軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

静かにしろ……闇竜が来たぞ

景虎達が消耗を抑えながら着実に進むなか、チーム袋小路は風の如く走り続けていた。

「イェーイみんなー! あたしの疾風配信、楽しんでるぅ?」

アイはあくまでにこやかに、いつもの探索と変わらない余裕を見せている。

「はっははー! 当たり前だろ。俺たちの配信が、くだらねえわけがねえ。なんといっても、今進行度一位だぞ! この道宗が加わっただけで、このスピードだ!」

社長である道宗のアピールは止まらない。そんな姿を、少し後ろに続いていたノエル有栖川が呆れた顔で眺めている。

他に回復と補助役の男、カメラ係兼荷物持ちの女という五人でチームは進んでいる。

ちなみにこのカメラ係というのは道宗専門であり、他のメンバーは配信機材を使っていた。道宗だけが配信機材の使用を面倒くさがったので、彼女は荷物持ちと併用して配信もすることになってしまった。

今は下層の中盤に差し掛かろうという地点だ。モンスター達も当然強くなっている。

:アイ姫ー! 今日も眼福です

:いつになく飛ばしてるけど大丈夫?

:今日のチーム袋小路は一味違うな

:どこまでこのペースで行くんだろ?

:まさかダンジョンの最奥に到達しちゃうのか

:ノエルがんばー!

:今日すっごい速いよね

:バテないのかこれ?

:社長のオーラ半端ないな

:行け行けーい!

コメントも最近の配信にしては多いほうである。アイの登録者数の上昇は止まり、緩やかに下降を続けていたが、今回ばかりは上り調子に見える。

人気が落ちていたのはアイだけではない。チーム袋小路全体が落ちている。それは配信がほぼ変わり映えしないことや、他に人気の配信者が溢れていることが要因であった。

(今日でてめえら雑魚配信者を、あたしがぶち抜いてやるからな。覚悟しとけ)

彼女は笑顔の裏で、煮えたぎる嫉妬を抑え続けている。何より嫌いな葵や、自分よりも若くて人気のある配信者を潰すため、今は道宗の企みに乗っているのだ。

「おっと! そろそろ合流地点だね」

数分ほど走り続けた後、リザードマンを切り倒した有栖川がわざとらしく声をかけた。

合流地点とは、多数ある入り口からの通路が一箇所に重なる地点であり、ここからはみんなが同じ通路に進むことになる。

異様なまでに全速力で突き進むチーム袋小路は、誰よりも早くこの場に到着していた。

ここで最前列にいた道宗が、少しずつ走る速度を落としていく。そしてカメラ係の女の肩をさりげなく叩く。

「あれー? なんかカメラが、あれあれー?」

すると女が慌てた声を出しながら、数秒後にカメラを止めてしまった。他のメンバーもカメラを一時的に止め、あれだけ急いでいた足を緩めた。

「はあ……はぁー! だっるい! あたしの化粧取れたらどうすんの」

「取れても変わらない。シワが多少増えるだけだ」

「んだとロリコン」

「お前ら! 喧嘩なんてしてないで急げよ。さっさと餌をまけ」

道宗はリュックの中に入れていた、奇妙な紫の肉を通路に落としていく。

アイやノエルも同じように肉を撒きながら奥へと歩いていった。

「く、くくく! これで準備はできたぞ。もしイレギュラーが起きたら、俺たち以外は全滅だ!」

「ねえ社長、闇竜ジャーマって本当にこんなとこまで来るんです?」

「ああ、イレギュラー頻度ナンバーワンの化け物だぞ。一回くらいは気まぐれでやってくるだろ」

「こっわ! あんなの向かってきたら最悪っしょ。でも、本当にあたし達だけは、やられないってことであってますよね?」

アイの質問に、道宗は豪快な笑みと共に答える。

「当然だ! 俺たちは闇竜が存在を認識できなくするスプレーを、しっかりかけているんだからな! これは俺たちだけが手に入れてる秘密兵器。もはや恐れるものなど何もないぞ」

アイや道宗が口にしている、闇竜ジャーマとはこのダンジョンに現れる巨大ボスのことである。

本来は深層より地下に登場するはずだが、どういうわけか下層や中層にまで現れることで知られていた。

その姿はゆうに十メートルを超え、四足歩行で歩き回るずんぐりとした巨体の持ち主だ。

そして巨体に似合わぬ動きで敵に噛み付くこともあれば、多くの魔法を操ることもある。

謎に包まれた存在であり、これまで一度も倒されたことがない。ダンジョン組合が今回闇竜の魔窟をイベントの舞台にしたのは、ジャーマの生態を調べるためだという噂があった。

しかしある時、道宗は有力な情報筋から驚愕の噂を耳にした。闇竜は魔牛の肉と呼ばれる青黒い肉が大好物であり、何キロ離れていても匂いを嗅ぎつけ、その場に現れるのだという。

道宗は一つの方法を考えた。闇竜を倒すよりも、まずは利用するだけ利用してはどうかと。

つまり、自分たちがいち早く合流地点に辿り着き、誰しもが通らざるを得ない通路に魔牛の肉をばら撒く。

あとはやってきたジャーマと探索者達を戦わせる。そしてジャーマが弱ったところで、華麗にトドメをさし探索界のヒーローになる。

道宗が描いた図はそういうものだった。だがアイもノエル有栖川も、他のメンバー二人でさえも半信半疑であった。

しかし、アイは楽観的だ。結局はなんとかなると考え、スキップでもしそうな勢いで進む。

「さぁてと! そろそろ下層も終わり。もう配信再開しても、」

「アイ、静かにしろ……闇竜が来たぞ」

社長の声に緊張が感じられる。まさかと思い前を向くと、漆黒の闇が蠢いていた。何かが迫ってきている。あまりに巨大な何かが。

「壁に寄れ」

道宗は小声になり、自らが真っ先に壁に背中を預けて息を潜めた。他の四人も同じようにして横一列になった。

足音が大きくなっていく。それが近づくほどに、地震に似た振動が起こる。

ずんぐりとした胴体に不釣り合いな翼を持ち、長い首と肉食獣のような牙を持つ。黒い体は得体の知れない不気味さに満ちている。

四足歩行の巨大モンスター、闇竜ジャーマが堂々と彼らの横を通り過ぎていった。

この化け物は何度も探索者の配信に登場している。だからチーム袋小路のメンバーも、画面越しでは目にしていたものだ。

しかし、実際に現れた時の恐怖感は、想像を遥かに超えるものであった。アイは十歳ほど老けた顔になり、ノエルはプルプルと震えている。

他のメンバー二人もまた、予想以上のプレッシャーに恐れをなしていた。しかし、道宗だけは見たところ悠然としている。

(ふ……ふふ。上手くいったぜ。この道宗、あんなことをやっちまったからには、ここで終わるわけにはいかんのだ)

有力な多くの探索者が、突然今回のイベントに参加できなくなった理由は、実はこの男にある。

しかし同時に道宗は、確実に結果を残さなくてはいけなくなった。しでかしたことの大きさは、ちょっとやそっとの成果で割に合うものではない。

「よし……お前ら、静かに行くぞ」

「ちょっと待ってください。戻ってきてませんか?」

社長の指示を受けたノエル有栖川は、慌てて闇の向こうを指差した。

彼の発言は当たっていた。確かに通路の奥へと消えたはずの闇竜が、なぜかこちらに戻ってきたのである。

アイ達の悪夢が始まった。