作品タイトル不明
同接が二百四十万を超えました。このまま突き進みましょう
モグラ退治を終えた俺たちは、そっからはしばらく順調だった。
下層と呼ばれる階層をどんどん下っていき、多分地下十階くらいまで降りた時、氷堂さんがみんなに声をかけた。
一緒に潜ってて分かったけど、氷堂さんはどんな些細なことにも注意を払う人で、急遽参加した玲奈の様子もしっかり見ている。
こういうマメなところって、やっぱ大事なんだろうなぁ。俺も見習わないと。
「みんな、ここが合流地点だ。他の入り口から入った探索者が一つの通路に集まってくる。モンスターとの戦闘で巻き込まれないよう、注意して進もう」
「うわー、巻き込みとか超勘弁。虎も気をつけなよ」
「俺は大丈夫だって」
「モンスターと間違って、人を殴ったらダメだぞっ」
「誰がそんなことするか。お前こそ魔法当てるなよ」
玲奈はただでさえ、爆発系の魔法を得意としてるわけで。ここでブッパなんてされた日にはとんでもないことになっちゃう。
:もうすでに玲奈様のファンになりそうな自分がいる
:カゲトラくん、もしかして女の子の友達多い?
:嫉妬が、俺の嫉妬が止まらねえよ
:ギャルの友達欲しい
:完全に美男美女の探索者チーム……何も起こらないはずもなく
:許さん、許さんぞカゲ!
:僕にも紹介してください
:なんか急に配信見るの辛くなってきた
:コメント欄めっちゃ嫉妬してて草
なんかチャット欄も平和な感じだなー。ってか、俺は美男じゃないけど。しかも変な空気になってるのは、コメント欄だけじゃない。
「お二人って、すごく仲が良いんですね」
ギャルとのやり取りを聞いてた葵ちゃんが、苦笑しながらこっちを見てる。珍獣同士のじゃれあいに見えてないか不安だ。
「まあ、あたしと虎は大学からだからねー。そこそこ」
「そうだなー。俺もまさか一緒にダンジョンに……ん?」
『闇竜ジャーマが出現しました』
AIミリアの知らせとともに、遥か前方から異様な何かが姿を現した。
すでに多くの探索者がここに合流してきて、かなり広い通路だけどけっこう密集してる。
「え、ま、待ってください。あんなに大きかったでしょうか?」
「……実物はかなり違うな。しかし、あの動きはなんだ」
葵ちゃんが遠間からでも分かる竜の巨体に怯え、氷堂さんは注意深く動きを観察していた。
『漆黒の霧を放つ準備をしているようです。残り十秒足らずで発動します』
「漆黒の霧? 聞いたことがないスキルだ」
氷堂さんの頭に?マークが浮かんでるみたいだ。もちろん俺もなんのことかは知らん。
『周辺に闇竜の瘴気が混じった霧を放出し、敵を弱体化させつつ、周囲にいるモンスター達を突然変異させるスキルです』
「や、やばいっしょそれ! いよっしあたしの魔法で——」
『玲奈さんの魔法は効きません』
「え!?」
他の探索者達が勇敢に闇竜に突撃していくなか、俺たちは戸惑いまくっていた。漆黒の霧なんて情報を知ってる人、他にいるんだろうか。
なんて考えているうちに、黒くてデッカい体から猛烈な霧が放出され、すげー勢いでこちらまで漂ってきた。
なんか霧っていうよりガスっぽいぞ!?
『マジックバリアが有効です』
「葵さん!」
「は、はい!」
氷堂さんの叫びに反応して、葵ちゃんが青い光の壁を俺たちの前に作り出した。霧が壁に阻まれて跳ね返っていく。
「え、マジ? 霧ってバリアで返せんの!?」
「魔法の類ってことなんじゃね?」
「霧のスキルというものは、大抵の場合魔法に属しているんだ。不思議なことにね。奴はここで探索者達を一気に叩くつもりかもしれない」
なるほどー、と氷堂さんの話に頷く俺たち。なんか俺と玲奈だけ素人感が凄い。
そういえばみんな霧で苦しんでる。こりゃ早くしないとまずいな。
「霧がなくなるまで、待ってたほうがいいですか?」
恐る恐る葵ちゃんがみんなに尋ねる。氷堂さんは黙って頷いてた。
でも……。
「この霧、意外といけるんじゃね?」
俺の目から見ると、そんなでもないような。
『はい。景虎様なら特殊な耐性がありますので、問題ありません。被害が広がる前にバリアから出て、モンスターを叩きましょう』
「そっか! じゃあみんな、先にあいつ倒してくるわ!」
いつの間にそんな耐性がついたのか知らないけど、なんか直感的にいける気がしてる。もしくは鎧のおかげとか?
