作品タイトル不明
え? あたしできますよぉ
だがしかし、氷堂さんが青い顔になってスマホと睨めっこしたり、電話したりする姿を見て、一抹の不安が過った。
「これは参ったな。残りのチームメンバーが来れなくなってしまったよ。一体どういうことなんだ。とにかく、在籍の他メンバーに声をかけているから、待っていてほしい」
不安が的中というか、このタイミングでドタキャン!?
ちょっと酷いというか、あと三十分もしないうちにイベント始まるけど。
ダンフェスは、スタート時間を過ぎてからのメンバー変更は、原則として認められていない。チームが減っちゃった場合、スタート時間までに補充できなかったらその人数で行くしかないわけで。
氷堂さんは何かあった際のメンバーも用意していたんだが、なぜかその人達とも連絡が取れないらしい。
そんな中、葵ちゃんが周囲を見回して戸惑った顔になってた。
「私達だけじゃないみたいですよ。他の皆さんも、みんな困ってるみたいです」
「え? あ、ホントだ」
よく周りを確認してみると、他のチームメンバーもスマホを見ながら騒いでた。怒鳴り声や泣きそうな声が聞こえてくる。
どうなってるんだ……と思っていた矢先だった。
「虎ー! ここにいたんだ」
「お? おはよう!」
俺にとって唯一と言っていいギャルの友人、霧雨玲奈がお気楽ムードでやってきた。周りとの空気感の違いが一目瞭然だ。
「あ、景虎さんのお友達ですよね。初めまして、私葵っていいます」
「おーー! すっご! めっちゃ有名な子じゃん。もち知ってるよ。あたしは玲奈、よろしくね」
葵ちゃんがペコリと挨拶したところ、ウェーイと叫びそうなテンションで絡み出すギャル。
葵ちゃんを少しのあいだ翻弄した後、玲奈はこっちをじっと見て、実にめんどいことを言い出した。
「え? ちょっと待って。ねえ、何そのカッコ」
「ん? 鎧だけど」
「ウケる! コスプレじゃーん!」
こ、こいつ。俺がもしかしたらイジられるかもと思って気にしていたことを。ちなみに玲奈は黒のダンジョンスーツを着ており、なんとなくスタイリッシュでムカつく。
「何それ? おでこのそれも新調したの? マジRPGっぽいよ」
「これでサブスクがパワーアップしてんの」
「世界救っちゃう感じ?」
「救わねーよ。自分の生活で精一杯だわ」
「救え救え。ついでにあたしも救ってよ」
「頑張れ。お前は誰にも救えねえわ」
「ってか聞いてよー。あたしのチームさ、急に全員来れないとか言い出しやがったし」
この一言にはマジでビックリ。実質ソロじゃん。
「え? なんか今日多いよな。ってかどうすんの?」
「んー……どうしよっかなー」
『お一人で潜られるのは危険です。本日はお帰りになられるか、公園モニターで鑑賞されてはいかがでしょう』
「わ!? ビビったぁー。ミリアだっけ?」
突然のAIカットイン。まあ確かに参加するのは危ないよな。
「でもさ、ここまで来て見てるだけー? マジ退屈なんだけど。あ、そうだ虎! あたしまたレベル二個上がったよ。凄くない?」
そういいながら探索者カードを見せてくる玲奈。確かに上がってるし、強くなってるみたい。
「ってか虎は? めっちゃ鍛えまくってたよね。鬼強になった感じ?」
う……やべ。この流れは危険すぎる。
「いや……変わってねえよ」
「ね、見せてよ」
「見てもつまんねえよ」
「えー、いいじゃん。あたし見せたっしょ。ね、ね?」
「いやいや、やめようぜ」
葵ちゃんが隣で苦笑してる。俺はなんとしてもあの世紀末的状態となった探索者カードを、このギャルにだけは見せるわけにはいかない。
「見たい! えい」
「え!? ちょ、」
スッと懐から探索者カードを奪い取る玲奈。なんで俺がカードを隠してる場所が分かるんだ? 超能力かよ。
「え、え、え? 何これーー! ぷ、ぷぷ」
あー始まったこれ。予想したとおりに吹き出しとる。
「何これ! すっごいウケるー!」
そして笑いながらバン! と俺の肩を叩いてくる。
「ヒェッ!? バカやめろ! 死んだらどうするんだよ」
俺の体力がどうなってるか、俺でも分からないってのに!
見た目上は体力1なんだぞ。
「さっすが虎は大物だわ。あーマジ笑った!」
「二人とも、どうやら他のみんなも——おや? こちらの方は?」
暗い表情でやってきた氷堂さんが、玲奈と初対面。一応紹介しておくか。
「俺の大学からの友達で、玲奈っていうんです」
「あ、知ってるー! ランカーの氷堂さんですよね。よろでーす!」
「そうだったのか。初めまして。……ところでまずいことになったよ。有力なメンバーと連絡が取れない。こんな事態は初めてだ。この編成で行くのは、少々不安要素がある」
ここ一番の大イベント当日に、こんなに連絡が取れないっておかしくないだろうか。何が起こってるんだろう。
氷堂さんも困惑しきりな様子だ。しかもイベント開始まで十分もない。けっこうピンチかも?
「せめて攻撃魔法でも使える人が増えてくれたら、楽になると思うのだが」
「え? あたしできますよぉ」
『……!』
え? なんだこの流れ。ミリアも反応したような……いや気のせいか。
「ん? そうなのか」
「そうだ! 良かったらあたし、こっちチームに乱入しちゃおっかな。ね、いいっしょ?」
「いや、俺に振られても」
マジかよ。氷堂さんも「おお!」とまんざらではないリアクション。ちなみに葵ちゃんも「本当ですか!」と嬉しそうな反応しちゃってる。
「もし良ければだが、探索者カードを見せてもらうことは可能かな? もちろん僕のカードも見せよう」
「はーい。うわえっぐ! ガチ強じゃん!」
探索者カードを交換するなり、ビビりまくる玲奈。やっぱランカーは違うんだろうなぁ、としみじみ感じていたら、氷堂さんの顔が戸惑い100%状態に。
「こ、このカードは……か、景虎君……か?」
「あ、すいませーん。間違えちゃいました。こっちです」
「おい! やめろアホ!」
なんで俺の探索者カード見せてんだよ。間違えられたし、今は誰にも見せたくない状態なのに!
ずれ落ちそうなメガネを抑えながら、氷堂さんがドン引きな顔でこっちを見てる。やべー、ここに来てチーム降ろされないだろうな。
「なんということだ。恐らく景虎君、君の力は今のギルドでは測れないかもしれない。……いや、それよりも今は玲奈さんか」
あれ、なんか前向きな反応されてる。そうだといいんですが。
「……うむ。十分な実力を有しているね。むしろ僕からもお願いしたい。報酬は協力してくれた分、多めにお渡しする。今回はチームに加入してもらえないだろうか。二人も、いいかい?」
「はい! とっても心強いです」
「あ、はい。いいんじゃないですかね」
「ちょっと虎ー、何その反応。もっと喜べよー」
といいながらグイグイくるギャル。いや、急にそんなこと言われても。
まあでも助かると言えば助かるのか。
『ダンフェスの開会式が始まります』
「お、もうそんな時間か!」
そんなやり取りをしているうちに、気がつけばダンフェスが始まろうとしていた。