軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アヒィーーーーーー!?

一体どうなっているのか。

道宗は戸惑いつつも、もう一度壁に背中を預けるようにして息を潜める。他メンバーも同様に彼の周囲に集まり、静かにやり過ごそうとした。

闇竜は鼻息を荒くしながら、何かを探すようにウロウロと歩き回っている。

その様子を遠巻きに眺めながら、アイが囁いた。

「バレてんじゃないの?」

「騒ぐなよおばさん」

「後でぶっ殺す」

ノエル有栖川の一言に、彼女は思わず声を強めてしまう。

すると、ハッとして顔を上げたジャーマが、ゆっくりとこちらに迫ってきた。

道宗は間抜けな二人を睨みつけ、極々小さな声でこう伝える。

「喋るな。そして何があっても動くな。ここはやり過ごす」

ふと、荷物係と補助要員は思った。このモンスターは目が見えないのだろうか、と。

薄暗いとはいえ、この通路は人間には充分に視認が可能である。しかし闇竜は、匂いや音だけを頼りに動いているように見えた。

深すぎる闇にいたせいで、視力が退化しているのだろうか。しかしだからこそ、匂いや音には敏感なはず。

彼らの予想が当たっているのかは、この時点では分からない。とにかく確かなことは、禍々しい巨体がすぐそこまで迫ってきていること。

(これマジで大丈夫なわけ? あたしの魔法を喰らわせて終わらせれば良くない?)

(今こそ俺が活躍すべきだ。できれば葵の前で倒したかったけど)

(ち、近い。まさか狙いはこの道宗か?)

とうとう竜は、チーム袋小路の目前までやってきた。鼻を動かしながら、執拗に匂いを嗅いている。

(大丈夫……大丈夫だ。俺の体にはあのスプレーがふんだんにかけられている。バレるはずがない。バレるはずが……な、なに?)

神の仕業か、悪魔のイタズラか。または道宗のあまりにキツい加齢臭が原因か。

なんと闇竜の鼻先が、ぴたりとチーム袋小路の社長に触れていた。明らかに何かを検知しているらしい怪物の鼻が、ヒクヒクと彼の全身を探る。

(あ、あああ……! こ、このままではぁ——)

他メンバー達は、あまりにも不気味な顔が目の前にあり、恐怖を隠しきれない。

しかしこの状況で、最も震えているのは社長だ。

(こうなれば俺の、袋小路必殺スキルを——い、いや待て! まだ頃合いではない。ここはまだ戦うべきではないのだ。はうっ!?)

迷いの最中にいる男は、闇竜のあまりにも唐突な行為に震え上がった。なんと、鋭く大きな歯で、優しく彼を挟んだのだ。

道宗の腹から上は、今や闇竜の口の中である。下水道のような匂いが喉の奥から漂ってきた。

(こ……こ……この道宗を、甘噛みだと!? まずい、いくらなんでもこれはまずいぞ! というかお前ら、さっさと俺を助けろ! 何してやがるんだぁ!)

社長が未曾有の危機に陥っているというのに、周囲はまったく静かなままである。口の中に体が半分埋まっているので、彼は周りがどうしているのか確認することができなかった。

そして直後、とうとうジャーマが大きな動きを見せる。優しく歯で挟んだまま、大きく顔を上げた。天井を見上げるようにして、かつ少しだけ歯にチカラを入れる。

「アヒィーーーーーー!?」

恐怖が限界を超えた道宗は絶叫した。この時、彼の体からは汗と涙と小便と、あらゆる液体が放出された。

闇竜は道宗の汁が相当嫌だったのか、すぐに口から乱暴に吐き出す。続いてペッ! ペッ! と口の中に入った汁を吐き出していった。

「待ってこれ! チャンスじゃん?」

地面に叩きつけられた社長を心配することもなく、アイが興奮気味に魔法の準備を始める。

「チャンスっすよ! 多分このモンスター、目がよく見えないんです。社長の臭い匂いでやられている今なら!」

カメラ係兼荷物持ちの女が、目を輝かせながら失礼なことを口走った。補助係の男は、怪訝な顔で武器を構えながら固まっている。

「ふっ! 教えてくれてありがとう。俺が終わらせるよ」

ここ一番で勝負に出たのはノエル有栖川だ。自慢のルックスを見せつけるかのように一度構えを取った後、優雅に跳躍した。

彼は以前、無駄に遅いジャンプ攻撃をしたことで、ビッグトロールにホームラン級の一撃を喰らって敗北している。

しかし今回はそのような心配はない。相手は目が不自由なようだ。こちらの動きなどわかる筈がない。

だから有栖川は飛んだ。これ以上ないほど対空時間が長く、美しい飛翔をまざまざと見せつける。

闇竜はようやく汚い汁を吐き出すと、目前に飛んできた蝿のような何かを見た。

「え?」

明らかに目が合っている? そう思った時にはもう遅い。

巨大な前足が、飛んで火に入る夏の有栖川を引っ叩いていた。ズゥン、という鈍い音がした後、ジャーマはその場から離れていった。

「あ……あ、ああ」

地面に埋もれた有栖川は鼻血を吹き出し、全身をピクピクとさせつつ、ただぼんやりと天井を見上げていた。

「す、すいません! 見えてたみたいです!」

荷物持ちの女が今更ながらに叫ぶ。

「お、おい! なぜかあいつ、合流地点に向かっていくぞ」

続いて補助係の男が怯えながら言った。二人はこの危機に、闇竜自らが去っていってくれることに安堵を隠せない。

酷い状況だが、幸いにもチームに死者は出ていない。良かった……と胸を撫で下ろした時であった。

「き……タァー! あたしのとっておきぃいい!」

しかしチームの中心であり、最もネジが外れているアイには、この状況がチャンスに映ったらしい。

「ちょ、やめてくださいよアイさん。あたし達、このままじゃ」

「そうですよ! 魔法なんて」

「あーもう、黙ってろ! あたしのアイ・超絶フレアが発動すれば、倒せる相手なんだから」

アイはカメラが回っていない時は、非常に口が悪い。この時も必死に止める二人を振り払いつつ、溜めきった魔力を頭上に放出していった。

アイ自身を覆い尽くすほどの爆発エネルギーが、今放たれようとしている。

二人はここまで魔法が出来上がった以上、止めるほうが危険と判断し距離をおいた。

「どっちでもいいからカメラ回せ! いっけえーーー! アイーーー超絶ぅうう」

闇竜ジャーマは呑気に背中を向けたまま、彼女達から離れていく。

「フレッアッーーーーーーー!」

まさに全身全霊。アイの持つ魔力全てを結集して放たれた超爆発魔法が、見事に闇竜の背中——の近くにある尻尾に弾かれた。

自らが作り上げた強大な爆発魔法。それがなぜか尻尾に触れても爆発が起こらず、真っ直ぐにこちらに返ってくる。

「へぇ!? う、嘘。ま、魔法が——ああああーーー!」

自らの魔法を跳ね返されたアイは、爆発により盛大にぶっ飛ばされそのまま失神した。

気まぐれな闇竜は、何事もなかったかのようにその場を離れていく。

しかし五十メートルほど先まで進んだところで、一度だけ背後を振り返った。

道宗達をじっと見つめた後、また背を向けて合流地点へと進む。謎の行動ばかりのモンスターが暴れ回るのは、むしろこれからであった。