「え、え!? ちょ、待てし!」
玲奈が止めるのを聞いてる場合じゃない。氷堂さんと葵ちゃんもその後何か言ってたけど、この場をなんとかしないと。
俺は青い守りの壁から、一歩踏み出してみた。霧のいやーな感じがするものの、ちょっと臭いくらいで大丈夫そう。
「よし! 行くぞ」
俺は目標めがけてダッシュを始めた。闇竜は倒れてる探索者達を見下ろしているが、まだ攻撃を仕掛ける気配はなさそう。
接近するこちらに気づいたのか、奴は顔をあげた。目が合ってるのかもしれない。角が沢山生えててめっちゃ不気味な顔してるなぁ。
「ん?」
だが次の瞬間、闇竜は口元から何か黒い光を吐き出した。その光が徐々に形を変えていき、やがて巨大な亀へと姿を変える。
それは二メートルはありそうな、デッカくて気持ちの悪い化け物だった。
『アサシンタートルが召喚されました。硬い防御力と高いパワーを併せ持つモンスターです。火が弱点です』
ミリアが説明している最中に、亀のモンスターは襲ってきた。口からなんか黒いのを飛ばしまくってくる。
「おおっと!? なんだなんだ」
避けたり盾で防ぎながら、俺は右に左に動き回る。鈍重そうな見た目とは裏腹に、けっこう反応もいい。
「火が弱点か、ならファイアボールで——」
『ここで竜王斬を試されることをおすすめします』
「竜——あれか!」
Sスキルってやつか。
威力が高いみたいだから、確かに今はそっちがいいかも。俺自体はヘドロみたいなのをかわしてるから大丈夫だけど、他のうずくまってる探索者に亀が近づいてる。こりゃ急がないと。
『はい。今から私がボックスから武器をお届けしますので、跳躍しながら受け取ってください。そのままSスキルを使用しましょう』
「えっと……ちなみにSスキルって、どうやればできるんだっけ?」
一番肝心なこと確かめてなかったわ。でもミリアは冷静な声で、
『剣を受け取り次第、そのまま振り下ろしてください。感覚が掴めるようにサポートします』
「え!? わ、分かった!」
とにかくやるしかない。
そんなこと考えているうちに、亀は探索者の男女二人を今にも食おうとしてる。
『景虎様、まっすぐに飛んでください』
「オッケー!」
言われるがまま、俺はとにかくジャンプ。亀めがけて飛ぶと、前のほうから光る何かが飛んできた。
たしかこれは、大火の剣ってやつだ。吸い付くように剣は俺の手に握られてる。
『思うままに、剣を振るってください』
思うままに? しかし不思議だ。なんだか体が自然と動く気がする。
身体中の力を、一箇所に集めるように集中。振り上げた剣を、ただ無心で下すだけ。
いつの間にか巨大な炎に包まれていた剣は、亀の甲羅に真っ直ぐにぶち当たる。
「お、おお!」
見るからに硬い甲羅は、そうそう簡単に砕けないだろう。そんな予想を裏切るかのように、まるでチーズでも切るみたいに、あっさりと真っ二つになる。
「やったか!?」
亀モンスターが絶叫した。そしてバラバラになり、煙と共に消えていく。
「いや、まだ!」
俺は呆然としていたが、すぐに剣を構えなおした。まだ大将が残ってるじゃん。
だけど、闇竜はじっとこちらを見つめると、吠えながら背中を向けて走っていった。
え? もしかして逃げた? でも吠えてるし……よく分かんねえな。
『漆黒の霧が晴れていきます。景虎様のおかげで、皆さんが助かりました』
「あ、ああ。そっか、あいつがいなくなったから」
俺はよくわからず呆然としていた。ってかチャット欄がえらいことになってる。
:凄い……!
:あのアサシンタートルを一撃かよ
:マジで強すぎるだろ
:おおおおおおお!
:ってか闇竜のやつ、あんな化け物召喚できたのか
:カゲトラーーーー!
:Sスキルの中でも、シンプルかつ破壊力抜群
:もしかして闇竜ビビった?
:カッコいい!
:闇竜のリアクションが気になる
:これはまだまだ潜れるっしょ
:カゲ君だけが対抗できてたな
:イレギュラーが尻尾巻いて逃げたんじゃね?
:トップランカーより強いかもしれない!
:めちゃくちゃ貴重な映像だったよね今の
:このまま闇竜と決着つけてくれ
:もしかしてジャーマの奴、もっと深い地下で決着をつけようとしてるのかな
:これはいける……マジ興奮してきた
:気まぐれで何考えてるか分からないボスだからなんともだけど、脅威は感じてると思う
:みんな助けてくれてありがとー!
:ミリアちゃんのサポート力すごい
:強い強い強い強い強い強い強い強い強い
:ミリアのアドバイスで自然とSスキルが使えちゃう
:はじめて闇竜討伐シーンが見れる!?
:ひえええええええ!
:これは俄然熱くなってきたぞ
「す……すっげえ」
『おめでとうございます。同接が二百四十万を超えました。このまま突き進みましょう』
ま、ま、まじかぁー。同接、こんなに増えてんの?