作品タイトル不明
36.ポーションの素材採取
ポーションに使う素材は、これで決まった。
【リンドリンドの樹液】
・舐めた瞬間、体の内側がじんわりと温かくなる成分を含む。
【マリンドの葉】
・自然治癒能力を高める作用がある。
【トルッカの蜜】
・傷の再生を助ける成分を含有している。
ポイントは役割分担だ。
リンドリンドの樹液は、効果の「立ち上がり」を担当させる。飲んだ瞬間に体を活性化させ、成分を素早く巡らせるための起爆剤。即効性を持たせるには、これ以上に適した素材はない。
一方、マリンドの葉とトルッカの蜜は性質がよく似ている。どちらも回復系だが、前者は身体全体の治癒力を底上げし、後者は傷そのものの再生を後押しする。
ならば、この二つを掛け合わせれば治癒力を高めつつ、損傷部位を重点的に修復する、理想的な回復効果が期待できるはずだ。
もし、この組み合わせの考察が正しければ。このポーションは、飲んだ瞬間から傷が再生し始める、即効型の回復薬として完成する。
あとは、実際に調合して確かめるだけだ。そのためにも、素材採取を頑張らなくては。
まずは平原に行き、マリンドの葉とトルッカの蜜を探す。平原には村人もいなければ、遊ぶ子供たちもいない。だから、一人の力で見つけなければならない。
「よし、気合入れて探すぞ!」
拳を握りしめると、私は平原を歩き始めた。
平原に足を踏み入れると、まず視界いっぱいに草の海が広がった。背の低い草が風に揺れ、さわさわと音を立てている。見渡す限り似たような景色で、目印になりそうなものはほとんどない。
こういう場所ほど、落ち着いて探さないと。
私は歩く速度を意識的に落とし、地面と草の様子を一つずつ確認していく。マリンドの葉は、葉脈が赤くなっている。直射日光の下よりも、少し背の高い草の陰や、湿り気のある場所に生えやすい。
しゃがみ込み、草をかき分ける。土の匂い、青い草の香り。踏みしめるたびに、靴の裏から草の感触が伝わってくる。
「……これは違う」
形は似ているけれど、葉の裏が赤くになっていない。
一度立ち上がり、少し場所をずらす。平原をただ歩くのではなく、円を描くように範囲を区切って探索する。闇雲に動けば、同じ場所を何度も調べることになるからだ。
やがて、草の間に混じる、わずかに色の違う緑が目に留まった。他よりも少し厚みがあり、葉脈が赤くなっている。
「……あ、これ」
間違いない。マリンドの葉だ。
私は傷つけないよう根元から丁寧に採取し、【素材保管】にしまう。一つ見つかれば、あとは見分けがつく。同じ環境に群生することが多いはずだ。
次はトルッカの蜜。こちらは花を探す必要がある。甘い香りを放つ、小さな黄色い花。その周囲には、必ずと言っていいほど蜜を集める虫が集まる。
耳を澄ませながら歩くと、微かな羽音が聞こえた。視線を向けると、草原の一角に、ぽつぽつと黄色が点在している。
「……あった」
慎重に近づき、蜜壺を傷つけないよう注意しながら採取する。
必要な素材は、順調に集まりつつある。残るはリンドリンドの樹液だけだ。
「よし。この調子でいこう」
これで平原エリアは完了だ。残りは森に移動して、リンドリンドの木を探すだけだ。
◇
森へと移動した私は、リンドリンドの木を探し始めた。見つけるまでの方法は単純だ。一本ずつ、木を鑑定して確かめていくしかない。
けれど、簡単に見つかるほど、都合のいい素材でもなかった。
「……この木も、違うか」
鑑定の結果を確認するたび、小さく息を吐く。見慣れない木を見つけては調べ、違うと分かれば次へ進む。その繰り返しだ。気落ちしそうになるたび、気持ちを切り替えて足を動かす。
「細長い木、樹皮は少し明るめ……」
リンドリンドの木の特徴を、呪文のように口にしながら歩く。少しずつ、森の奥へと近づいていく感覚があった。
でも、行きすぎはダメ。
この先には、私一人では対処できない魔物が生息している。家族に心配をかけるようなことは、絶対にしたくない。
だから、踏み込むのは森の奥手前まで。危険と安全の境目、そのギリギリをなぞるように探索を続ける。
周囲を注意深く観察しながら歩いていた、その時だった。
「……ゴブリン?」
聞き慣れた、耳障りな声が風に混じって届く。森の手前にはスライムやホーンラビットが生息しているが、少し奥に入るとゴブリンが出てくる。
ゴブリンは村にとって、明確な害獣だ。家畜を襲い、畑を荒らし、時には村人にまで牙を剥く。だから、見つけ次第駆除対象となる。
子供たちでもスライムやホーンラビットなら対処できる。けれど、ゴブリンとなると話は別だ。数人がかりでなければ危険で、駆除の効率も一気に落ちる。
結果として、少し年長の子供が対処することになる。
「……まぁ、放っておく理由もないよね」
私は木の棒を握りしめ、気持ちを引き締める。素材探しの途中とはいえ、見過ごせば村に被害が出るかもしれない。
「これも村のため。ついでに駆除しておこう」
そう呟いて、ゴブリンの声が聞こえた方向へと足を向けた。
歩みを進めると、木の陰にゴブリンの姿を見つけた。落ち着きなく辺りをきょろきょろと見渡しながら歩いている。仲間の気配はない。
「……一体だけ」
複数相手は厄介だが、一体なら問題ない。私は息を整え、タイミングを見計らってから、勢いよく飛び出した。
「ギャッ!?」
予想通り、ゴブリンは完全に不意を突かれた。慌てて身構えようとするが――。
「遅い!」
振り抜いた木の棒が、ゴブリンの胴体を正面から捉える。突然の衝撃に耐えきれず、ゴブリンは吹き飛ばされ、背後の木に叩きつけられた。
「今だ!」
体を止める暇はない。私は間合いを詰め、木にもたれかかって動きが鈍ったゴブリンの頭に狙いを定める。
腰を落とし、木の棒を大きく振りかぶって――振り下ろす。
乾いた音とともに、手応えが伝わった。骨が砕ける感触。ゴブリンは声も上げられず、その場に崩れ落ちる。
「……まだ!」
念のためだ。私は倒れたゴブリンに近づき、木の棒を高く振り上げる。
「とどめ!」
力の限り、真上から叩きつける。再び骨の砕ける音が響き、ゴブリンの体は完全に動かなくなった。
「よし、駆除完了」
周囲を一度見回し、他に気配がないことを確認する。一体だけなら、ほとんど作業だ。
私は木の棒を持ち直し、素材探しへと意識を戻した。周辺を見てみると、細長い木が生えているのが見えた。もしかして、これは?
近づいて、鑑定をしてみる。
【リンドリンドの木】
・森に生えている、細長い木
・樹液が出てくる
・樹液は体の内側がじんわりと温かくなる成分を含む。
「やった! リンドリンドの木だ!」
目的の素材を見つけた! 私はすぐに木の幹を傷つけて、樹液を採取する。瓶いっぱいに樹液を詰めて、蓋をした。
「リンドリンドの樹液、ゲット!」
これで、素材が三つ揃った。あとは、これを調合するだけだ。