軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4話 決断

色々してたら夕方になってしまった。

家を追い出されてしまったし、今日の寝泊まりする所をなんとかしないといけない。幾ら南国と称される県とは言え、2月は普通に寒い。夜になれば零度近く、場合によっては氷点下まで冷え込む。車中泊でもいいのだが、生憎と車中泊に必要なものは積んでない。あと無料で停められる駐車場が遠い。幸いお金はあるので余程高いホテルとかでなければ問題ないが、あまり無駄遣いする訳にもいかない。まあプロ野球のキャンプシーズンなのでホテルはどこも予約で満室なのだが。

と、まあそんな訳でネカフェで宿泊。明日にでもまた不動産に行ってどこか安いアパートでも契約しないと。ゴタついてたから美沙が居座ってるマンションの解約しかしてなかった。正直探す暇なかった。

それはさておきこういう時ネカフェって便利だよな。色々充実してるし、清潔で割と快適だ。まあ寝るには些か手狭ではあるが、贅沢は言ってられない。

とりあえず明日以降だ。

さてどうするか。とりあえず一人暮らしに向く物件をネットで探して……あ。

「そう言えば今日だったな、ライブ配信」

普段は仕事や美沙達がいて観れなかったライブ配信。時間あるし、何より邪魔する者もいない。普段はアーカイブで観てたけど、折角だ、今日はライブ配信で観る事にしよう。

***

『どーもー、ナツです。今日は品川大井埠頭ダンジョンに来ています』

画面には目元を隠す仮面を付けた若い男性。背中には刃渡り1mを超える剣。革製の鎧に外套と、まるでファンタジー小説に出てくる冒険者のような格好だ。

この世界には 迷宮(ダンジョン) が存在する。発見された当初は色々と騒がれたが、今ではそれも当たり前と化しつつある。そして迷宮に潜る者達を探索者といい、その中でも彼の様に配信する者達は 迷宮配信者(Dチューバー) と呼ばれている。

『夏リスの迷宮配信チャンネル』

それが今視聴している配信チャンネルの名前だ。けど一人いないな。

“来たああああああああっ!”

“こんナツー”

“こんリ……あれ、リースタソは?”

“あ、リースちゃんいない!”

“リスタソいないなら帰るわ”

視聴者のログが流れる。そりゃ気付くよな。もう一人、ナツとコンビを組んでる金髪碧眼、短槍に若草色のドレスアーマーを着たリースという美人さんがいない。

『ああ待って! 帰らないで! これにはちゃんとした理由がありまして。相方のリースですが……なんと妊娠しまして、今後大事をとって迷宮の配信はお休みとさせて申し訳ない。その代わり迷宮配信以外はちゃんと出ますので!』

“妊娠!?”

“おめでた!”

“おめー”

“おめでとー“

“¥20000

ご祝儀ですお納めください”

“¥500

金ないからお気持ちだけ。おめー”

“¥666

ふざけんな呪ってやる”

お祝いの言葉の中に赤文字……スパチャも混じってる。しかしアンチの癖にスパチャ送る人いるんだな。金額に悪意を感じるが。

因みにナツとお休みしてるリースという女性は結婚しており、夫婦で配信を送っている。そりゃする事してりゃ妊娠するわな。

自分もスパチャ送りたいが……無駄遣い出来んしな。

“おめでとうございます。自分少々ごたついてまして、落ち着いたら改めてご祝儀送りますね”

『スパチャありがとうございます。それに何やらごたついてる方いますね。お気持ちだけでも嬉しいです』

おお、返してくれた。

『さて、今日は中層のボスを倒してみようと思います。では行きましょう!』

モンスターを倒しながら迷宮を進むナツ君。どうも最初から中層にいた模様。厳つい顔した背丈が2mを超えるオーガに、全身が針の毛皮に覆われたニードルボア、巨大蟷螂の中でもとりわけ危険なデスサイズ等、苦もなく屠っていく。

そして2時間もしないうちに観音開きの大扉の前に辿り着く。この扉をくぐればボス部屋だ。

『さて、漸く到着しましたね。えー、ここからは流石に返信とか出来ませんので。では行きますか!』

扉を開く。中は広々とした闘技場を模したドーム状の部屋だ。その中央にいるのは巨大な斧を持った頭部が牛の人型のモンスター、もはや定番と言えるミノタウロスだ。

『ブルモォォォォォォッ!』

ミノタウロスが斧を振りかざし雄叫びをあげる。

“うひっ”

“画面越しでも大迫力”

“距離があるけどやはりデカいな。上級探索者への壁。コイツを倒せば一目置ける存在になる”

“ところでこのミノタウロスを見てくれ。こいつをどう思う?”

“すごく……大きいです“

“鉄板ネタぶっ込んできて草”

“しかも誰一人ナツの心配をしていないとかw“

“がんばえー“

ナツが大剣を正眼に構える。そして。

『『ブースト』! 『エンチャント』!』

ナツの身体と剣が淡い光に包まれる。どちらも強化魔法だが、『ブースト』は自身に、『エンチャント』は武具を強化する魔法だ。片方なら兎も角、どちらも使える者は少ない。

因みにボス部屋に入ってから魔法をかけたのは、ボス部屋に入ると自分にかけていた魔法が消えてしまうから、らしい。原理は知らん。

闘牛よろしく、突進してくるミノタウロスに、

『『ストーンバレット』!』

魔法の飛礫を放つも、ミノタウロスは斧を振るい、飛礫を弾く。肉薄する一人と一体、ミノタウロスの攻撃範囲に入り、斧を振りかぶって致命的な一撃を繰り出すが、攻撃の軌道を読み、最小限の動きで躱す。避けられない時は剣でパリィし凌ぎ、ストーンバレットを放って牽制する。

そういや彼の事を「風林火山を体現した様な戦い方をする」と言ってた人がいたが、まさしくそうだ。

なかなか当てられず焦れてきたミノタウロスが素人目でもわかる様な大振りをし、大きな隙が生まれる。その隙を見逃す訳もなく、下段からミノタウロスの手首を斬り落とす。

『ぶもぉおおおおぉおおおおっ!』

激痛からか大きな悲鳴をあげるミノタウロス。ナツは大上段の構えをとり。

『チェェストォォォォォ!』

有名な示現流の掛け声と共に剣を振り下ろし、一刀両断した。

“うおおおおおおおお!”

“倒したあああああああああああああ“

“すげーーーーーーーーーーっ!”

“見事な一撃! ナツは並大抵の奴じゃなかったって事だな”

“これでナツも上級探索者の仲間入りかあ”

歓喜と喝采、祝福のログが一斉に流れる。

実際凄かった。観てるこっちも手に汗握った。そして思い出す。かつて自分も探索者に憧れていた。当時は何かと下に見られ、危険だからと両親から反対され諦めていた。だが、会社をクビになり、この歳で同じ仕事にありつけるとは到底思えない。ならばいっそ、一念発起。探索者になるのもいいかもしれない。

「そうだな、やってみるか探索者」

無論そんな甘いものじゃない。若い頃よりも体力は落ちている。それでも憧れるのだ、探索者に。それに探索者には年齢の制限はない。今からでも遅くない。

自分は喝采を浴び、画面内でお辞儀をするナツを見て、探索者になる事を決意した。

まさか自分が大成し、世界に名を残す程の探索者になるとは、誰も、それこそ自分ですら思いもしなかった。