軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3話 解雇からの離婚。そして家を追い出され

「中村君、きみ、横領してるそうだね」

寝耳に水とは正にこの事か。

「いえ社長。自分は横領なんかしていません」

「そうは言ってもね、証拠があるからね」

「証拠?」

「うむ、黒沼君が見つけたのだよ。きみが横領したという証拠がね」

黒沼部長の方を見る。彼はニヤリと嫌な笑みを浮かべている。

「まさか中村主任が横領しているとはね。残念だよ、本当に残念だ」

残念と言う割には嬉しそうだな。

「社長、自分には身に覚えがありません。それに証拠って……」

「黒沼君がそう言ったのだよ。証拠もほら、ちゃんとある」

デスクには横領の証拠である紙束が。それを見ても当然身に覚えは無い。そもそもこれ、おかしい。

「あの社長、この証拠捏造――」

「往生際が悪いなあ中村主任。自分が仕出かした事の証拠なのに、言うに事欠いて捏造とは」

「ですが社長!」

「中村君! 黒沼がこう言っているんだ。間違いない! きみが横領したのだろう!」

駄目だ。全然言う事を聞いてくれない。

黒沼部長は社長始め上役からの信頼も厚い。完全に彼の言い分を信じている。これは何を言っても無駄だろう。

歯軋りし俯く自分を見て黒沼部長はほくそ笑む。まあ確かに自分と黒沼部長は仲がよろしくない。しかしここまでするのか。

自分を悪者に仕立て上げ、居場所を無くさせるのが目的か。

「本来なら懲戒解雇としたいところだが、これまでの功績もある。自主退職にしてやる」

黒沼部長もそうだが、自分の言い分を一切聞こうとしない社長にもほとほと愛想が尽きた。

「解りました。これまでお世話になりました」

そんな訳で、自分は20年近く務めてきた会社を退職することになったのだった。

***

「主任、本当に辞めるんですか?」

「ああ。もう決めた事だし、退職届も受理された。後は引き継ぎだが……」

「引き継ぎは俺がやろう」

デスク周りを片付けていると背後から黒沼部長の声がした。

「はあ、解りました。では引き継ぎの資料を……」

「いらん。お前でも務まるような案件だ。俺ならそんなもの無くても余裕でこなせる」

「……そうですか」

資料が不要と言うならそれでいい。実際うち一つは決まりかけてた案件だし。

まあ他の案件は厄介なものばかりだが、余裕というなら詳しい引き継ぎはしなくていいだろう。出来れば八重元君に引き継いでもらいたかったが、まあこの会社がどうなろうと知った事ではないし、黒沼――もう部長って付けなくていいか――も大変な事になるだろうが助ける義理もなし。自分で言うくらいなんだ、全部自力でやってくれ。

「最後の情だ。お前が辞める理由までは言わないでおいてやる。俺って優しいだろ?」

「……そうですね」

自分で罠に嵌めておきながら何が優しいというのか。まあ未練もないのでどうでもいいが。

ただ、八重元君の事が気がかりだ。彼も黒沼に嫌われているからな。なので。

「八重元君、君も辞めた方がいい。出来るだけ、なるだけ早く。いつまでも泥船に乗っていたくはないだろう」

そう彼に小声で耳打ちした。

「……そう、ですね。正直 黒沼部長(あの男) の下で働くのは僕も御免被りたいですし」

「君も言うね」

結局、デスク周りを整理し、私物を片付けるのに昼前までかかった。

***

帰宅すると美沙がいた。どうやら出社してる間に帰ってきたらしい。

「あら? 早かったのね。ま、いいわ。これ、記入して頂戴」

テーブルの上に置かれてる緑の用紙、つまりは離婚届だ。これに記入しろと。

それは別に構わない。正直一緒にいたくない。顔も見たくない。ただ……

「当然、慰謝料は払ってもらいますからね」

「は? いやいや、払うのは美沙のほうだろ」

「何馬鹿なこと言ってるの? 離婚するんだから旦那のあなたが慰謝料払う側でしょ? その上でDVの分の慰謝料と養育費ね」

「DVは美沙のでっち上げだろう。それに慰謝料は有責者である君が払うんだ」

「あなた馬鹿なの? 離婚するんだから男の方が有責に決まってるじゃないの」

本気で言ってるのか? 自分はこんな馬鹿女と15年以上婚姻関係を結んでいたのか? 自分の女性の見る目の無さに泣けてくる。

そもそも美沙とは社内恋愛の末、結婚した。当時はこんな美人な奥さんを貰えて幸せの絶頂だった。しかし黒沼の言う通りならこの頃から既に、なんなら結婚前から不倫の関係だったのだろう。

「あと記入したら自分の荷物纏めてさっさと出てちょうだい。ここは私と陽茉莉の家よ。部外者は出ていきなさい」

この女はここが誰の名義で借りてるのか解らないのか? 出ていくのは美沙と陽茉莉の方だぞ。

その事を伝えようとするも、思いとどまる。きっとあーだこーだと難癖付けてくるだろう。

「言っとくけど、この家の家電品は私の物だからね」

それ、全部自分が買ったんだが……

ああいや、もういい。この馬鹿には何を言っても無駄だろう。だから現実を突きつけて痛い目に遭ってもらおう。その方が手っ取り早い。

自分は離婚届に記入したあと、着替え等自分の荷物(当然その中には前日のうちに鞄に入れておいた通帳と契約書も入っている)を纏め。

「離婚届は自分が出しておくよ」

「あら、こういう事には気が利くのね」

長年暮らしてきた家――と言っても賃貸マンション住宅だが――を出るのだった。

***

「はー、やる事多いな。興信所に弁護士に……あ、マンションの解約もしないとな」