

私は辞典をめくりながら、思わず唸った。

回復系素材は、思っていた以上に多い。止血、炎症抑制、痛みの緩和、組織修復。用途ごとに細かく分類されている。

けれど。

「……どれも、似たようなことしか書いてないな」

傷の回復を助ける。自然治癒力を促進する。

そんな曖昧な表現ばかりで、肝心の回復量がどれほどなのかは分からない。

「回復量が低かったら、意味がないんだよね」

今回作ろうとしているのは、即効性があって、なおかつ高い回復量を持つポーション。一般的な塗り薬の延長では、目的に届かない。

辞典に並ぶ素材の多くは、市場でも普通に出回っているものばかりだ。それだけ安全で扱いやすいということでもあるけれど、裏を返せば――

「劇的な効果は、期待できないってことか」

私は一度、視線を辞典から離して考え込んだ。素材そのものに限界があるなら、別の方向から回復量を引き上げる必要がある。

「もし……回復量そのものを高められたら?」

その瞬間、ひとつの考えが浮かんだ。

「……そうだ。【合成】」

今まで【合成】は、性質の違う成分を組み合わせて、新しい効果を生み出すために使ってきた。即効性と回復力、安定性と持続性。異なる役割を噛み合わせるためのもの。

でも。

「同じ回復系の成分同士を、かけ合わせたらどうなるんだろう?」

回復するものと、回復するもの。性質が似ているからこそ、互いを邪魔せず、むしろ強め合う可能性がある。

「相乗効果で、回復量そのものが底上げされる……?」

もしそれが可能なら。一般的に出回っている素材しか使わなくても、性能だけは別物のポーションが作れる。

「うん……試してみる価値は、十分ある」

私は静かに頷き、【合成】の構成を頭の中で組み立て始めた。既存の常識を壊すなら、まずは組み合わせ方から。

私は辞典を読み込んでいき、傷を治してくれる効果のある素材を見繕っていった。